goo blog サービス終了のお知らせ 

漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「网モウ」<あみ>と「罔モウ」「網モウ」「魍モウ」「惘ボウ」

2025年03月26日 | 漢字の音符

  网・罔  モウ・ボウ <あみ>

 モウ・ボウ・あみ  网部 wǎng


解字 甲骨文字は二本の支柱に網を張ったかたちの象形でいろんな形がある。篆文は支柱と上部が冂に変化し内側にメメで網を表す。現代字は篆文のかたちを受け継いだ网になった。罔モウ・網モウの原字。
意味 あみ(网)。                                          
 モウ・ボウ・あみ  网部 wǎng

解字 「网(あみ)+亡ボウ・モウ」の会意形声。网は、あみの象形で発音はモウ・ボウであるが、そこにさらに発音を示す亡ボウ・モウを付けて网の発音をはっきりと示した字。現代字は网の中のメメ⇒「ソ+一」に変化した罔になった。網の原字。あみの意味のほか、あみでおおう。また、亡ボウ・モウ(ない)に通じて「ない」の意味を表す。
意味 (1)あみ(罔)。網あみする。「罔羅モウラ」(=網羅モウラへ)「罔罟モウコ」(罔も罟も、あみの意) (2)おおう。くらい。道理にくらい。おろか。「学びて思わざれば即ち罔(くら)し[論語]」(3)ない。なし。否定の語。「罔極モウキョク」(はてがない)「罔極之恩モウキョクのオン」(はてがない恩で、父母の恩のこと) 

イメージ 
 「あみ」
(网・
罔・網)
 おおわれて「みえない・ない」(魍・惘)                       

音の変化  モウ:网・罔・網・魍  ボウ:惘

あみ
 モウ・あみ  糸部 wǎng 
解字 「糸(いと)+罔(あみ)」の会意形声。糸でできたあみ。罔あみの意味を糸をつけて明確にした字。
意味 (1)あみ(網)。「魚網ギョモウ」「投網とあみ」「網代あじろ」(①川の瀬に設ける網の代わりのような魚とりの装置。②薄くした竹や檜皮などを交差させて編んだもの)(2)あみする。網で捕らえる。「一網打尽イチモウダジン」「網羅モウラ」(魚をとる網と鳥をとる羅。残らず集める)(3)あみのような。「網膜モウマク」(眼球壁の視覚細胞が面状に並んだ部分)「通信網ツウシンモウ
網代①(石山寺縁起絵巻・日本国語大辞典より) 網代②(竹皮ハダ極細網代

みえない・ない
 モウ・ボウ  鬼部 wǎng 
解字 「鬼(おに)+罔(みえない)」の会意形声。鬼は身体から離れてただよう死者の魂(たましい)の意。それに罔のついた魍モウは姿のみえない魂で、人の魂だけでなく山水・木石の精気から生じる霊気や精をいう。
意味 すだま。もののけ。山水や木石の精。「魍魎モウリョウ」(山の霊気や木石の精)「魑魅魍魎チミモウリョウ」(山や川の怪物。さまざまのばけもの)
 ボウ・モウ・あきれる  忄部 wǎng
解字 「忄(こころ)」+罔(ない)」の会意形声。心を失った状態をいい、気がぬける・ぼんやりする意となる。日本では、あきれると読む。
意味 (1)ぼんやりする。気がぬける。「惘然ボウゼン」「惘惘モウモウ・ボウボウ」(ぼんやりするさま。とまどう)(2)[国]あきれる(惘れる)。「惘れ果てる」
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「区ク」<くぎり>「駆ク」「軀ク」「枢スウ」「欧オウ」「殴オウ」「謳オウ」「嘔オウ」「鷗オウ」

2025年03月24日 | 漢字の音符

       区 ク(くぎり・くぎる)

[區]ク・オウ  匚部はこがまえ 


解字 甲骨文は「並んでいる三つの器物(品)+形の囲い」で、器物をならべ、さらに区分けした状態を表している。区切ること。区切る・仕切る意。金文から口の上の横線を形にむすび、漢代の篆文で匸の形になり、旧字は區で「匚(かこい)+品(多くの器物)」の会意。意味は、くぎる・くぎられた部分をいう。新字体は、旧字の區⇒区に簡略化される。
意味 (1)分ける。くぎる。仕切りをする。「区画クカク」「区別クベツ」(2)分けられた部分。「区域クイキ」「学区ガック」「選挙区センキョク」(3)行政上のくぎり。「市区シク

イメージ 
 「くぎる・くぎり」
(区・枢・軀・殴・駆・謳)
 「オウの音」(欧・嘔・鷗)
音の変化  ク:区・軀・駆  スウ:枢  オウ:殴・欧・謳・嘔・鷗

くぎり・くぎる
 スウ・くるる・とぼそ  木部 shū・ōu
解字 旧字は樞で「木(き)+區(くぎり)」の会意。開き戸のタテの区切りである回転軸となる木。また、その軸受穴をいう。回転軸と穴は開き戸のなかで最も重要なところであるので、かなめの意となる。新字体は、樞⇒枢となる。

togetter 15(「枢戸」より)

意味 (1)くるる(枢)。ドアの回転軸。とぼそ(枢)。ドアの軸受穴。とまら(枢)。回転軸として差し入れる突起部。「枢戸くるるど」(くるるにより開閉する戸)(2)かなめ。物事の大切な所。「中枢チュウスウ」「枢軸スウジク」(ドアのくるると、車の軸。いずれも回転して本体を支える重要な部分)「枢要スウヨウ」(肝心な所)「枢密スウミツ」(枢要の機密)「枢密院スウミツイン」(明治時代、天皇の諮問に応える合議機関)
軀(躯)ク・からだ・むくろ  身部 
qū                                          解字 「身(からだ)+區(くぎり)」の会意形声。頭・腕・脚などの区切りからなる身体。折り曲げることのできる身。
意味 からだ(軀)。み。むくろ(軀)。「体軀タイク」(体つき)「軀体クタイ」(建造物の骨組み)
 オウ・ク・なぐる  殳部 ōu
解字 旧字は毆で「殳(なぐる・うつ)+區(=軀。からだ)」の会意。軀は身体の意。毆は身体をなぐること。新字体は、毆⇒殴となる。
意味 なぐる(殴る)。うつ(殴つ)。たたく。「殴打オウダ」(たたきうつ)「殴殺オウサツ」(打ち殺す)「殴辱オウジョク」(なぐって、はずかしめる)
 ク・かける・かる  馬部 qū
解字 旧字は驅で「馬(うま)+區(=毆オウ・ク。打つ)」の会意形声。馬をむち打って走らせること。新字体は、驅⇒駆となる。
意味 (1)かける(駆ける)。馬が走る。「先駆センク」「疾駆シック」「駆動クドウ」(動力を与えて動かす)(2)かる(駆る)。かりたてる。追い払う。「駆使クシ」(①追い使う。②自由に使いこなす)「駆逐クチク」(駆り立てて追い払う)「駆除クジョ
 オウ・うたう・うた  言部 
ōu                                解字 「言(ことば)+區(くぎる)」の会意形声。言葉に間をおき(くぎりをつけ)、ふしをつけてうたうこと。伴奏なしで声だけでうたうことをいう。
意味 うたう(謳う)。うた(謳)。「謳歌オウカ」(①もと君主の徳を皆で褒めたたえる歌から、声をそろえて褒めたたえる。②平和・繁栄などを喜びうたう)「青春を謳歌オウカする」「謳詠オウエイ」(謳も詠も、ふしをつけてうたうこと)

