イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

28年ぶりの島根県浜田市再訪記 ~君の唄が聴こえる~ その37

2009年10月11日 23時59分06秒 | 旅行記
庭でのバーベキューを終了し、部屋に上がってさらに宴会は続いた。柱時計を見ると、すでに時刻は十時を回っていた。

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※注:そのとき酩酊状態にあった僕の記憶は、この辺から途切れ途切れになっています(笑)。ここからは主としてエイコちゃんへの電話取材から得た情報を元に執筆しています。
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みんなで車座になって話を続けた。今日はマキちゃんの誕生日だ。昼間ショッピングセンターで買ったケーキを前にして、ハッピバースデーの歌を歌った。マキちゃん、おめでとう。そして、二日前に同じく誕生日だった清君に対しても、みんなでハッピーバースデーの歌を歌った。清君、おめでとう。

僕は五月にすでに今年の誕生日を終えていた。昭和四十五年生まれの僕たちは今年、三十九才になる。信じられないけど、時間だけには誰も逆らうことはできないのだ。だけど同い年だからか、みんなといるとあんまり年のことは気にならない。お互いの子供時代を知っているからこそ、よけいに自分たちがまだ子供であるような、子供でいてもいいような気がする。あの頃の自分たちは、いつかこんな年齢になるなんてことを想像できなかった。今、実際にそんな年に達しても、人生はまだまだこれからだと、そんな気がする。そう思えるのは、この場にいる限り、きっと本質的なところで僕たちがあの頃と何も変わっていないことを信じられるからだ。今夜は、強くそんな気分にさせられる、特別な夜だった。

にむしの話が止まらない。今回は残念ながら参加できなかった元佐君というクラスメイトがいたのだけど、彼がいかにこの遊びの達人であったかという話題がなぜか異常な盛り上がりを見せた。小柄な元佐君が、野ウサギのようにジグザグに素早くダッシュし、ボールを当てられそうになるとムササビのようにジャンプしてそれをかわした。その光景が、僕たち男子の間に強烈によみがえってきた。あれはすごかったわ、ガンサはものすごうジャンプしよったろう、自分の背丈以上の高さまで跳ねあがっとったけえ。今度またガンサを入れてにむしをやろう、思い切りボールをぶつけてやるけえね、きっとえらい盛り上がるわ。

そんな話をひたすらに男子は続けていた。その他にもいろいろ話題はあったはずだが、やはり30年近くぶりのにむしはそれだけ元少年たちの心に大きなインパクトを与えたということなのだろうか。ちょっと話が他の方向にいっても、すぐにまたにむし話に戻ってくるので、またその話しとんか、とエイコちゃんがあきれて言った。ともかく、酒は注がれ続け、酔いはしたたかに回り、話は一向に止まることなく延々と続いた。

台所で、お母さんが何も言わず黙々と後片付けをしている。その後ろ姿に、何とも言えず暖かいものを感じだ。お母さん、ありがとう。僕はプラスチックのバットを振り回し、今度にむしをするときには、このバットでジャンプした元佐君をたたき落とす、とかなんとかわけのわからないことを口走っていた。危ないなあ、と由美ちゃんが言った。台所で、なんだかよくわからないけど、エイコちゃんがバッター、僕がキャッチャー、マキちゃんが審判のポーズをして、タバサさんに写真を撮ってもらった。今回たくさん撮った写真のなかでも、特にお気に入りの一枚だ。まさかふたりとこんなに打ち解けて、こんな冗談みたいなポーズをして写真が撮れるなんて、来る前は思ってもいなかった。メールでも僕は敬語を使い続けていたし、電話をかけることすら緊張してできなかったのに。

気がついたらもう十二時になっていた――そろそろ、帰らなくては。

エイコちゃんのご近所のみなさんには、遅くまでワイワイ騒いで迷惑をかけてしまった。お父さんお母さん、何から何まで本当にお世話になりました。どんちゃん騒ぎしてごめんなさい。みんなまた会おうな、全員の住所とメールアドレスをマキちゃんがまとめてくれて、携帯に送ってくれた。「二虫会ご一行様(名簿)」メールの件名には、そう記されていた。

