漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

漢字を学ぶ順序はこれで良いのか

2018年06月01日 | 漢字音符研究会
第8回漢字音符研究会  2018年5月12日(土)

テーマ  漢字を学ぶ順序はこれで良いのか 
          ~小学校の学年別配当漢字の逆順現象を考える~

                         『漢字音符字典』著者・漢字教育士  山本康喬 

 小学校の学年別配当漢字は、文部科学省が告示する学習指導要領の付録「学年別漢字配当表」によって定められおり、学年別の文字数と文字そのものが決められている。例えば小学1年では以下の80字が配当されている。

一 右 雨 円 王 音 下 火 貝 学 気 九 休 玉 金 空 月 犬 見 五 口 左 三 山 子 四 糸 字 耳 七 車 手 十 出 女 小 上 森 人 水 正 生 青 夕 石 赤 千 川 先 早 草 足 大 男 竹 中 虫 天 田 土 二 日 入 年 白 八 百 文 木 本 名 目 立 力 林 六

 いずれも基本的な漢字ばかりだが気になるのは、赤色にした花カ・校コウ・村ソン・町チョウの4字である。これらの漢字の音符は、化カ・交コウ・寸スン・丁チョウで、これらも基本漢字だが、化は3年、交は2年、寸は6年、丁は3年に配当されている。特に花カ・校コウ・町チョウの発音は化カ・交コウ・丁チョウの発音そのものであり、これらの漢字はもっと早く教えたほうが、花・校・町の発音を覚えるのに役立つのではないか。

 こうした漢字は学年別の「逆順配当」と呼ばれているが、さらに小学2年では、例えば線センは小学2年で学ぶのに、泉センは6年で学ぶ。明らかに不自然で、漢字の字形の成長を無視した学習の順序になっている。更に、議ギを4年で学ぶのに、義ギは5年で、そして義(羊+我)を構成する基本漢字の我ガは6年にされている。子供たちは階段を一歩一歩上がるように習得しているのに、二~三段を飛ばせるようにして複雑な字から与え、後で階段を降りさせている。

 漢字には、生まれてから部品が付加されて育ってゆく順序がある。この順序に逆らったものが今の配当漢字にある。この逆順配当は部分的には多くの指導者が気付き、その問題であることを指摘していたが、初めてまとめて論じられたのは平成27年4月に発行された、明治書院刊の「日本語学」誌の臨時増刊号「漢字の指導法」においてであった。ただ、その存在の全貌を体系的に指摘したのは、平成28年8月に立命館大学主催の漢字教育士研修会において漢字教育士の山本康喬が音符による漢字分類の方法に基づきリストアップしたのが最初であり、80字もの逆順があることが明確になった。以下にその詳細を紹介します。


            小学校の逆順配当の漢字
 以下は学年ごとの逆順配当漢字である。まず各学年とその逆順配当漢字数およびその漢字を列挙し、その下に基本字(音符)ごとに、逆順漢字、その他の学習漢字、の順に配列した。
 青字は基本字(音符)。赤字は各学年の逆順配当漢字。黒字は小学校配当漢字(教育漢字)である。
 各漢字の最初に付した①~⑥は小学校の各学年、⑦~⑨は中学校の各学年、⑩は高校の配当漢字。
  ※中学校・高校の学年配当の公式規定はない。教科書会社・日本漢字検定協会が適宜定めている。


小学1年(4字) 花・校・村・町
基本字③化カ・ケ・ばける ①花はな・カ ④貨
基本字②交コウ・まじわる ①校コウ ⑤効コウ
基本字⑥寸スン      ①村ソン・むら ⑥討トウ・うつ
基本字③丁チョウ・テイ  ①町チョウ・まち ③打ダ・うつ ⑥頂チョウ・いただく

小学2年(16字) 何・歌・記・近・紙・室・週・電・店・点・線・組・頭・妹・友・野 
基本字⑤可カ・べし     ②何カ・なに ②歌カ・うた ③荷カ・になう ⑤河カ・かわ
基本字⑥己キ・おのれ   ②記キ・しるす ③起キ・おきる ③配ハイ・くばる ④紀キ・のり ④改カイ・あらためる   
基本字⑧斤キン・おの   ②近キン・ちかい 
基本字④氏シ・うじ     ②紙シ・かみ
基本字⑥至シ・いたる    ②室シツ・へや 
基本字④周シュウ・まわり  ②週シュウ・めぐる 
基本字③申シン・もうす   ②電デン・いなずま ③神シン・かみ  ※電の下部は申の変形
基本字⑦占セン・うらなう  ②店テン・みせ ②点テン
基本字⑥泉セン・いずみ  ②線セン・すじ
基本字⑨且ショ・かつ    ②組ソ・くみ ③助ジョ・たすける ⑤祖
基本字③豆トウ・まめ    ②頭トウ・あたま ③短タン・みじかい
基本字④未ミ・ビ・いまだ  ②妹マイ・いもうと ③味ミ・ビ・あじ
基本字⑧又ユウ・また   ②友ユウ・とも
基本字③予ヨ・われ・あらかじめ ③野ヤ・の ⑤預ヨ・あずける ⑤序ジョ・はじまり

