イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

28年ぶりの島根県浜田市再訪記 ~君の唄が聴こえる~ その33

2009年10月03日 18時24分08秒 | 旅行記
浜田に来る前、マキちゃんやエイコちゃんからどこか行ってみたいところがある? と訊かれて真っ先に思い浮かんだのが宝憧寺山(ほうどうじやま)公園だった。公園は、僕が住んでいた地域を見下ろす宝憧寺山の頂上にある。山の麓から二、三キロくらいの曲がりくねった坂道を上ると綺麗に手入れされた公園の芝生が開け、滑り台などの遊具やキノコを象ったベンチなどが設置されている。見晴らしのよい場所に立つと、真っ青な浜田湾や市内の街並みを一望できる。学校の遠足でもよく行ったし、母が作ったお弁当を持って家族でもしょっちゅうピクニックに出かけたりもしていたから、僕のアルバムにはこの公園で写した写真がたくさん貼られている。

だから自分にとってはとても印象深い場所であったのだが、エイコちゃんもマキちゃんも僕がこの公園の名前を出したことにちょっと驚いていた様子だった。浜っ子の多くは小学校のとき以来あまりこの公園を訪れる機会はなく、彼女たちにとっても記憶のなかに埋もれかけていた場所になっていたようなのだ。まあ確かに言われてみればそうかもしれない。特に目立った特長のない公園だし、浜田湾の景色を眺めたいなら、「夕日パーク」などの新しい施設の方がアクセスも便利だし売店もレストランもある(ということは後で知ったのだけど)。でもみんなは春先に僕が伝えた希望を覚えていてくれて、一緒に公園に行こうと言ってくれたのだった。

住宅地のすぐ近くにある山の麓の道を、由美ちゃんの車がゆっくりと上っていく。こんなに細い道だったとは知らなかった。対向車が来たらどちらかがバックしなければ通過できない。幸い一度も他の車に遭遇することなく頂上付近に達し、公園まであと百メートくらいのところからは車を降りて徒歩で進むことになった。

真夏の山頂でセミが激しく鳴いている。アブラゼミ、クマゼミ、ツクツクボウシ。道の両脇にある雑木林の葉が鬱蒼と茂り、ヤブ蚊もウヨウヨしている。人気もまったくない。なんとなく予感はしていたけど、当時に比べこの公園の利用者は減っているのだろうという気がしてきた。マキちゃんが買ってくれたプラスチックのバットで虫をはたきながら前に進んだ。

公園に着いた。想像していた光景とは違った。敷地内全体にかなりの高さの雑草が生い茂っている。公園の中心を貫く舗装路沿いには進入禁止のロープがわたされていて、「マムシが出るので注意」と書かれた板がぶらさがっている。少し下にある駐車場には廃車が1台停まっていて、屋根の上や車体の下に痩せた野良猫が何匹もいるのが見えた。僕たち以外には誰もいない。

スーパーマリオに出てくるような大きなキノコ型のベンチが記憶に鮮明に残っていた僕にとって、この公園はディズニーランドみたいなファンタジー溢れる場所だった。だが今は、友達や家族と何度となく遊びにきたこの公園も「寂れた」と形容するしかない状態になっている。またまた浦島太郎な気分。でもまあいいのだ。

夏草や強者どもが夢の跡

マムシが出るかも知れないから、女性陣はやはり怖くて夏草エリアには入れないようだ。藪を睨んでいると、ムカデにサソリにツチノコと、マムシ以外にも何がいるかわからないという気配をヒシヒシと感じる。クマもいそうだ。僕もどうしようか迷っていたけど、エイコちゃんたちに「せっかくやからキノコのところまで行きんさい」とけしかけられたので(と人のせいにする)、死を覚悟して突入した。この2日間、みんなにも会えたし先生にも会えたし嬉しいこともいっぱいあったし、なんだか思い残すことももうないような気もしていたので、ここでマムシに噛まれて死んでも今だったらあんまり悔いは残らないかもしれない。「こっちゃん、バットで草を叩きながら行きんさい」、とアドバイスをもらい、みんなの期待に応えるべく激しく藪を突きながら果敢に前に進んだのだが、今にして思うとむやみに草を叩いたりしたら逆にマムシの逆鱗に触れていたかもしれない(まさにやぶ蛇)。ともかく無事にキノコのところまでたどり着いた。大きなキノコがニョキリと屹立し、その周りを切り株みたいなベンチがいくつか囲んでいる。うわぁ懐かしい。でもこんなのだったっけ? 間違いなく当時と同じキノコではある。だけど僕には、実物の持つ質感を正確に記憶することはできないのだ。