近所の人は歩きで、遠くから来ていた人はタクシーや迎えの車に乗り込んで、それぞれ岐路に着く。最後に写真を撮った。全員での記念写真。コマッキー、ヒロシ君と肩を君でのスリーショット。その後、僕はヒロシ君と新婚旅行のカップルみたいに熱烈に抱き合ってツーショットの写真を撮った。お互いの身体をまさぐり合うようなあまりの密着度に、周囲からどよめきが起こった。かなり危ない写真だった。ヒロシ君、思いがけず君に会えてめちゃくちゃ嬉しかった。こんなに久しぶりにあったのに、自然と昔のことを話し合えて最高の気分だった。コマッキーと固く握手を交わした。こっちゃん、明日何時頃帰るん? オレ車で送っていくけえ。ありがとう、でもまだ時間は決めてないから、どうなるかわからないし、気持ちだけ受け取っとくよ。言葉少ない彼が見せてくれた優しさにグッと来た。また会おう。可愛い奥さんと娘さんを大切にして、仕事、頑張ってくれ。

そうだ、ついにみんなとのお別れの時がやってきたのだ。

紀ちゃん、魔物に気をつけて帰ってね。景山先生との楽しいひとときを一緒に過ごせて夢のようだった。お母さんとの楽しいひとときをありがとう、オレもたまには京都に帰るから、そのときは食事でも! タバサさん、素敵な写真をありがとう、生涯忘れられない思い出になったよ。娘さんにも会えてよかった。これがコマッキーとタバサさんの愛する娘さんなんだって、しみじみと可愛いりおんちゃんを見つめてしまったよ。会えて本当に嬉しかったです――どさくさに紛れてタバサさんと熱い抱擁を交わした。そしてマキちゃん、君への感謝は言葉にできない。本当にありがとう、また会おうね、手を握りしめて言うと、うん、でもうちは明日もこっちゃんを見送りに行くけん、と言ってマキちゃんが微笑んだ、ええ、そんな、ええのに。いいや、見送るけん、また明日ね。ほろ酔いではあっても、強い目力(めじから)で、何かを僕に伝えるように、あるいは自分自身に言い聞かせるようにして、彼女はそう言った。わかった、ありがとう。じゃあまた明日ね!

清君、本当に、本当にありがとう。別れは寂しいけれど、でも絶対にまた会えるという気持ちの方が強くて、しめっぽい気持ちにもならない。それくらい、暖かく強い絆を感じることができたから。君が昔とちっとも変わっていなくて、本当に嬉しかった。最愛の靖子さんにもどうぞよろしく! また来るけん。かぺ君と固い握手をした。わし、こっちゃんの東京の家に魚送る気満々やけえね、ええ、そんな気ィつかわなくてもええよ! いやいや友人に魚を送るんはかぺ家の伝統やけえね、潜ってとったサザエを送るけえ楽しみにしといてね、こっちゃんと会うの、これが最後やとはまったく思っとらんけえね、また必ず帰ってきんさい。うん、かぺ君も東京に遊びに来てね、本当にありがとう。昔と同じだ。君があまりにも愛すべき存在なので、僕はもうどうしていいかわからないよ。ありがとう、ありがとう、ありがとう。

みんなと手を振って別れた。ぽっかりと心に穴が空いたような気がした。寂しかったけど、でも、心の底から寂しいとは思わなかった。これは「別れ」ではない。いつか近いうちに会えることを知っている者同士が交わす「バイバイ、またね」なのだ。小学生だった僕たちが、夕暮れ時に元気よく手を降って別れたときと同じような。

由美ちゃんとエイコちゃんと僕の三人だけになった。由美ちゃんを送っていくことになり、僕も女性だけでは危ないからということでついて行くことにした。しかしながら、酩酊していた僕はむしろ彼女たちを守るというより、彼女たちに守られながら前に進んだ。

