漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

 してほしくない、こんな「部首テスト」

2021年06月07日 | 特殊化した部首
次の漢字の部首を答えてください。
問題1  丘キュウ
問題2  亜ア
問題3  兼ケン
問題4  世セイ
問題5  五ゴ
問題6  兆チョウ
問題7  率リツ
問題8  半ハン
問題9  酒シュ
問題10  輝キ

いずれも常用漢字で、よく見かける字です。皆さんはこれらの部首を答えられますか? 正解は以下のカッコ内です。

正解
問題1  丘キュウ(部首:一いち)
問題2  亜ア  (部首:二に)
問題3  兼ケン (部首:八はち)
問題4  世セイ (部首:一いち)
問題5  五ゴ  (部首:二に)
問題6  兆チョウ(部首:儿ひとあし)
問題7  率リツ (部首:亠なべぶた)
問題8  半ハン (部首:十じゅう)
問題9  酒シュ (部首:酉とり)
問題10  輝キ  (部首:車くるま)

 みなさんは何問、正解だったでしょうか。おそらく全問正解した人は極めて少ないと思います。
 それもそのはず、これらの漢字の部首を覚えてもまったく役にたたないからです。むしろ、有害でさえあります。丘や亜や兼などの字は、漢字辞典で調べるとき、画数索引か発音でしらべれば見つかります。無理に丘や亜の部首を覚える必要はないのです。
 ここに挙げた問題の1~8までの漢字は音符字です。漢字音符は象形文字や指示文字それに会意文字であり、基本的に分解不可能な字なのです。ですから無理に部首を作っても、部首以外の部分はまったく意味のない漢字の体をなさないものになっているのです。
 なぜ、こんな部首を作ったのでしょうか。それは漢字を部首別に配列する部首別字典があるからです。この字典は漢字の構造を示す有意義な字典ですが、収録するすべての漢字に部首を付けなければなりません。そこで、分解できない漢字にも無理に部首を設定することになるのです。
 画数のすくない部首には、どこにも分類できない漢字が集中しています。
 ここに、一画と二画の主な部首から、その状態を説明します。

部首「一いち」の主な漢字
一:丁・七・三・上・下・丈・万・不・与・丙・世・且・丘・丞・両・並
 意味を表すのは一だけで、その他の字は中に一を含むため便宜的に入っています。また、これらの字は同時に音符になります。ところで最後の並はなぜ一部なのか、よくわかりません。

部首「二に」の主な漢字
二:互・五・亘・亜・井・云・些・于
 意味を表すのは二と些(二+音符「此」)だけで、残りは字体のなかに二が含まれているため便宜的に入っています。このうち、互・五・亘・亜・井・云・于は、音符になります。

部首「八はち」の主な漢字
八:共・兵・具・典・其・六・兼・公
 意味を表すのは八だけで、残りは字体のなかに八が含まれているため便宜的に入っています。このすべてが音符になります。

部首「十じゅう」の主な漢字
十:廿・協・博・午・卒・卓・升・千・半・卑・南
 十は数字の10の意味を表すのは廿(十がふたつ)、また、多い意で協・博があります。残りの午・卒・卓・升・千・半・卑・南は、字体のなかに十が含まれているため便宜的に入っています。これらの字は音符ともなります。

部首「亠なべぶた」の主な漢字
亠:亡・亢・亦・亥・交・京・享・亭・商・率
 亠(なべぶた)は、屋根を表すかたちが変化したもので、京・享・亭は建物を表しています。残りは字体のなかに亠が含まれているため便宜的に入っています。このうち亡・亢・亦・亥・交・京・率は、音符になります。

部首「儿ひとあし」の主な漢字
儿ジン:允イン・元・兄・光・充・先・兆・克・児・兎・禿・免・党
 儿は人の下部を表すことが多いので「ひとあし」と呼ばれます。この意味を持つのは、允・元・兄・光・充・先・克・児・禿・免・党で、二画の部首としては珍しく意味をあらわしています。残りの兆・兎は、字体に儿が含まれているため便宜的に入っています。また、儿部のすべての字が音符になります。

酒の部首は、なぜ酉?
 酒の部首は普通に考えると氵(さんずい)ですが、なぜか酉ユウになっています。酉は酒つぼの象形文字です。この字は金文で酒の意味で使われていました。のちに氵のついた酒の字が現れ、酒の意味で使われるようになりましたが、酒の部首は古代からの慣習をひきついで酉になっています。

輝の部首はなぜ車?
 輝キの字を分解すると「光+音符[軍グン⇒キ]」から成ります。普通に考えると、光が部首です。ところが現在の部首に光はありません。そこで音符・軍の中にある車が部首になっています。この字はもともと煇キと書かれていました。この字の、火⇒光に変わった字が輝で、これまでの部首の枠にはいらない字なのです。

 以上にあげた部首のうち、1~8は音符となる漢字の一部を部首にしたかたち。9~10は特別な理由があって部首となった字です。
 これらの変則的な部首をテスト問題にすると、学ぶ側が混乱します。部首は「部首+音符字」として教えるのが正道です。変則的な部首は、学ぶ側から質問があったとき初めて答えればよく、教える側から積極的に説明する性質のものではないと思います。


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