形声字
 オウ  欠部 ōu・ǒu
解字 旧字は歐で「欠(口をあける)+區(オウ)」 の形声。オウと口から声を出して吐くこと。しかし、本来の意味でなく、外国地名の表記に使われる。新字体は欧に変化する。
意味 (1)外国地名「欧羅巴ヨーロッパ」に使われ、欧でヨーロッパの意を指す。「欧州オウシュウ」「欧米オウベイ」「欧化オウカ」(2)はく・もどす。
 オウ・はく  口部 ōu・ǒu
解字 「口(くち)+區(オウ)」 の形声。オウと口をあけて声を出して胃の内容物を吐き出すこと。
意味 (1)はく(嘔く)。もどす。「嘔吐オウト」(嘔も吐も、はく意)「嘔血オウケツ」(血を吐くこと)(2)うたう。(=謳オウ)。やかましい声。「嘔啞オウア」(やかましい音や声の形容)
鷗(鴎) オウ・かもめ  鳥部 ōu
解字 「鳥(とり)+區(オウ)」の形声。オウオウと鳴く鳥。カモメ。新字体に準じた鴎は俗字。

カモメ(「gooブログ」より)

意味 かもめ(鷗)。沿岸海域にすむカモメ亜科の鳥の総称。鳩に似て少し大きい海鳥。「海鷗カイオウ」(カモメ)「鷗盟オウメイ」(①カモメを友とする意。隠居する。②世俗を脱した風流な交際)
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「川セン」「圳セン」「釧セン」「巡ジュン」「順ジュン」「馴ジュン」「訓クン」「災サイ」と「州 シュウ」「洲シュウ」「酬シュウ」

2025年03月22日 | 漢字の音符

         川 セン <川の流れ>

 セン・かわ  川部 chuān 

                                              解字 甲骨文字は、外側に水の流れる形の曲線、内側に点線をいれた川の象形。金文以降、三本の水流曲線で「かわ」を表わした。現代字は「川」となった。川は部首となり、また音符ともなる。
意味 (1)かわ(川)。流れる水。「川上かわかみ」「小川おがわ」「川面かわも」「河川カセン」「川岸かわぎし」(2)地名。「川越かわごえ」(埼玉県の市)(3)姓。「川端かわばた」「川瀬かわせ

イメージ  
 「かわ・川の流れ」(川・巡・圳・順・馴)  
 「形声字」(訓・釧)    
 川が
溢(あふ)れる意から「わざわい」(災)

音の変化   セン:川・釧・圳  ジュン:巡・順・馴  クン:訓  サイ:災

かわ・川の流れ
巡 ジュン・めぐる  辶部 xún
                                                              解字 篆文は「辵チャク(ゆく)+川(セン⇒ジュン)」の会意形声。川に沿ってゆく意で、転じて、めぐる。見てまわるさまをいう。後漢の[説文解字]は「延行エンコウ(うねうねと行く)皃(さま)」とし、[同注]は「視(み)て行く也(なり)」とする。現代字は、川⇒巛に変化した巡ジュンになった。
意味 めぐる(巡る)。めぐり。まわる。(1)みてまわる。「巡視ジュンシ」「巡回ジュンカイ」(2)めぐり歩く。「巡業ジュンギョウ」「巡礼ジュンレイ」「巡幸ジュンコウ」(天子が諸国をめぐる)
 セン  土部 zhèn
解字 「土(耕作地:田)+川(かわ・セン)」の会意形声。耕作地(田)の中の水路の意。また、水路の走る田を意味する地名。中国南部の新興都市・広東省深圳市が名高い。                 深圳市(「ウィキペディア」より)
意味 (1)田の水路。(2)地名。「深圳シンセン」(田に深い水路のある地を表した地名。広東省南部、香港の北に隣接する都市。当初は文字通り水路の走る田園がひろがる農村だったが、香港と隣接するため国境の町として栄えるようになり、さらに改革開放が始まると真っ先に経済特別区になり(1980年)、外国資本の進出によって商工業が発展した新興都市) 

 ジュン・シュン・したがう  頁部 shùn
解字 「頁(頭部を強調した人の姿)+川(川の流れ。セン⇒ジュン)」の会意形声。人が(川の)流れてゆく方向に頭をむけ素直に進む意から転じて、順(したが)う意となった。
意味 (1)したがう(順う)。すなお。「順応ジュンノウ」「従順ジュウジュン」(2)都合がよい。「順調ジュンチョウ」「順当ジュントウ」(3)道筋や次第。「順序ジュンジョ」     

 ジュン・なれる・ならす  馬部 xùn                                                      解字 「馬(うま)+川(=順。したがう)」の会意形声。馬が人にしたがうこと。
意味 (1)なれる(馴れる)。ならす(馴らす)。「馴化ジュンカ」(なれてゆくこと)「馴致ジュンチ」(なれさせる)「馴鹿ジュンロク」(①馴れた鹿、②トナカイ。北方の寒地に生息し、雄雌ともに大きな角をもつ)「馴染(なじ)む」(馴れて親しくなる)              トナカイ(維基百科「馴鹿」より)          https://zh.wikipedia.org//zh-tw/驯鹿

形声字
 クン・おしえる・よむ  言部 xùn 
解字 「言(いう)+川(セン⇒クン)」の会意形声。後漢の[説文解字]は「說教也。言に従い川の聲(声)(発音は)許運切(クン)」とし、おしえ・さとすことを訓クンという。転じて、習熟させる(訓練)意味ともなる。日本では漢字に当てた日本語のよみ(訓読み)の意味でも用いる。                                             
意味 (1)おしえる(訓える)。おしえ。さとす。「訓育クンイク」「家訓カクン」(家長が子孫に伝えた訓え)「訓戒クンカイ」(教えさとし、いましめる)(2)習わせる。習熟させる。「訓練クンレン」(3)よむ(訓む)。古典の文をおしえる(訓える)とき、現在の言葉で解釈すること。「訓釈クンシャク」(字義をときあかす)(4)[日本]くんよみ(訓読み)。漢字に当てた日本語のよみ。「訓読クンドク」(①漢字の日本語読み。②漢文を日本語の語順で解釈して読む)「字訓ジクン」(漢字のくんよみ)                     

 セン・くしろ  金部 chuàn
解字 「金(金属)+川(セン)」の形声。センは穿セン(穴をあける)に通じ、穴があいた金属の輪の意で、腕輪のこと。
意味 (1)うでわ。くしろ(釧)。腕にはめる飾りの輪。「釧くしろ着く」(枕言葉。手節たふし[手の関節の意から手首・腕の意]にかかる)(2)地名。「釧路くしろ」(北海道東部の太平洋沿岸にある地名。現在は釧路市と釧路町がある。釧路は腕輪の意でなく、アイヌ語の発音に漢字を当てた地名)

川が溢れる
 サイ・わざわい  火部 zāi                                
解字 「火(ひ)+巛サイ」の会意形声。巛サイは、古い篆文(籀チュウ文)では「巛(水流)+一」で、巛に一線を引いた字。水流がふさがれて溢れる水害を表わし「わざわい」の意。これに火のついた災は、火のわざわいの意だが、ひろく「わざわい」の意となる。  
意味 わざわい(災い)。よくない出来事。「災害サイガイ」「震災シンサイ」(地震の災害)「災禍サイカ」(災も禍も、わざわいの意)
<参考> 災は、ほのおが燃える形ではない。ほのおは炎エンであらわす。


   シュウ <川のなかす>
 シュウ・す  川部 zhōu          

解字 甲骨と金文は、川の中に中州なかす(川の中にできた島のようになった所)が一つできたさまを描いた象形。篆文は三つの中州らしき形を描き、現代字は川に点を三つくわえた「州」になった。水流によって自然に区画されている地域をいう。                  

広島湾にそそぐ太田川の三角州国土地理院「三角州」より)                                       意味(1)す(州)。川のなかす。「中州ナカス」「三角州サンカクス」(川の流れが運んできた土砂が河口に溜まってできた三角形の土地。デルタ)(2)大きなしま。「本州ホンシュウ」「神州シンシュウ」(自国の美称)(3)昔の行政区画。「九州キュウシュウ」「信州シンシュウ(長野県の昔の呼び名)「州司シュウシ」(州の役人)(3)大陸。「欧州オウシュウ

イメージ  
 「なかす」
(州・洲)   
 「形声字(シュウ)」(酬)

