漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「稟リン」<穀物倉> と 「廩リン」「凜リン」「懍リン」 と 「啚ヒ」「鄙ヒ」「図[圖]ズ」

2024年08月05日 | 漢字の音符
   リン <穀物倉・こめぐら>
稟[禀] リン・ヒン・うける  禾部 bǐng


①陶製のミニチュア穀物倉(中国のネットから)②西漢代の陶製ミニチュア穀物倉(「中国宜春市博物館所蔵
解字 金文は「穀物倉+禾(こくもつ)」で、実った禾を保管する穀物倉(日本では、こめぐら)を表す。漢代の穀物倉の製陶ミニチュアの屋根①は丸く先がとがっており似ている。②の穀物倉は高床式になっている。篆文は「亠(やね)+回(回りの厚い壁)+禾(こくもつ)」のになり、これが現在に続いている。この字の原義は穀物倉だが、穀物倉から俸給としてもらう米や穀物の意から、うける(ける)・さずかる意となり、さらに転じて生れつきの資質をさずかる意となる。また、さずかる意から、さずけた者に対し謝意などを「申し上げる」意ともなる。禀は下部を禾⇒示に変えた俗字で、禾の字が下部にあり斜めの線が書きにくいためにうまれた。
意味 (1)こめぐらから給料として与える米。ふち(扶持)。「稟給ヒンキュウ」(俸給)(2)うける(ける)。さずかる。「稟賦ヒンプ」(生れつき与えられた)「稟性ヒンセイ」(生れつき。天性)(3)申し上げる。「稟議リンギ・ヒンギ」(①意見を上に申し上げる。建議する。②[日本]担当者が文案を回覧して承認を得ること)「稟申リンシン・ヒンシン」(申し上げる。上申)(4)こめぐら(稟)。こくもつぐら。日本では「こめぐら」と表現している。

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 「こめぐら(転義)」(稟)
 「こめぐら(穀物倉)」(廩・凜・懍)
音の変化  リン:稟・廩・凜・懍

こめぐら(穀物倉)
 リン・くら  广部 lǐn
解字 「广(やね)+稟(こめぐら)」の会意形声。稟(こめぐら)が、うける(稟ける)や申し上げる等の意味で使われるようになったので、广(やね)をつけて本来の意味をあらわした。
意味 (1)くら()。こめぐら。「倉廩ソウリン」「廩囷リンキン」(くら。方形を、円形を囷という) (2)ふち(扶持)。給料として与える米。(=稟)「廩給リンキュウ」(=俸給)「廩食リンショク」(官から支給される俸禄のこと)「黄衣廩食コウイリンショク」(黄衣は宦官が着る服。俸禄を支給され宮中に仕える役人の宦官のこと) (3)蓄積する。あつまる。
凜[凛]リン  冫部 lǐn
解字 「冫(こおり)+稟(こめぐら)」の会意形声。米ぐらの周辺が寒気におおわれること。寒さがきびしい意となり、転じて、寒さで身や心がひきしまる意ともなる。凛は俗字。
意味 (1)さむい。寒さがきびしい。「凜冽リンレツ」(寒気が厳しいさま)「凜気リンキ」(冷気)(2)りりしい。身や心がひきしまる。「凜(りん)と」(①しっかりとした態度。②音や声がよくひびくさま)「凜凜リンリン」(勇ましく勢いがあるさま。寒さで身がひきしまるさま)
 リン・おそれる  忄部 lǐn
解字 「忄(こころ)+稟(=凛。寒さがきびしい)」の会意形声。きびしい寒さに心が引き締まること。転じて、おそれる意となる。
意味 (1)つつしむ。身や心が引き締まる。「懍懍リンリン」(①つつしむ。②おそれつつしむ)(2)おそれる(懍れる)。「懍慄リンリツ」(①寒くてふるえる。②おそれおののく)



  <穀物倉のある領地>
 ヒ 口部 bǐ・tú

解字  甲骨文字は「囗(区画した地域)+(屋根)+左右二つのふくらみ」の形。屋根の下の二つのふくらみは厚い壁を表し、屋根と併せて穀物倉を表す。上についた囗(区画した地域)は、この穀物倉に穀物を収める地域を表す。金文は区画した地域が〇になり、穀物倉がかなり変形した。篆文は「囗(区画した地域)+亠(やね)+回(厚い壁)」となり、現代字の啚となった。
 農村の支配者は、領地の農民が収穫した穀物を保管する穀物倉を必要とした。そこで一定の農家戸数ごとに倉を作って管理した。啚は穀物倉のある農村の領地の意。鄙の原文。
意味 穀物倉のある農村の領地(=鄙)。鄙の原文。金文に「都啚トヒ」(=都鄙。みやこといなか)の用例がある。

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 「穀物倉のある農村の領地」(啚・鄙・図)
音の変化  ヒ:啚・鄙  ズ・ト:図

穀物倉のある農村の領地
 ヒ・ひな・いやしい  阝部 bǐ
解字 「右についた阝おおざと(村・行政区画)+啚(穀物倉のある農村の領地)」の会意形声。農村の領地である行政区画のむら。殷の次の周代になると、鄙は500戸の集落を言った。かなり大きなむらであるが都からみると田舎なので、いなかの意となった。
意味 (1)ひな(鄙)。いなか。さと。「辺鄙ヘンピ」(かたいなか)「鄙語ヒゴ」(いなか言葉)(2)いやしい。「鄙吝ヒリン」(心がいやしくて物惜しみする)(3)自分を謙遜していう。「鄙見ヒケン」(つまらない考え)
[圖]ズ・ト・はかる  囗部 tú 
解字 旧字はで、「囗(全体の範囲)+啚(穀物倉のある農村の領地)」 の会意。穀物倉のある農村の領地の全体(囗)を図面で示した形で地図のこと。農村の領地の地図は支配する者にとって基本となるものだった。領地の境界などをはっきりさせるため、①領地の確定を計画(意図)し、紙面に図を書きこむこと。また、②出来た地図をいう。のち、農村だけでなく都市図・道程図・版図(領土の地図)などが作られた。新字体は⇒図に簡略化された。
意味 (1)はかる(図る)。考える。計画。「意図イト」「企図キト」(2)ず(図)。ずめん。え。「図表ズヒョウ」「地図チズ」(3)書物・本。「図書館トショカン
<紫色は常用漢字>

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