ごく近くに住んでいるはずの由美ちゃんの家に着くまでに、いろんなことを話した。というのも、途中で僕が座り込み、延々と話しを続けたからだ。僕は熱く喋った。浜田という地元に住んでいる友達、あるいは地元に深く根ざしている友達は、みんな大人に見える。僕だけがまだ子供で、大人になりきれていないんだ、故郷を持たない自分が寂しいよ――そんな話を、僕はふたりに語り続けていたらしい。なして? そんなことないやん、こっちゃんだって十分立派な大人になっとろうが、エイコちゃんはそうやって慰めてくれていた。僕は友達と会えて本当に、純粋に、嬉しかった。友達が、浜田という土地を愛し、浜田という土地に守られて、たくさんの仲間に囲まれて暮らしていることを知って、とても嬉しかった。だけど心の中では、少しだけ寂しさを感じていたのかも知れない。彼らと、彼女たちと、この場所で同じ時間を過ごせなかったことを、後悔していたのかもしれない。もちろん自分でもそんな風に思っていることはわかっていたけど、そんなに熱く語り続けていたなんて、後でその話を聞かされて、なんだかとても恥ずかしかった。ともかく、ふたりには迷惑をかけてしまった。本当にごめんなさい!

由美ちゃんの家の近くに来た。由美ちゃん、君が僕のブログを見つけてくれなかったら、今回の旅はありえなかった。本当にありがとう。賢治の風の又三郎、帰ったら読むよ。うん、ブログ楽しみにしとるけえ、頑張って書いてな、じゃあね! おう、書くで、鹿児島にも遊びに行くからね! 酔っぱらっていて、すまん! 

エイコちゃんとふたりで彼女の家に向かった。今日もエイコちゃんには、長い一日を付き合ってもらった。エイコちゃん、今回はホント世話になったよ、感謝してる。最高だったよ。エイコちゃんはまだ酔い覚めやらぬ僕を上手くあしらいながら、玄関につくと、もうお父ちゃんとお母ちゃんは寝とるけえ、静かにしてね、二階に行って早う寝んさい、布団はひいてあるけえね、と言った。うん、おやすみ。小声で言った。

廊下を忍び足で歩いて、階段を上り、かつてお兄さんが住んでいた部屋に入ると、布団の支度ができていた。お母さん、ありがとう。今日も本当にいろんなことがあった。横になっても、まだ頭がクラクラする。あまりにも多くの三日間の出来事が、頭のなかでグルグルと渦巻くようにして回っている。天井に貼られた「コーク大好き三原順子」のポスターを見つめながら、今晩もまた、深い眠りに落ちた。浜田最後の夜が更けていった。

第4章 「宴」~完~

(続く)

始めから読みたいと思ってくださった方は、どうぞこちら(その1)からご覧ください~!



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11 コメント

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その時の原住民  第三夜 (かぺ)
2009-10-12 19:30:32
原住民達は今日も飲み明かした。
思えば3日間飲み続けている。忘年会シーズンでもこんなに連チャンはしないだろう。ワインの味なんてもう解りゃしない!(かぺ=ワインの方程式が皆に出来つつあるが、何を隠そう私は焼酎好きなのだ)

今回の28年ぶりの再会は、如何に生き、如何に歳を取ったかの「人生の中間発表」のような気がしていた。勿論採点基準は無く、各々が歳を取り、いい大人になって集合して渡された解答用紙には点数なんて無くて「がんばりんさいね」って書いてあるのだろうなぁ。

宴はお開きになり、各々が握手を交わし男達は抱擁しあった。

帰りのタクシーの中、のりちゃんと改めて再開を喜び、旧花束書店前でのりちゃんと「元気でね」と握手を交わし別れ、自宅までの短い時間にこの三日間を思い起こし、感傷に浸った。

部屋にもどり、だめ押しの焼酎ロックを作ってこっちゃんにメールした。
「28年ぶりに会っても友達でいてくれてありがとう」
「浜田に帰って来てくれてありがとう」
「こっちゃんのおかげでみんなで集まれたんよ」
何度繰り返しても足りないくらいの「ありがとう」と「感謝」の気持ちを表現するのは、酔っぱらい原住民にはちと難し過ぎた。

     




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中間発表 (イワシ)
2009-10-12 20:04:37
たしかに、採点のない「中間発表」って感じだったね。さすがうまいこと言いますね!