音の変化   シュウ:州・洲・酬

なかす
 シュウ・す・しま  氵部 zhōu
解字 「氵(水)+州(なかす)」の会意形声。水に取り囲まれた中州。州が行政区画の意味に使われたので、水を付けて本来の意味を強調した字。しかし、現代表記では州に書きかえるので、ほとんど使われない。
意味 (1)す(洲)。しま(洲)。「中洲なかす=中州」(2)大陸。「五大洲ゴダイシュウ=五大州」

形声字
 シュウ・ジュ・むくいる・むくい  酉部 chóu
解字 「酉(さけ)+州(シュウ)」の形声。シュウは壽シュウ・ジュ(寿の旧字)に通じる。壽シュウ・ジュは、長生きをする意から、長くつづく意味があり、酉(さけ)のついた酬シュウは、客との酒杯のやりとりが長く続くこと。また、相手に酒盃を返す(むくいる)意となる。「酉(さけ)+」のシュウ・ジュは酬の異体字で同字。
意味 (1)酒杯をやりとりする。受けた杯をかえす。「献酬ケンシュウ」「応酬オウシュウ」(2)むくいる(酬いる)。こたえる。返事する。「唱酬ショウシュウ」(唱は吟じる。詩歌や文章を作って、互いにやりとりする)(2)むくい(酬い)。お返し。「報酬ホウシュウ」(労働の対価として払われる金品)
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「冒ボウ」<目だけ出して頭におおいをかぶせる> と「帽ボウ」「瑁マイ」

2025年03月20日 | 漢字の音符

 <眼だけ出して頭におおいかぶせる>               ボウ・おかす  曰部 mào・mò

目出し帽(販売広告から)                                              解字 金文から旧字まで「目(め)+冃ボウ(ずきん)」の会意形声。冃は頭衣(かぶりもの)で、冒ボウは、かぶりものから目だけ出している形。目だけ出したカブト(甲冑)をかぶって進む意から、周囲がみえず無頓着に行動する意となる[字統]。新字体は旧字の冃 ⇒ 日に変化した冒になった。
意味 (1)おかす(冒す)。無理にする。「冒険ボウケン」「感冒カンボウ」(冒(おか)されるのを感ずる。呼吸器系の炎症性疾患。かぜ。風邪)「流行性感冒リュウコウセイカンボウ」(インフルエンザ)(2)けがす。「冒涜ボウトク」(おかしてけがす)「冒名ボウメイ」(他人の姓名を偽ってなのる)(3)(一番上の頭にかぶることから)はじまり。「冒頭ボウトウ」(文章や言葉の初めの部分)

イメージ 
 目だけ出して頭に「かぶせる」(冒・帽・瑁)
音の変化  ボウ:冒・帽・瑁  

かぶせる
 ボウ  巾部 mào
解字 「巾(ぬの)+冒(かぶせる)」の会意形声。頭をおおいかくす布で、かぶりものをいう。
意味 かぶりもの。ぼうし。「帽子ボウシ」「脱帽ダツボウ」「角帽カクボウ」(上部が角形の帽子。大学生の帽子とされることから大学生の俗称。

 角帽(販売広告から)       

 ボウ・マイ  玉部 mào
解字 「王(玉)+冒の旧字(おおいかぶせる)」の会意形声。天子が諸侯を封じる時に、諸侯に授けた圭ケイという玉にぴったり符合するように作られ、天子の手許に残しておく玉の意。圭にかぶせる帽子のような玉の意を表す。
意味 (1)「瑁ボウ」。天子の持つ、しるしの玉。「珪瑁ケイボウ」(珪は天子が与える玉、瑁は天子が手元に残しておく玉で、有用な人材の意)(2)「玳瑁タイマイ」に使われる字。玳瑁とはウミガメ科のカメ。背中の甲(こうら)は黄色と黒褐色の斑紋が入り鼈甲ベッコウといい、装飾品の材料として珍重される。(3)人名。「蔡瑁サイボウ」(中国後漢末期の武将)     

                    

玳瑁タイマイ (「百度百科・玳瑁属」より)                       <紫色は常用漢字>     

                                            

<関連音符>
 マン  日部 màn         

解字 篆文は「冃ボウ(かぶりもの)+罒(横に描かれた目)+又(手)」の会意。ずきんを手でひいてかぶり、目(金文は目とマユを描く)だけ出している形。「かぶる(おおう)」が原義。現代字は、冃ボウ⇒日に変化した。字の構造は冒に又をつけた形である。
意味 本来の意味でなく、主に梵語の音訳語として使われる。「曼荼羅マンダラ」(多くの仏を模様のように描いた絵)「曼珠沙華マンジュシャゲ」(天上に咲くという花)
イメージ 
 「おおう」
(曼・蔓・鰻・幔・鏝・鬘・饅・漫)
 かぶりものをして目だけ出すことから「まわりが見えない」(慢)
音の変化  マン:曼・蔓・鰻・幔・鏝・鬘・饅・漫・慢
音符「曼マン」

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「申シン」<イナズマ>と「伸シン」「神シン」 「紳シン」「呻シン」「電デン」「坤コン」「榊さかき」

2025年03月16日 | 漢字の音符

 <イナズマが屈折して走るかたち>                    シン・もうす・さる  田部 shēn


解字 甲骨文は電光(イナズマ)の象形。イナズマが屈折して走る形で、のびる意味を表わす。金文は丸みをおびた形になった。イナズマは神が鳴ると考えられており、神の原字であり、また電の原字でもある。篆文は上からの両手の間に線を引いた形に変化し、それが現代字・申のもとになっている。なお、もうす・のべる意と、十二支の「さる」の意は仮借カシャ(当て字)である。
意味 (1)のびる。のばす。くつろぐ。(2)もうす(申す)。のべる。つげる。「申告シンコク」(申し告げる)「答申トウシン」(答えて申し上げる)「内申ナイシン
」(3)十二支の九番目。さる(申)

十二支と方位(「暮らし歳時記」より)                九番目が申(さる)。南西が坤コン(ひつじさる)

                                             
イメージ 
 イナズマの象形から「イナズマ」(申・神・榊・電・坤)
 イナズマが雷雲から下へ「のびる」(伸・紳・呻)

音の変化  シン:申・神・伸・紳・呻  デン:電  コン:坤  さかき:榊

イナズマ
 シン・ジン・かみ・かん・こう  ネ部 shén・shēn
解字 旧字は神で 「示(祭壇)+申(イナズマ)」 の会意形声。イナズマを信仰の対象として祭ること。古代の人はイナズマを神の現れと見た。新字体は、示⇒ネに変化した神。
意味 (1)かみ(神)。「神社ジンジャ」「神宮ジングウ」「神主かんぬし」(2)不思議なちから。「神秘シンピ」(3)こころ。たましい。「精神セイシン」「神経シンケイ
 <国字> さかき  木部 shén
解字 「木(き)+神(かみ)」 の会意。神事にもちいる木。     
 神棚の榊(「日本榊本舗」より)                                           意味 (1)さかき(榊)。①神事に用いる常緑樹の総称。②ツバキ科の常緑小高木。葉は深い緑色で光沢がある。①②とも古来から、神木として枝葉を神に供える。「真榊まさかき」(榊の美称。神事の場で祭壇の左右に立てる先端に榊を立てた祭具)(2)姓のひとつ。「榊原さかきばら」「榊莫山さかきばくざん」(書道家)
 デン・いなずま  雨部 diàn 
解字 「雨(あめ)+申(イナズマ)」 の会意。雨の中をイナズマが走ること。申(イナズマ)に雨を加えて本来の意味を表した。申は下部に付いて电に変形し、さらに上部の突き出たところがとれた。
いなずま(電)(「ウィキペディア・電気」より                                           意味 (1)いなずま(電)。「電光石火デンコウセッカ」(イナズマや火打ち石の火のきらめきのように短い時間)「電撃デンゲキ」(イナズマのようなすばやい攻撃)(2)でんき。「発電ハツデン」「電車デンシャ」「電圧デンアツ」「電話デンワ
 コン・ひつじさる 土部 kūn                             
  解字 「土(つち)+申(イナズマ)」 の会意。イナズマが土に届くこと。イナズマ(神)が届いた大地の意。易の八卦のひとつとして用いられる。なお、ひつじさるの意は「十二支と方位」から組み合せた方角をいう。
意味 (1)つち。大地。「坤元コンゲン」(大地)「坤輿コンヨ」(坤は大地、輿は乗り物で、万物をのせる乗り物である大地の意)。(2)易の八卦のひとつ。地・母・下などを表す。対義語は乾ケン(天)。「乾坤ケンコン」(天地)「坤徳コントク」(大地の徳、すなわち大地が万物を育てる力。転じて女性の徳)(3)ひつじさる(坤)。(=未申)。南西の方角。申シンの「十二支と方位」を参照。