小学3年(27字) 泳・談・界・階・客・落・路・院・館・級・球・港・運・係・仕・使・事・指・鉄・昭・消・速・庭・悲・病・勉・命
基本字⑤永エイ・ながい   ③泳エイ・およぐ
基本字⑧炎エン・ほのお   ③談ダン・かたる
基本字⑦介カイ・たすける  ③界カイ・さかい
基本字⑦皆カイ・みな    ③階カイ・きざはし
基本字④各カク・おのおの  ③客キャク ③落ラク・おちる ③路ロ・みち ⑤格カク ⑤額ガク・ひたい ⑤略リャク・ほぼ 
基本字④完カン       ③院イン
基本字④官カン・おおやけ  ③館カン・やかた ④管カン・くだ
基本字⑦及キュウ・およぼす ③級キュウ・くらい ③急キュウ・いそぐ ⑥吸キュウ・すう
基本字④求キュウ・もとめる  ③球キュウ・たま ④救キュウ・すくう
基本字④共キョウ・ともに   ③港コウ・みなと ⑥供キョウ・ク・そなえる
基本字④軍グン       ③運ウン・はこぶ ⑥揮キ・ふるう
基本字⑥系ケイ・つなぐ   ③係ケイ・かかり ④孫ソン・まご 
基本字④士シ・さむらい   ③仕シ・つかえる
基本字④史シ・ふみ     ③使シ・つかい ③事シ・こと      
基本字⑦旨シ・むね     ③指シ・ゆび 
基本字④失シツ・うしなう   ③鉄テツ・てつ
基本字⑦召ショウ・めす   ③昭ショウ・あきらか ④照ショウ・てらす ⑤招ショウ・まねく
基本字⑨肖ショウ・にる   ③消ショウ・けす 
基本字④束ソク・たば    ③速ソク・はやい
基本字⑨廷テイ       ③庭テイ・にわ
基本字⑤非ヒ・わるい    ③悲ヒ・かなしい ⑤罪ザイ・つみ ⑥俳ハイ
基本字⑨丙ヘイ・ひのえ   ③病ビョウ・やまい
基本字⑧免メン・ゆるす   ③勉ベン・つとめる ⑥晩バン・おそい
基本字④令レイ       ③命メイ・いのち ④冷レイ・つめたい ⑤領リョウ・えりくび

小学4年(15字) 芽・議・械・機・結・便・候・菜・賞・堂・積・節・側・努・望
基本字⑩牙ガ・きば     ④芽ガ・め
基本字⑥義ギ・よい     ④議ギ・はかる 
基本字⑦戒カイ・いましめる ④械カイ・からくり
基本字⑦幾キ・いくつ    ④機キ・はた
基本字⑧吉キチ・キツ・よい ④結ケツ・むすぶ
基本字⑦更コウ・さらに   ④便ベン・たより
基本字⑨侯コウ       ④候コウ・うかがう
基本字⑩采サイ・つみとる  ④菜サイ・やさい ⑤採サイ・とる
基本字⑨尚ショウ・なお   ②当[當]トウ・あたる ④賞ショウ・ほうび ④堂ドウ ⑤常ジョウ・つね ⑥党トウ・なかま
基本字⑤責セキ・せめる   ④積セキ・つむ ⑤績セキ・つむぐ
基本字⑦即ソク・すなわち   ④節セツ・ふし
基本字⑤則ソク・のり     ④側ソク・がわ ⑤測ソク・はかる
基本字⑦奴ド・やっこ     ④努ド・つとめる
基本字⑥亡ボウ・ない    ④望ボウ・のぞむ ⑥忘ボウ・わすれる 

小学5年(9) 刊・慣・寄・混・謝・銃・増・程・務
基本字⑥干カン・ほす   ⑤刊カン  
基本字⑧貫カン・つらぬく  ③実[實]ジツ・みのる ⑤慣カン・なれる 
基本字⑦奇キ・めずらしい ⑤寄キ・よる
基本字⑨昆コン・むし   ⑤混コン・まぜる
基本字⑥射シャ・いる   ⑤謝シャ・あやまる
基本字⑨充ジュウ・みちる ⑤統トウ・すべる
基本字⑩曽ソ・かつて   ⑤増ゾウ・ます ⑥層ソウ・かさなる
基本字⑨呈テイ・しめす  ⑤程テイ・ほど ⑥聖セイ・ショウ・ひじり
基本字⑦矛ム・ほこ    ⑤務ム・つとめる

