漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

漢和字典 使った感想(1) 「角川新字源」(角川書店)

2024年02月26日 | 漢和字典・使った感想
「角川新字源」
 私は漢和辞典を十数冊持っているが、その中でも最も多く使うのが「角川新字源」(2017年発行 改定新版)である。収録字数は13,500字。小型サイズ(H18.5㎝)で1,774頁の字典である。収録字数は一般の使用に必要十分といえる。私がなぜこの字典を使うかと言うと、このブログ「漢字の音符」の編集にとても便利だからだ。
 ブログ編集の基になる本は、山本康喬編著『漢字音符字典』(東京堂出版)だが、最初からこの本の音符字のすべてを掲載しているわけではない。基本は私の知っている漢字がメインで、その後、本や新聞やネット記事を見ていて、新しい音符字があれば随時、追加収録する。また、過去に作った特定の音符を全体的に見直す場合、そんな時に役立つのが、この字典なのである。
 私が知りたいのは調べる漢字の基本情報である。その漢字が、象形文字なのか、ことなる文字を組み合わせた会意文字なのか、意味をあらわす文字(多くが部首)に発音を表す文字(音符)が付いた形声文字なのか。それを知りたいのである。これが分かれば、基本音符字にどのような形でほかの要素がくっついているかが分かり、追加がスムースにゆく。

 例えば最近再編集した「午ゴ」で、この字典とのかかわりを語ってみたい。
『漢字音符字典』に、午ゴの音符字は、杵ショ・許キョ・滸・忤がある。これまでは杵ショ・許キョ・滸を掲載していたが、今度、忤を追加しようと思いたった。
 そこで午ゴと、音符字の杵ショ・許キョ・滸が「角川新字源」でどう記述されているかをまず紹介したい。

午ゴ・うま
 [なりたち]として甲骨文字・金文・篆文の古文字を載せてから、「象形。きねの形にかたどる。杵ショの原字。借りて十二支の第七番目に用いる。」とあり、[意味]として、①うま(午)。②さからう。③まじわる、にわけて説明し、最後に熟語・逆熟語の欄がある。

杵ショ・きね
 [なりたち]として篆文の字形を載せてから「形声。木と音符午ゴ→ショとから成る」とあり、[意味]は、①きね(杵)。うすに入れた穀物などをつく道具。「杵臼ショキュウ」②つち。③つく。④武器の名。とし、最後に熟語・逆熟語を列挙する。

許キョ・ゆるす
 [なりたち]として金文・篆文を載せてから「形声。言と音符午ゴ→キョから成る。相手の言葉に同意して聞き入れる、「ゆるす」意を表す」とする。[意味]は、①ゆるす(許す)。②ゆるし。③ばかり(許り)。④もと(許)。ところ。他」としている。最後に熟語・逆熟語を列挙する。

滸コ・ほとり
 [なりたち]として「形声。水+音符許」とあるが、古文字はない。理由は篆文にないからと思われる。[意味]は、ほとり(滸)。みぎわ。みずぎし、で熟語に「江滸」一つがある。

忤ゴ・さからう
 未掲載だった忤は[なりたち]として、「形声。心+音符午ゴ」。意味は、①さからう(忤う)。もとる、②みだれる。くいちがう。「散忤」、とする。古文字はなし(説文解字にないため)。続いて熟語を掲載している。

 以上が音符字「午」の概要である。さて、追加する忤は、心(忄)が部首で音符「午ゴ」の形声字であることが分かる。午ゴの意味②に「さからう」があるが、これは同音の忤に由来すると思われ、さからう意は忤を解字して解かなければならない。
 手がかりとなったのはギョの甲骨文と金文である。それは人が杵形の信仰対象物に祈っている形で、杵は祈る対象物ともなることから、先に登場している許キョは「言(いう)+午(=杵形の信仰対象物)」となり、杵形の信仰対象物が「ゆるすと言う」こと。また許には、もと(許)・ところ、の意味があることから滸は、水のもと・ところで、水ぎわ・みぎわの意味がでる。
 さて忤の解字であるが、御ギョは人が杵形の信仰対象物に祈っている形であるが、同時に示偏(神=信仰対象物)をつけた禦ギョ・ふせぐの原字でもある。御ギョに示(神)をつけて、ふせぐ意味を強調した字であり、災いから身をふせぐ、さらに敵から身をまもる意から転じて、身をふせぐ・身をまもるために⇒さからう意となる。
 
 このようにして私は音符「午ゴ」の派生字を解字したが、あくまで一つの説である。このように、「なぜこうした意味になるのか?」を考察してゆくのは私が重点をおいている点であるが、大変むずかしいテーマである。多くの字典は過去の権威ある「説文解字」とか韻書(発音字典の一種)の「正韻」「広韻」、それに春秋戦国期の古典「詩経」などでの用法を例にあげて、その意味を説明している。
 「角川 新字源」は、こうした根拠付けをいっさい省略している。意味が確立されているなら、その意味の根拠を省略し「部首+音符⇒その変化音」から意味が出ている、と説明しているのである。
 まことに簡潔な説明であり、漢字の由来にこだわる人以外は、こうした説明で十分なのである。私がこの字典をまず引くのは、漢字の構成の基本的な事柄を教えてくれるからである。漢検1級の対象漢字となる約6,400字を音符順にならべた『漢字音符字典』は、すべての字に象形・指事・会意・形声・仮借・国字の区別をしているが、「角川 新字源」に準拠していると記載されている。この字典の信頼性の高さを示しているのであろう。
 なお、上記は「漢字音符字典」の掲載字だが、試みに上記字の発音である、ゴ・コ・キョ・ショで音訓索引を引いてみると、さらに仵ゴ・ならぶ・さからう、迕ゴ・であう・さからう、「午+吾」ゴ・グ・さからう、の3字が見つかった。やはり13,500字を収録する字典は奥が深い。

 その他、「巻末付録」はさまざまな項目があり充実しているが、私は「中国度量衡の単位とその変遷」の表をよく参照する。度量衡を表す漢字が出たときは、この表や図をみて確認する。また「漢字音について」の説明も参考になる。

『角川新字源』[改定新版] 2017年10月30日発行
 編集:阿辻哲次 釜谷武志 木津祐子





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