 易経八卦(「知恵の森」より)                                                 
のびる
 シン・のびる・のばす・のべる  イ部 shēn
解字 「イ(人)+申(のびる)」 の会意形声。人がのびのびとすること。人にかぎらず、のびる・のばす意に用いられる。
意味 (1)のびる(伸びる)。のばす(伸ばす)。「伸長シンチョウ」(長さや力がのびる)「伸縮シンシュク」「伸展シンテン」(伸びひろがる) (2)申し述べる。「追伸ツイシン
 シン・おおおび  糸部 shēn
解字 「糸(帯)+申(のばす)」の会意形声。後漢の[説文解字]は、「大帯なり」としており、糸は帯を表している。ここに申(のばす)が付き、腰に巻いた大帯の端を垂らす作法のこと。高官や文人の礼装に用いる帯をいう。[字統]は「大帯の余りを三尺垂れた。論語の「衛霊公 第十五」に、孔子の話を聞いた子張は『子張、諸(こ)れを紳に書す』とあり、大帯の垂れた余りの部分に、孔子の語を急いで書きとどめたことをいう」と解説している。意味は、大帯から転じて、高位高官の人の意となった。
意味 (1)おおおび。ふとおび。高官の礼装に用いられた帯。「紳帯シンタイ」(大帯。文官の儀礼服)(2)高位高官の人。「紳士シンシ」(①上級官吏。②気品と教養があり礼儀正しい人)「紳士協定シンシキョウテイ」(正式の協定でなく相手を信頼して結ぶ取り決め)「貴紳キシン」(身分の高い人)
 シン・うめく  口部 shēn
解字 「口(くち)+申(のばす)」 の会意形声。口から出る声をのばすこと。例:ウー、ウーン。
意味 うめく(呻く)。うなる(呻る)。「呻吟シンギン」(うめく。苦しみうなる)「嚬呻ヒンシン」(嚬ヒンは顔をしかめる、呻はうめく、顔をしかめてうめくこと)                   

<紫色は常用漢字>

  バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「可カ」と「柯カ」「呵カ」「訶カ」「哥カ」「歌カ」「苛カ」「珂カ」「河カ」「舸カ」「柯カ」「坷カ」「軻カ」「何カ」「荷カ」

2025年03月14日 | 漢字の音符

 増補改訂しました。
 カ・よい・べし  口部 kě・kè

①ニューギニアの石斧(下の石斧)(南山大学博物館蔵)②石斧をつけた曲がった木の枝(レプリカ)
解字 甲骨文字は「口(くち)+斧(おの)の柄にするまがった木」の形。「斧の柄にするまがった木」とは上の写真のような斧の柄になる木であり柯(斧の柄)の原字。可は、この曲がった木の柄の発音である「カ」を口から出す形であり「カ(か)」の音を表す。カの音は、金文で「可能」「許可」の意味で使われており[簡明金文詞典]、承諾を表す「よし」の他、「できる」などの意味をあらわす助字となる。
意味 (1)よい(可い)。よし。よいと許す。「可否カヒ」(よしあし)「許可キョカ」(2)できる。「可能カノウ」「可及的カキュウテキ」(できるかぎり)(3)べし(可し)。するべし。(4)ほぼ(可)。ばかり(可り)(5)その他。「可憐カレン」(①愛らしい、②かわいそう)       

 カ・え  木部 kē
解字 「木(き)+可(斧の柄にするまがった木)」の会意形声。木の枝を利用して作られた道具をいう。長い枝を柄にして短い枝の末端を加工して斧(おの)をはめた道具の意。
                       
中国河姆渡(かぼと)遺跡で発掘された木製の斧(おの)の柄(浙江省博物館所蔵)
河姆渡遺跡とは
中国浙江省で紀元前5000年頃~紀元前4500年頃にかけて存在した新石器時代の初期農耕文化の生活遺跡。写真は「百度百科」の「新石器時代河姆渡文化木斧柄」より

意味 (1)え(柯)。斧の柄。斧をつける先の曲がった枝。「斧柯フカ」(斧の柄)(2)木の枝。「柯条カジョウ」(曲がった木の枝)「柯葉カヨウ」(枝と葉)(3)姓のひとつ。「柯隆カリュウ」(経済学者)


イメージ 
 「よし・できる」
(可・柯)
 「形声字」(呵・訶・哥・歌・苛・珂・河・舸・柯・坷・軻・何・荷)
 
音の変化  カ:可・柯・呵・訶・哥・歌・苛・珂・河・舸・柯・坷・軻・何・荷

形声字
 カ  
口部 hē・ā・kē                                 解字 「口(くち)+可(カ)」の形声。口でカッという声を強く出すことを呵という。しかる意と、わらう意とある。可は本来、カ(丁)という音を口から出す意だったが、可能などの意に仮借カシャ(当て字)されたので、口をつけて本来の意味を表した。そのため、この字には口が二つある。
意味 (1)しかる(呵る)。せめる。「呵叱カシツ」(呵も叱も、しかる意)「呵責カシャク」(しかりせめる)(2)わらう(呵う)。「呵呵カカ」(からからと笑う) 
              

 カ 言部 hē                                      解字 「言(ことば)+可(カ)」の形声。カッという強い言葉を出すこと。呵とほぼ同じ意味だが、梵語の音訳字としての使用が多い。
意味 (1)しかる(訶る)。(=呵る)。せめる。(2)梵語の音訳。「魔訶マカ」(梵語mahaの音訳。偉大な・非常に・すぐれる意)「摩訶不思議マカフシギ」(非常に不思議な。原義は、思い議(はか)りもできないほど偉大な)
 カ・コ  口部 gē
解字 「可(カという声)+可(カという声)」の形声。カという声を連続して出すこと。うたう意となる。歌の原字。コの発音は唐音(宋以後の中国音)。
意味 (1)うたう(哥う)。うた。(2)地名。「哥倫比亜コロンビア」(南アメリカ北西部の共和国)
 カ・うた・うたう  欠部 gē
解字 「欠(口をあけて立つ人)+哥(うたう)」の会意形声。欠ケンは口をあけて立つ人の象形。これに哥(うたう)がついた歌は、人が口をあけて歌うこと。
意味 (1)うた(歌)。うたう(歌う)。「歌手カシュ」「歌謡カヨウ」(歌を謡う。民間の歌)「歌劇カゲキ)(2)やまとうた。「和歌ワカ」「歌人カジン
 カ  艸部 kē 
解字 「艸(くさ)+可(カ)」の形声。からい草を食べてカッと声を強く出すこと。からい意から転じて、きびしい・むごい意となる。
意味 (1)からい(苛い)・きびしい(苛しい)・むごい(苛い)。「苛政カセイ」「苛烈カレツ」「苛酷カコク」(2)いらだつ。いらいら(苛苛)する。「苛立(いらだ)つ」
 カ  王部 kē
解字 「王(玉)+可(カ)」の形声。カという名の宝石。メノウの白いものを言う。
意味 (1)しろめのう。「珂傘カサン」(玉で飾った傘)「珂声カセイ」(玉の触れ合う音)(2)貝の名。くつわがい。(3)地名。「那珂湊なかみなと」(茨城県の旧市名)「那珂川なかがわ」(①茨城県で太平洋にそそぐ川。②福岡県で博多湾にそそぐ川)
 カ・かわ    氵部 hé
解字 「氵(川)+可(カ)」の形声。可カという名の川。中国で黄河を表す字として使われた。黄河は中流で「几」の字形にまがり、さらに関中盆地から流入する渭水との合流点でもほぼ直角に曲る。甲骨文字からある字。