小学6年(9字) 鋼・株・認・済・装・糖・純・棒・優
基本字⑩岡コウ・おか   ⑥鋼コウ・はがね
基本字⑦朱シュ・あか   ⑥株シュ・かぶ
基本字⑨刃ジン・ニン・は  ⑥認ニン・みとめる
基本字⑨斉セイ・サイ   ⑥済サイ・すむ
基本字⑨壮ソウ・さかん  ⑥装ソウ・よそおう
基本字⑦唐トウ・から    ⑥糖トウ・あめ
基本字⑨屯トン・たむろ   ⑥純ジュン・まじりけがない
基本字⑧奉ホウ・たてまつる ⑥棒ボウ
基本字⑧憂ユウ・うれえる  ⑥優ユウ・すぐれる

逆順配当漢字をどう考えるか
 漢字には、生まれてから部品が付加されて育ってゆく順序がある。この順序に逆らったものが今の学年別配当漢字にある。子供たちは階段を一歩一歩上がるように習得しているのに、二~三段を飛ばせるようにして複雑な字から与え、後で階段を降りさせている。こうした逆順漢字が80字あるのは、教える先生もやりにくいのではないだろうか。
 しかし一方で、各学年配当の漢字は基本漢字を中心にするものの、1年生で「学校」や「町村」などの身近でよく使われる漢字を含めているのはやむを得ないことであろう。また、逆順配当を訂正するのが妥当と判断される漢字がある場合でも、文部科学省の学習指導要領で決まっている事柄であり、訂正には手続きと多くの時間を必要とする。こうした事情を考えると、まず逆順漢字をどう教えるかの問題が検討されなければならない。


逆順漢字をどう教えるか
 逆順漢字をどう教えるか。それは「最も基本となる字は最初に教えればよい」この原則を最小限の形で守ればよいのではないだろうか。例えば、「校」を教えるときに、「校は木と交が合わさってできた漢字で、交はコウと発音するので、校の発音はコウです」と、分解した漢字の一方が発音を表すことを教えればよいと思う。また「町」は「町は田と丁が合わさった漢字で、まち・チョウと読みますが、チョウの発音は丁がチョウと発音するからです」と教えればよいと思う。
 同じように、「花は、艹(草かんむり)と化カが合わさった字で、はな・カと読みますが、カの発音は化がカと発音するからです。「村は木と寸が合わさった字で、むら・ソンと読みますが、ソンの発音は寸がソンと発音するからです。しかし寸はスンという発音もあります」と教えればよいのではないか。


逆順の基本漢字はどう教えるか
 では、のちに逆順の基本漢字が出てきたとき、どう教えたらいいのだろうか。例えば、1年の逆順漢字の基本字は、2年で交コウ、3年で化カ、丁チョウ、6年で寸スンが出てくる。2年で交コウを学んだのち、復習として「1年で覚えた校コウは、木と交コウからできているから発音は校コウだったね」と確認すればよいと思う。同じように3年では化カを学んだのち「1年で覚えた花(はな)は艹(草かんむり)と化カからできているから発音は花カだったね」、丁チョウを学んだのち「1年で覚えた町(まち)は田と丁チョウからできているから発音は町チョウだったね」と確認すればよいだろう。6年では寸を学んだのち、「1年で覚えた村(むら)は木と寸スンからできているけれど、発音は村ソンとなっているね。これは寸にはスンのほかにソンという読み方もあるからだよ」と教えればよいと思う。
 こうした教え方をすることにより、子供たちの頭のなかに「漢字とは分解できるものがある」という発想を植え付けることができ、字形構造の体系を教える良い機会となる。また、例えば小学6年生では、1年~6年までの逆順配当の体系を取り上げて、正しい順序とつながりを説明したらどうだろうか。字形構造の体系(つながり)を教える良い機会となるだろう。


「漢字音符字典」の活用

 上図は私が編集した『漢字音符字典』(東京堂出版:2012年)の中から、小学1年の逆順配当になっている漢字の音符(基本字)をまとめて編集した表である。上段は音符(基本字)、下段は音符を含む漢字(音符家族)を配列している。常用漢字は赤字になっており、赤字の右上の小さな数字は、本稿で示した①~⑩と同じく、小学校・中学校・高校の学年漢字を指している。この表には1年の字を黄色い〇で囲っている。したがって、この表を見ると、基本字は何年生で学ぶのか、そのほかに小学校で学ぶ漢字はどんなものがあり、その漢字は何年生で学ぶか、が一目で分かるようになっている。小学校さらに中学校の先生方に活用していただければ幸いである。


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