かぺ君から深夜に貰ったメール、今あらためて読み返してしみじみしました。

三日間、連チャンで付き合ってくれて本当にありがとうね! 一生忘れられない思い出になりました。

お互い飲み過ぎ注意で、肝臓検査では悪い点を取らないようにしよう!
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きになって… (のうさぎマリオ)
2009-10-12 22:23:46
「にむし」が気になって、ググッてみましたが…よけいわからなくなった。こういうのは実際にやってみれば一番いいんでしょうね。
ではおまえは何をして遊んでいたのかと問われれば、う~ん、絵を描いたり、テレビですかね(暗い子供)。でも女の子のおうちに遊びにいくのはとって~も好きでしたね。ああ~っ!すみません!くだらないことを書いてしまいました!
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様々なバリエーションが (いわし)
2009-10-12 22:49:51
マリオさん

「にむし」ですが、僕も気になって調べてみました(^^)地域によって「ろくむし」と呼ばれていたり、ルールにもそれぞれ独自性があったりするようです。公式ルールができる前のサッカーとかラグビーみたいですよね。ゴムボールひとつでいつまでも遊べる非常に優れたゲームだと思います。発祥、分布など調べてみたら面白そうでうよね。民俗学的な観点からもとても興味深いテーマだと思います。

以下ご参考までに。
http://www2.ocn.ne.jp/~happyman/rokumushi.htm

http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/boxbox/rokumushi.html
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いよっ。 (ゆみ)
2009-10-13 13:27:23
岩手いってきたで。

心は東北のリズムきざんでます。

えっ、かぺくんて焼酎好きなん?はよいいんさい。
こっち、メッカよ。

あたしもみんなとあうのは29年ぶりなんでほんといい企画をありがとう。ほんとえいこちゃんにばったりあっててよかったけー。

で、今度はいつあつまんの??
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よ~飲むね (たら)
2009-10-13 23:59:33
あんだけ飲んで更に家に帰って飲んだとゆうかぺ氏、どこまで行ったら上がりなん??
うちは酎ハイ3杯が過去MAX。それも2.3回しかないよ。その時はひたすら笑いがこみ上げてきたでもこれ以上は危険という意識があって常にここで止めてる。お酒解禁になった年代に近所に住むイトコが何度か飲み会の帰り気分が悪くなり、耳からコンビニの袋を下げ、「お母さん…」と言って泣くことになってしまうことが印象的でそれを恐れているのでは…とゆうのが自己分析。

次は正月に集合でしょう!由美ちゃんとも何年か前にご飯屋さんで偶然会って連絡とりあうようになったもんね☆繋がりっておもしろいわ

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かぺ伝説は続く (イワシ)
2009-10-14 13:58:09
茨城県以北に行ったことがない僕としては岩手にぜひ行ってみたいです!
由美ちゃんの行動力はすごいね。

かぺ君の底なしの酒の強さには驚いたよ。

正月は焼酎飲み明かし?
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焼酎 (ゆみ)
2009-10-14 23:27:35
すごいいろいろあるでー。高いのはめっさたかいよ。

正月かー。かえれるかなー。

かえれたらなんか焼酎もってかえるわ。鹿児島限定のやつ。

しかし、縁とは不思議なもんですなー。大事にしてこ。
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焼酎 (イワシ)
2009-10-15 15:54:29
鹿児島の焼酎は美味しそうだね!
薩摩揚げと一緒に飲んだらなおさら旨そうだ。

ほんと、この縁を大事にしたいですな。
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ベリーハッピー (mako)
2009-10-16 19:32:23
この日誕生日だった私。
まさかみんなにHappyBirthday を歌ってもらえるとは想像もしていなかったよ。
マキコ感激!みんなありがとう
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