上が黄河、下が長江                     中国語スクリプト(「黄河」より)
意味 (1)川の名前。「黄河コウガ」「河源カゲン」(黄河の水源地)「河北カホク」(①黄河の北、②河北省のこと)(2)かわ(河)。川の通称。「河川カセン」「河口カコウ」(3)ほりわり。「運河ウンガ」(4)天の川。「銀河ギンガ
 カ  舟部 gě
解字 「舟(ふね)+可(=河。大きな河)」の形声。河を上下する比較的大きな舟を舸という。
意味 ふね(舸)。おおきな船。「軽舸ケイカ」(軽快な船。はやぶね)「舸船カセン」(大きな船)「舸艦カカン」(軍船と軍艦)

 カ  土部 kē・kě
解字 「土(つち)+可(カ)」の形声。けわしく平らでない土地を坷という。
意味 (1)けわしい。たいらかでない。行なやむ。「坎坷カンカ」(①でこぼこして平らでないさま。②行きなやむ。坎も坷も、たいらかでない意)
 カ  車部 kē
解字 「車(くるま)+可(=坷。行なやむ)」の形声。たいらかでない土地で車が行きなやむことを軻という。
意味 (1)「轗軻カンカ」とは、坎坷カンカを車偏に置き換えて作った熟語。①車の行き悩むさま。②事の思うように運ばないさま。(2)車がきしるさま。「軻峨カンガ」(ごつごつして高いさま)(3)孟子の名。「孟軻モウカ
 カ・なに・なん  イ部 hé・hè

解字 甲骨文は、人が斧(おの)の柄(=丁。=柯。まがった柄)をになう形。荷(にな)うの原字。金文は人に頭部を追加して描いた形。篆文以降、「イ(ひと)+可カ(=柯。斧の柄)」の形声になった。意味は人が斧の柄を「になう」こと。しかし、本来の意味でなく、人にものを尋ねる意に仮借カシャ(当て字)され、「なに」「どれ」などの疑問詞となった。
意味 (1)なに(何)・どれ・どの。「誰何スイカ」(誰か、と声をかけて問いただす)「如何イカン」(イカニの音便)(2)なんぞ(何ぞ)(3)いずく(何く)。いずれ(何れ)(4)になう。
 カ・に・になう  艸部 hé・hè
解字 「艸(くさ)+何(になう)」の会意形声。花弁を荷っているハス花の花托の意からハスの意がある。何が「なに」の意となったため、本来の「になう」意味も表わす。
意味 (1)になう(荷う)。「荷担カタン」(①荷物を担う。②味方をする)「稲荷いなり」(稲を荷う意。①稲荷神社の略。②狐の俗称(稲荷神の使いとする俗信から)(2)に(荷)・にもつ。「出荷シュッカ」「重荷おもに」「歩荷ぼっか」(山小屋などへ荷物をいくつも背負って運ぶ仕事をする人。荷物が歩く意からと言われる)(3)はす(荷)。蓮の古名。「荷花カカ」(ハスの花=荷華)「荷葉カヨウ」(ハスの葉。ハス花の香りに似せた練り香の一種)
<紫色は常用漢字>

  バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「它タ」と「佗タ」「詑タ」「舵ダ」「柁ダ」「駝ダ」「鴕ダ」「跎ダ」「陀ダ」「沱ダ」「鉈シャ」「蛇ジャ」

2025年03月12日 | 漢字の音符

 タ・へび   宀部 tā・shé

解字 甲骨文は蛇をリアルに描いた象形、金文は頭が左右にふくらみ、その中を通して太い胴をえがき、背中にも線をいれている。第二字は単純化されており頭のふくらみに隙間ができている。篆文は頭のふくらみが誇張されて大きく、胴の線は頭の左右からのび、背中の線は無くなった。頭の大きな蛇の象形。現代字は上が宀、下がヒに分離した它になった。
 なお、金文の時代から它タの音を借りて「ほか」の意味にもちいる使い方があったので、ほか・よその意味がある。[常用字解]。
意味 (1)へび(它)。=蛇(へび)。「竜它リュウダ」(竜とへび) (2)ほか。よそ。別の。「它人タニン」(=他人) 
※現代中国では三人称代名詞に用い、人なら「他」(あの人)、女性なら「她」(彼女)、人以外のものなら「它」(それ)と書いて使い分けている。

イメージ 
 「へび」
(它・蛇)   
 「ほか(借音)」(佗・詑)
 「形声字」(舵・柁・鉈・駝・鴕・跎・陀・沱)
音の変化  タ:它・佗・詑  ダ:舵・柁・駝・鴕・跎・陀・沱  シャ:鉈  ジャ:蛇

へび
 ジャ・ダ・タ・へび  虫部 shé・
yí                          解字 「虫(動物)+它(へび)」の会意形声。它はへびの意味があり、虫を加えてその意味を明確にした。
意味 (1)へび(蛇)。くちなわ。「大蛇ダイジャ」「蛇足ダソク」 (2)形がへびに似ているもの。「蛇腹ジャばら」「蛇口ジャぐち

ほか(借音)
 タ・ほか  イ部 tuó・tuō
解字 「イ(ひと)+它(ほか)」 の会意形声。它は金文で它タの音を借りて「ほか」の意味に用いた。ほかの人の意。また、人にかぎらず、ほかの意を表す。
意味 (1)ほか(佗)。よそもの。(=它。他)。「佗日タジツ」(=他日)「佗人タニン」(=他人)(2)日本で侘(わび・静寂で落ち着いた味わい)の意味で使うことがあるが誤用である。例:「佗(わび)住い」
 タ・あざむく  言部 tuó
解字 「言(ことば)+它(ほか)」 の会意形声。本当のことを言わず、ほかの事をはなすこと。あざむく意となる。
意味 (1)あざむく(詑く)。そしらぬ顔をする。「詑語タゴ」(あざむき言う)(2)(人を)かろんずる。うぬぼれる。「詑詑タタ」(自らほこるさま。いい気になる)

形声字
 ダ・タ・かじ  舟部 duò
解字 「舟(ふね)+它(タ・ダ)」 の形声。船尾にあって船の進む方向を変える「かじ」を舵という。なお、「柁(木+它)」も同じ趣旨の字で、「かじ」を表す。

船尾の舵(コトバンク「千石船」より)
意味 かじ(舵)。船のかじ。「操舵ソウダ」(舵を操る)「舵手ダシュ」「舵取(かじと)り」
 ダ・タ・かじ  木部 tuó・duò
解字 「木(き)+它(=舵)」 の会意形声。舵の舟偏を木偏に替えた字で、船の木製の舵を表した字。
意味 かじ(柁)。船のかじ。「柁手ダシュ」(=舵手)
 シャ・シ・なた  金部 tā・tuó

