母親と、近所のスーパーで買い物する。昔から、母親は買い物するときあまり躊躇せずに欲しいものを買い物カゴに入れていく。父親もそう。そして、二人の血を受け継いだ僕も同じだ(先立つものがないのでかなり制限されているが)。そんなに裕福な家庭でもなかったはずなのに。当時の母親を突き動かしていたのは、おそらく三人の子どもにたくさん美味しいものを食べさせたいという気持ちだったのだろう。食材を選んでいくときのそのテンポのよさが今も変わらないように見えるのは、当時の名残なのかもしれない(実は、単に母親の食い意地が張っているだけという気がしないでもないが...)。レジではちょっと息子風吹かせて、支払いをする。老いたる母にお金を使わせるわけにはいかないのだ。今まで、この何万倍も、お世話になってきたのだから。
家に戻る。あらためて家の中を見回すと、いろいろなモノがある。子どものころから変わらずにあるモノには懐かしさを覚える。なんでもない置物とか、本棚にずっと鎮座している百科事典とか、食器とか、爪切り入れとか。逆に、新しいモノからは今は知らない父と母の今の生活が伝わってくる。新聞の切り抜き、生けたばかりの花、可愛らしい人形。日々を生きるということは、毎日変化していくということだ。それにしても、ゴチャゴチャとたくさんのモノがある。還暦を過ぎても、いっぱいのおもちゃに囲まれて毎日を楽しく過ぎている子どもと、基本的には何も変わらない。そんな気がしてくる。油絵が趣味の母親の絵を見せてもらう。もうすぐ展覧会があるらしく、そこに出展するいくつかの作品を鑑賞した。作風は、昔と変わってない。人って、変わらないものなのだ。
驚いたのはカブト虫の幼虫がいたこと。母親が嬉しそうに見せてくれた。ベランダに置いた鉢にエサとなる腐葉土を入れ、そこに25匹ものイモ虫たちが暮らしていた。僕も昔同じようにカブト虫を卵から成虫まで育てたことがある。幼虫は腐葉土をたくさん食べるので、何度か入れ替えてあげると、だんだん大きくなり、こんがりとした茶色のさなぎになって、やがて美しきカブト虫に変身するのだ。この幼虫、花か何かを鉢ごと買ったら土の中にいたので、育てることにしたのだそうだ。母親の意外な側面を見た(まさか、食用に飼っているのだとは思いたくはないが......)。
本棚を物色する。母は、林芙美子、樋口一葉、長塚節などが好き。母親のエッセイの先生によると、川端康成は、「文章の達人」なのだそうだ。そういわれると読みたくなってしまった。隅っこの一冊の背表紙から「山頭火」という文字が目に飛び込んできたので「へぇ、三頭火、好きだったんだ」。と言ったら、山頭火は人間的にだらしないところがあるからあまり好きではないのだという。俳人で好きなのは、尾崎放哉なのだと。吉村昭が尾崎のことについて書いた『海も暮れきる』という作品がいいのだそうだ。これは読まなくては。
父親が仕事から帰ってきて、しゃぶしゃぶを食べながらいろいろと話をした。ビールを飲み、赤ワインを一本空けた。父親はやはり、八時半になったら眠りに落ちてしまった。そのまま、母親と話を続け、そして夜は更けていったのだった。
久しぶりの息子の帰省にスーパーのカゴいっぱいの過去蘇り
家に戻る。あらためて家の中を見回すと、いろいろなモノがある。子どものころから変わらずにあるモノには懐かしさを覚える。なんでもない置物とか、本棚にずっと鎮座している百科事典とか、食器とか、爪切り入れとか。逆に、新しいモノからは今は知らない父と母の今の生活が伝わってくる。新聞の切り抜き、生けたばかりの花、可愛らしい人形。日々を生きるということは、毎日変化していくということだ。それにしても、ゴチャゴチャとたくさんのモノがある。還暦を過ぎても、いっぱいのおもちゃに囲まれて毎日を楽しく過ぎている子どもと、基本的には何も変わらない。そんな気がしてくる。油絵が趣味の母親の絵を見せてもらう。もうすぐ展覧会があるらしく、そこに出展するいくつかの作品を鑑賞した。作風は、昔と変わってない。人って、変わらないものなのだ。
驚いたのはカブト虫の幼虫がいたこと。母親が嬉しそうに見せてくれた。ベランダに置いた鉢にエサとなる腐葉土を入れ、そこに25匹ものイモ虫たちが暮らしていた。僕も昔同じようにカブト虫を卵から成虫まで育てたことがある。幼虫は腐葉土をたくさん食べるので、何度か入れ替えてあげると、だんだん大きくなり、こんがりとした茶色のさなぎになって、やがて美しきカブト虫に変身するのだ。この幼虫、花か何かを鉢ごと買ったら土の中にいたので、育てることにしたのだそうだ。母親の意外な側面を見た(まさか、食用に飼っているのだとは思いたくはないが......)。
本棚を物色する。母は、林芙美子、樋口一葉、長塚節などが好き。母親のエッセイの先生によると、川端康成は、「文章の達人」なのだそうだ。そういわれると読みたくなってしまった。隅っこの一冊の背表紙から「山頭火」という文字が目に飛び込んできたので「へぇ、三頭火、好きだったんだ」。と言ったら、山頭火は人間的にだらしないところがあるからあまり好きではないのだという。俳人で好きなのは、尾崎放哉なのだと。吉村昭が尾崎のことについて書いた『海も暮れきる』という作品がいいのだそうだ。これは読まなくては。
父親が仕事から帰ってきて、しゃぶしゃぶを食べながらいろいろと話をした。ビールを飲み、赤ワインを一本空けた。父親はやはり、八時半になったら眠りに落ちてしまった。そのまま、母親と話を続け、そして夜は更けていったのだった。
久しぶりの息子の帰省にスーパーのカゴいっぱいの過去蘇り