少し離れたところにシマウマがいた。背中に乗って遊ぶための置物だ。おお懐かしい。再び夏草をバットで切り裂きながらダッシュして進み、小さなロバくらいの大きさの白い馬に跨った。元々はシマウマだったのだけど、色がはげて「シロウマ」になっているのだ。まさに白馬の王子ここにあり! だが乗ったはいいが、そこから先、何をしていいのかがわからない。ウマは足が地面に着きそうなくらい小さいし、隣には牛がいる。マムシにおびえる王子は、汗だくだし手にはなぜかバットを握りしめている。あんまりカッコよくないけど、まあいいか。これが現実だ。

そう、これが現実。でもそれでいいのだ。たとえ思い出のディズニーランドが今はうらぶれたゴーストパークになっていようとも、ミニチュアのシマウマに騎乗したまま藪へびのマムシに噛まれて息絶えようとも、それでいいのだ。美化した思い出などもう要らない。振り返ると、由美ちゃん、マキちゃん、エイコちゃんたちも公園の変わりようにちょっと驚きながらも、決して悪くはないといった表情で辺りを眺めている。遠くにいて、昔の美しい思い出にずっと浸っているより、今こうして同級生と同じ時間を共有できていることの方がよっぽど大切だ。わざわざ僕のわがままに付き合ってくれる友が、すぐ側にいてくれることの方が。白馬にまたがりながら、僕はしみじみそう思った。

夏草に阻まれて絶景ポイントには行けなかったけど、それでも十分に嬉しかった。公園にみんなと来れただけで満足だ。これは「夢の跡」なんかじゃない。つい数ヶ月前を思えば、これは確かに「新たな夢」じゃないか。夢の時間よ、まだ続いてくれ。


友の笑む宝憧寺山の夏草の夢はたしかに今ここにあり


※ネットで調べたところによると春先は公園の芝も綺麗に整備されていました。夏場は特に雑草が茂るためか(あるいはマムシ対策か)特別な処置として囲いがしてあったのかもしれません。

(続く)

始めから読みたいと思ってくださった方は、どうぞこちら(その1)からご覧ください~!



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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
宝憧寺山で食べるお弁当は美味しかったねー! (mako)
2009-10-04 11:02:45
宝憧寺山公園私も好きな場所だったよ。大人になっても宝憧寺山はどうなっているんだろう?
と心のどこかで気になってたので、今回行けて良かった。ありがとね。
草はボーボーでもきれいな緑のままで安心したよ。何よりイワシ君も生きて帰れたから安心よ~。
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宝憧寺山公園の真実 (たら)
2009-10-04 11:14:20
私も公園に行ってみたい気はあったよ。でも今はゴミ処理場ができてるみたいな話も聞いてたし、誰かに一緒に探険しようって言う機会もなかったしなぁ。
私は三角の建物が懐かしかったわ、あれをどう呼んでいいかわからんけど。中に入っても体育座りしてるくらいのスペースしかないけどやたらワクワクしたん覚えてます。
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Mt.宝憧寺 (mako)
2009-10-04 11:32:36
そうそう!立体的な三角のオブジェ。あの中に入ってたねー。実際夏に見た時とても小さくて驚いた。
あの丘の向こうには海が見えるんだよね。カペ君将来、弥栄村に住むより宝憧寺山に住むのもいいかも! 
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三角オブジェ (いわし)
2009-10-04 12:25:25
三角オブジェ、見てるはずなんだけど覚えてないんだよね(笑)記憶喪失?

みんなの心のなかにも公園は生きていたんだね。マムシは公園の守り神かもしれないね。それにしてもあの公園、冬場はどんな風になるんだろうね?
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かぺ新居 (たら)
2009-10-04 16:18:51
住んだとしたら住所は長浜町…何番地だろ?
つーか、もう先に誰か住んどんさったよね。網カゴで魚かなにか干してあったもんな。
草がない時期にまた改めて行ってみたいよ。冬の帰省ん時調査してくるね!!
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老後の計画 (イワシ)
2009-10-04 16:28:15
年をとったらカペ君と宝憧寺山公園で一緒に自給自足の暮らしをしますか!

夜景を見ながら呑むワインは美味しそうだよ。肴はマムシの蒲焼きで(^^)
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カペ御殿 (mako)
2009-10-04 18:46:45
うちも思い出していた、あの現場。もう誰か住んどりんさった。魚の干物を完成させる道具が設置してあったねー。
まさかもうカペ君はこっちゃんとの老後生活の準備をしてる?まさかの展開!
もうこうなったらマムシ酒とマムシの蒲焼だね(^^)
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マムシ酒! (いわし)
2009-10-04 18:51:32
マムシ酒を呑んだら元気になりそうだね(^^)!

かぺ君とふたりで、アゴから血が出るまで毎日相撲をとって体力作りに励みます(笑)

他にもイノシシ鍋やらクマの胃やらタヌキ汁やら食材には事欠かなさそうだよ!

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