剣鉈と腰鉈(「剣鉈と腰鉈の違い」より)
解字 「金(金属)+它(タ⇒シャ)」 の形声。短く幅のひろい金属の刃がついた刃物を鉈シャという。後漢の[説文解字]は「短い矛(ほこ)也(なり)。金に従い它の聲(声)」とする。日本ではナタの意味で用いる。
意味 (1)[国]なた(鉈)。薪(まき)などを割るのに使う短くて幅のひろい刃物。「鉈彫なたぼり」(鉈で彫ったような荒々しい力強さが特徴の仏像彫刻)「剣鉈ケンなた」「鉈豆なたまめ」(さやが鉈ほどの大きさになる豆)(2)ほこ。短いほこ。
 ダ・タ  馬部 tuó・
chí                                解字 「馬(うま)+它(ダ)」の形声。背中にこぶをつけたような馬を駝といい「駱駝ラクダ」に用いる。また形がラクダに似た鳥の「駝鳥ダチョウ」に用いる。
意味 (1)「駱駝ラクダ」に使われる文字。駱駝とは、背中にこぶがある大形の獣。「駝馬ダバ」(ラクダ)(2)「駝鳥ダチョウ」に使われる文字。駝鳥とは、足の長い大きな鳥で、よく走るが飛べない。頭から背中のふくらみにかけての形がラクダと似ている。
 ダ・タ  鳥部 tuó
解字 「鳥(とり)+它(=駝。ラクダ)」 の会意形声。ラクダに似て背のふくらみがある鳥を鴕といい、「鴕鳥ダチョウ」に用いる。
意味 だちょう(鴕鳥)。ダチョウ科の野鳥。鳥の中で最も大きい。駝鳥とも書く。
 タ・つまずく  足部 tuó
解字 「足(あし)+它(タ)」の形声。足がつまずくことを跎という。つまずく。足をふみはずす意となる。
意味 つまずく(跎く)。足をふみはずす。「蹉跎サタ」(蹉も跎も、つまずく意。もたもたして時期を失うこと)「蹉跎歳月サタサイゲツ」(もたもたして歳月をむなしく過ごすこと)
 ダ・タ  阝部 tuó・duò
解字 「阝(おか)+它(ダ)」 の形声。岡が傾斜して平らかでないさまを陀という。また、梵語の音訳字に用いられる。
意味 (1)梵語の音訳字。「仏陀ブッダ」(悟りに達した人。ほとけ)「阿弥陀アミダ」(極楽世界を主宰する仏。阿弥陀仏)「陀羅尼ダラニ」(呪文を翻訳しないでそのまま読誦する)(2)「陂陀ハダ」(かたむいて平らかでない)
 ダ  氵部 tuó・duò
解字 「氵(川)+它(ダ)」 の形声。ダという名の四川省を流れる川をいう。
意味 (1)川の名。「沱江ダコウ」(四川省中部を南流して長江にそそぐ川)(2)「滂沱ボウダ」とは、①大雨の降るさま。②涙がとめどなく流れるさま。
<紫色は常用漢字>


   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「也ヤ・なり」 と「施シ」「弛シ」「絁シ」「他タ」「地チ」「池チ」「馳チ」「髢テイ」「匜イ」 

2025年03月10日 | 漢字の音符
  也は「へび」ではなかった。
 ヤ・なり・や  乚部 yě 
 也をヘビと説明する字書

①は「角川新字源」(2017年)の也ヤ。「象形。へびの形にかたどる。もと它タと同じ」と書かれている。②は「古代文字字典 甲骨・金文編」(城南山人編・マール社・2003年)の也ヤ(右から2番目)。金文篇の也には它タが載っている。以上、例をあげたようにかなりの字書が「也は金文で它タ(蛇)であり、元は蛇のかたちから変化した」としている。
 しかし、最近の成果を取り込んでいるネットの字典は也をヘビとは見ていない。下の変遷図はネットの「漢典(中国)の也(の字源・字形)」および「漢字古今字資料庫(台湾)の也」を参考にして描いたものである。下の它(ヘビ)とくらべると違いが分かる。


 上は也、下は它
 金文の也は、上掲の「角川新字源」などと形が異なっている。この字は春秋中期の欒書缶ランショフに描かれた「也」で、口の下にヘビのような曲線がついている。今回、金文の掲載されている器の写真と、そこに掲載されている文字を確認でき、也はヘビでなく助辞であることが分かった。
 欒書缶(ランショフ)というのは、欒書ランショ(人名)の子孫が先祖を祭るために作った蓋つきの器で、この器の外側と蓋の裏に文字が金で象嵌されている。「也」の字があるのは器体の外側で以下のようになっている。

春秋中期の欒書缶(らんしょふ)に描かれた「也」
https://x.com/seidouki_bot/status/791966063407697921
①は欒書缶(らんしょふ)の器体、②は描かれた文字列。③は文字列の拓墨。
「也」の字は書かれている文字列②③の左から2行目、下から4番目にある。この行は上から「余畜孫書也擇其吉金」(金は次の行の最初の字)と釈されており、「余(われ)は畜(孝)孫[孝孫は人名]の書を也(以)って其の吉金(金象嵌に用いる良質の金)を擇(えら)び」以下は次の行「以て鋳缶(鋳造した缶)を作る」となる。(「百度百科の「戦国欒書缶」による)
https://baike.baidu.com/item/%E6%88%98%E5%9B%BD%E6%A0%BE%E4%B9%A6%E7%BC%B6/10770458
 ここで注目すべきは、也が「以って」と釈されていることである。しかし、左3行目の上から2番目の字も、字体が異なるものの「以って」と釈されているが理由は分らない。日本の字書には「也」の意味に「以って」はないが、意味が蛇でなく接続詞的に訳されていることがわかる。
解字 金文は口の下にまがりくねった線を描いて、口から語気がでている形。金文では「以って・用いて」の意味になっている。篆文は[説文解字]が「女陰也」とおかしな解字をしている。この字は隷書(漢代)をへて「也」の形となり、意味も断定の助字「なり」や、感嘆の助字「や」などとして用いられる。
意味 (1)なり(也)。~である。断定の語気をあらわす助字。(2)や(也)。か(也)。文中や文末にあって語の勢いを強めたり、感嘆・疑問・反語の語気を示す助字。(3)や(也)。提示。~は。~というものは。(4)詠嘆。~のことよ。文末に置かれ詠嘆の語気を表す。(5)よびかけ。~よ。(6)「也已のみ」(7)「也哉なるかな」(だなあ)(8)反語。「也や」(ならん也(や)

イメージ 
 「助字」
(也) 
 「形声字」(地・池・馳・弛・施・絁・髢)
 「它と融合した字」(他・匜)
音の変化  ヤ:也  シ:施・弛・絁  タ:他  チ:地・池・馳  テイ:髢  イ:匜 

形声字
 チ・ジ  土部 dì
解字 「土(つち)+也(ヤ⇒チ)」の形声。天に対し、その下にひろがる土を地という。土地・地面の意から、ところ・場所の意味などに用いる。
意味 (1)つち。とち。「土地トチ」「地面ジメン」「陸地リクチ」(2)ところ。場所。「地域チイキ」(3)その土地の。「地酒ジざけ」「土産みやげ」(4)身分。位置。「地位チイ」(5)本来持っている性質。「素地ソジ
 チ・いけ  氵部 chí
解字 「氵(水)+也(ヤ⇒チ)」の形声。長く水を引いた通水路や城の堀池を池という。のち、庭の池などをいう。[説文解字注]は「水を畜(ため)るを陂(つつみ)と曰(い)い、地を穿(うが)ち水を通すを池と曰(い)う」とする。
意味 (1)ほり。みぞ。「城池ジョウチ」(城のほり)「金城湯池キンジョウトウチ」(熱湯をたたえた堀と金属の城。守りが固くせめおとすことができない城)(2)いけ(池)。地を掘って水をためたところ。「貯水池チョスイチ」「池塘チトウ」(池の堤)(3)硯などの水をためておく所。「硯池ケンチ」「電池デンチ
 チ・はせる  馬部 chí
解字 「馬(うま)+也(ヤ⇒チ)」の形声。馬が疾走することを馳という。[説文解字]は「大駆(勢いよく走る)也。馬に従い也チの聲(声)」とする。
意味 はせる(馳せる)。かける。速くはしる。「馳名チメイ」(名声がひろまること)「駆馳クチ」(はせかける。駆も馳も、はせる意)「馳走チソウ」(食事の準備のためにかけまわる:もてなしの立派な料理)「御馳走ゴチソウ」(①豪華な食事、②心をこめたもてなし)
 シ・チ・ゆるむ・たるむ・たゆむ  弓部 chí
解字 「弓(ゆみ)+也(ヤ⇒シ)」の会意。弓の弦をはずして弓がのびたさまを弛という。
意味 ゆるむ(弛む)。たるむ(弛む)。「弛緩シカン」(ゆるむこと。弛も緩も、ゆるむ意)「弛張シチョウ」(緩むことと張ること)
 シ・セ・ほどこす  方部 shī
解字 「方𠂉(旗の略体)+也(ヤ⇒シ)」の形声。旗をなびかせて人々を指揮して動かし、諸事をおこなうことを施という。また、施の意味の一つである「ほどこす」(必要な処置をとる)意から「めぐみ与える」意が派生した。[説文解字]は「旗の貌(さま)。オン・エン(はた)に従い也シの聲(声)。発音は式支切(シ)」とする。
意味 (1)旗がなびく。(2)実行する。おこなう。ゆきわたらせる。しく。「実施ジッシ」「施政方針シセイホウシン」「施工セコウ・シコウ」(工事をおこなう)「施行シコウ」(①実施する。②法律の効力を発生させる)「施術セジュツ」(手術などを実施すること)(3)ほどこす(施す)。必要な処置をとる。「施策シサク」(ほどこすべき対策)「施錠セジョウ」(錠をかける)(4)ほどこす(施す)。めぐみ与える。「布施フセ」(施しめぐむ)「施薬セヤク」(薬をほどこす)「施主セシュ」(①寺や僧に物を施す人。②法事や葬式の当主。③建築主)
 シ・あしぎぬ  糸部 shī
解字 「糸(=絹・きぬ)+施の略体(ほどこす)」の会意形声。日本の古代では、律令政府の官人が政府から受け取る(ほどこされる)給与は布・綿など現物給与が多かった。絁は現物給与の絹織物をいう。現物給与は諸国からの現物租税であり、諸国の調(絹・綿・布)のうち、絹織物を絁とも言った。のちに貨幣経済が発達するにつれて現物納税の絁は粗悪化し、太い糸で織ったものが出回ったので、あしぎぬ(悪し絹)と呼ばれるようになった。なお、中国では粗い絹の意。

黄絁(きあしぎぬ)(「正倉院宝物」より)
意味 あしぎぬ(絁)。ふとぎぬ(太絹)⇔ 縑かとり。古代日本に存在した絹織物の一種。交換手段・課税対象・給与賜物・官人僧侶の制服などに用いられた。写真の正倉院宝物の黄絁(きあしぎぬ)は、染色に刈安が用いられている。
 テイ・かもじ  髟部かみがしら dí
解字 「髟(かみ)+也(ヤ⇒テイ)」の形声。婦人の髪に加えて長くするそえ髪を髢テイ(かもじ)という。髢(かもじ)とは、髪を結うときに地毛の足りない部分を補うための添え髪や義髪のこと。髪文字とも呼ばれる。
意味 かもじ(髢)。髪文字かもじとも書く。(1)長い髪。女房詞の髪(2)婦人の髪に加えて長くする髪。そえがみ。いれがみ。「髢屋かもじや」(かもじの材料を買い取って、かもじを作ってうる店)。「髢草かもじぐさ」(イネ科の多年草。子供がこの葉で人形のかもじを作って遊ぶのでこの名があるという)

と融合した字
 タ・ほか  イ部 tā

解字 它はヘビの意味であるが、金文の時代から它の音を借りて「ほか」の意味にもちいる使い方があった[常用字解]。篆文は「イ(人)+它(ほか)」で、人をつけて「ほかの人」および「ほか」の意味を表した。隷書レイショ(漢代)から它の代わりに也が使われた他が現れた。この場合、也はタの発音で使われ現在に至っている。
意味 (1)自分以外の人。血族以外の人。「他人タニン」「他家タケ」(2)ほか(他)。ほかの。べつの。「他国タコク」「他意タイ」(他の意味)「他郷タキョウ」(故郷を離れた土地)「他山の石タザンのいし」(他の山から出る粗末な石でも自分の宝石を磨くのに役立つ。粗末なものでも自分を磨く助けとなる)
 イ・ひさげ・みずさし  匚部 yí

「青銅匜
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1805622198676089814&wfr=spider&for=pc
解字 金文は上にヘビ(它)、下に皿ベイ(液体をいれる容器)を描いたかたち。この組み合わせは水をいれて注ぐ容器であるを、注ぎ口の側から眺めたかたち。下の皿は注ぎ口のくぼみと容器の足を意味し、上のヘビは向かい側の取っ手の形がヘビのように細長いことを表している。このふたつの図形で水差しを表した。なお、水差しによっては取っ手が龍に見えるものもある。篆文から「匚+也」の匜に変化した。匜は西周中晚期に出現し、春秋時代から戦国期を中心に用いられた。多くは四足を持つ。発音のイは、ヤからの転音。
意味 (1)ひさげ。みずさし。水などを入れて注ぐのにもちいる取っ手と流し口のついた容器。「匜水イスイ」(ひさげの水)「洗匜センイ」(ひさげの水を注いで洗う)「盤匜バンイ」(たらいとみずさし。古代の貴族の宴席の折、盤(たらい)と匜を机上に置いておき、来客は盤の上で匜の水を注いでもらい手を洗った)
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「次 ジ」<口から吐息をもらす>「姿シ」「資シ」「茨シ」「恣シ」「咨シ」「瓷ジ」「諮シ」

2025年03月08日 | 漢字の音符

  <口を開いて吐息をもらす>
 ジ・シ・つぐ・つぎ  欠部 cì        

解字 金文は人が口を開いて吐息をもらす形の象形。吐息は、ため息とホッとする息とがある。しかし、本来の意味でなく、弐(ふたつ・つぎ)に仮借カシャ(当て字)し、「二番目・つぎ」の意を表す[字統]。
意味 (1)つぐ(次ぐ)。つぎ(次)。続く。二番目。「次点ジテン」「次官ジカン」(2)ついで。順序。等級。「次第シダイ」「席次セキジ」(3)やどる・やどり。「途次トジ」(みちすがら)

イメージ 
 「二番目・つぎ」
(次) 
  本来の意味である「吐息をもらす」(咨・諮・姿)
 「形声字」(資・茨・恣・瓷)
音の変化  ジ:次・瓷  シ:咨・諮・姿・資・茨・恣

吐息をもらす
 シ・はかる  口部 zī
解字 「口(ことばを出す)+次(吐息をもらす)」の会意形声。ため息をついてなげき、どうしたらよいか相談すること。なげく意と相談する意とがある。
意味 (1)はかる(咨る)。とう(問う)。相談する。「咨問シモン」(意見を求めたずねる)(2)なげく。「咨嗟シサ」(ため息をついて嘆く。嗟もなげく意)
 シ・はかる  言部 zī
解字 「言(いう)+咨(はかる)」の会意形声。咨が、咨嗟シサ(なげく)の意と、はかる意があるため、言を付しはかる意を強調した字。地位が上の人が下の者に相談する意。
意味 はかる(諮る)。とう。上の人が下の者にたずねる。「諮問シモン」(意見を求める)「諮詢シジュン」(問いはかること。諮も詢も、はかる意)
姿 シ・すがた  女部 zī
解字 「女(おんな)+次(吐息をもらす)」の会意形声。ある時は落胆したり、あるときはホッとして吐息をもらす女のすがたをいう。
意味 すがた(姿)。かたち。ようす。「姿勢シセイ」「姿態シタイ」「容姿ヨウシ

形声字
 シ・もと  貝部 zī・zì  
解字 「貝(財貨)+次(シ)」の形声。もとでとなる財貨や金銭を資という。[説文解字]は「貨(たから・財産)なり」とする。また、転じて、資質(生まれつきの)の意味でも使われる。
意味 (1)もと(資)。もとで。たくわえ。「資産シサン」「投資トウシ」(2)たすける。「資益シエキ」(たすけて利益を与える)(3)たち。もちまえ。生まれつき。「資質シシツ」「天資テンシ」(天性)(4)一定の身分や地位。「資格シカク
 シ・いばら  艸部 cí
解字 「艸(草木)+次(シ)」の形声。[説文解字注]に「茅(かや)もて屋(やね)を覆(おお)う」とあり、屋根をふくことをいう。また、シは朿(とげ)に通じ、とげのある草木の意味がある。
意味 (1)いばら(茨)。うばら。とげのある低木。「茨棘シキョク」(いばら。草ぶかい田舎)(2)ふく。屋根をふく。「茨宇シウ」(かやぶき屋根)「茨覆シガイ」(茅葺き)(3)地名。「茨城いばらき」(県の名前)「茨木いばらき」(①大阪府の市の名前。②歌舞伎舞踊の一つ) 
 シ・ほしいまま  心部 zì
解字 「心(こころ)+次(シ)」の形声。[説文解字]に「縦(ほしいまま)にする也(なり)」とあり、思うままにする心を言う。
覚え方 侈(おごる)に通じ、心がおごって思うままにする。
意味 ほしいまま(恣)。かってきまま。「恣意シイ」(気ままな思いつき)「恣行シコウ」(ほしいままに行なう)「専恣センシ」(ほしいままを専らにする)「放恣ホウシ」(わがままでしまりがない)
 ジ・シ  瓦部 cí
解字 「瓦(かわら・やきもの)+次(ジ・シ)」の形声。ジ・シとよばれる「やきもの」の意で、かたく焼しめた陶器をいう。唐・宋以後にできた字。のち(明代)に同音の磁器ジキ(高温で焼き素地がガラス化した陶器)のやきものの意でも用いる。
意味 (1)硬く焼いた陶器。かめ。「瓷鍋シカ」(土鍋)「瓷椀シワン」(陶器の椀)「瓷窰シヨウ」(瓷を焼く窯)
青瓷酒器
(2)いしやき。きめの細かいかたい焼物。「瓷器ジキ」(=磁器)「青瓷セイジ」(=青磁)「白瓷ハクジ」(=白磁)
<紫色は常用漢字>

  バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「上ジョウ」 <うえ> と「下カ」 <した> 「雫しずく」「颪おろし」「梺ふもと」「峠とうげ」「桛かせ」「裃かみしも」「鞐こはぜ」

2025年03月06日 | 漢字の音符
  「鞐こはぜ」を追加しました。  
 ジョウ・ショウ・うえ・かみ・あがる・あげる・のぼる  一部 shàng・shǎng・shang

解字 甲骨・金文は、境界を表わす横線の上に、位置を示す短い腺をつけて「うえ」を示す。篆文から横線と短い腺の間を結ぶタテ線がのびて、現在の字となった。上ジョウは物を移動する場合は「あげる」となり、移動するものが主体の時は「あがる」「のぼる」となる。
意味 (1)うえ(上)。かみ。うえのほう。あがる(上がる)。あげる(上げる)。のぼる(上る)。「上方ジョウホウ」「上段ジョウダン」 (2)よい。すぐれている。「上品ジョウヒン」 (3)たてまつる。「献上ケンジョウ

イメージ 
 「境界線のうえ」
(上)
 「境界線のした」(下・雫・颪・梺)
 「上と下」(峠・裃・桛・鞐)

音の変化  ジョウ:上  カ:下  おろし:颪  かせ:桛  かみしも:裃  こはぜ:鞐  しずく:雫  とうげ:峠  ふもと:梺  

境界線のした
 カ・ゲ・した・しも・もと・さげる・さがる・くだる・おろす  一部 xià

解字 境界を表わす横線の下に、位置を示す短い腺をつけて「した」を示す。すべて「上」の字と反対の作り方である。
意味 (1)した(下)。しも(下)。うしろ。「下流カリュウ」「下段ゲダン」 (2)もと(下)。ほとり。「城下ジョウカ」「階下カイカ」 (3)くだる(下る)。さがる(下がる)。おろす(下ろす)。「下車ゲシャ」「下降カコウ
<国字> しずく  雨部 nǎ
解字 「雨(あめ)+下(した)」の会意。雨が下へ落ちる形から、落ちた水がしたたる意となる。
意味 しずく(雫)。水のしたたり。「雫石しずくいし」(岩手県の地名)
<国字> おろし  風部 guā
解字 「風(かぜ)+下(おりる)」の会意。山からふきおろす風を表す国字。
意味 おろし(颪)。山からふきおろす風。「赤城颪あかぎおろし」(冬季に群馬県の赤城山方面から北へ吹き降ろす乾燥した冷たい強風をいう)「六甲颪ロッコウおろし」(①神戸市北西の六甲山系より吹き降ろす山颪(やまおろし)。②阪神タイガースの歌。「六甲おろし」とも)
<国字> ふもと  林部 xià
解字 「林(はやし)+下(した)」の会意。山の林が茂る下のところ。山のすそである「ふもと」の意。
意味 ふもと(梺)。山のすそ。麓ロクとも書く。「梺(ふもと)の村」

上と下
<国字>  とうげ  山部 qiǎ
解字 「山(やま)+上(あがる)+下(くだる)」の会意。山道の上りと下りの境になる所。
意味 (1)とうげ(峠)。「峠道とうげみち」 (2)物事の頂点。「峠を越す」
<国字> かみしも  衣部 kǎ

裃(かみしも)「滋賀県立文化産業交流会館・ぶんさん古典芸能用語集」より)
解字 「衣(ころも)+上(うえ)+下(した)」の会意。上下そろいの衣。
意味 かみしも(裃)。江戸時代の武士の礼服。同じ染め色の肩衣と袴(はかま)を小袖の上に着るので、上下そろいになる。「裃(かみしも)を脱ぐ」(堅苦しい態度を捨てる)
 かせ  木部 kā
解字 「木(き)+上(うえ)+下(した)」の会意。上下に動かして糸を巻き取る道具。
意味 (1)かせ(桛)。紡錘(つむ)で紡いだ糸をかけて巻き取る工字形の道具。

①静岡県白岩遺跡の桛 ②時計桛(歯車桛)(文化遺産オンライン)
①は「大野晋「日本語の源流を求めて」P127

銅鐸に描かれた絹関連の道具に桛らしきものがある。「新しい日本の歴史No306」より
<国字> こはぜ  革部 qiǎ 

革足袋の「こはぜ」(「京都の革工房」より)
解字 「革(かわ)+上(うえ)+下(した)」の会意。足袋(たび)や脚絆(きゃはん)などの合わせ目を上から下へ止める爪型の具。小鉤(こはぜ)とも書く。ウィキペディア「足袋」によると、足袋の起源は奈良時代には存在したとされるシタウズ(襪)と呼ばれるもので、富裕階級が用いた指の股の分かれていない鹿皮の一枚物から作られた外履きで単皮(タンピ)とも呼ばれた。この単皮(タンピ)が足袋(たび)の語源とされている。『倭名類聚抄』には多鼻(タビ)として記載がある。
 室町時代から安土桃山時代にかけて特に紫色の革足袋が流行し、今日の歌舞伎、舞踊、狂言の色足袋に名残がみられる。江戸時代になっても革製の足袋が多かった。革足袋の材料は正徳ごろまで外来ものが多かった。中国渡来の物を小人革と呼び、革がうすく肌がこまかで柔らかであった。他にシャムから来たシャム革があったが、小人革よりケバ立ちが早く厚いため、下品とされた。享保以降は国産の革が使われたが、ケバ立ちやすく質が悪かった。
 それまで一般的だった革足袋は寛永16年(1639年)の鎖国令や明暦3年(1657年)の明暦の大火で次第に不足していき、それにかわって特有の臭いがなく履き心地の良い木綿足袋が男女ともに普及した。
<紫色は常用漢字>

※国字のピンイン(中国語の発音記号)は、中国ネットに表示されているものです。

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする