80分の1丁目16番地

ペーパースクラッチによる車両作りを中心に1/80、16.5ミリゲージの鉄道模型を楽しんでいます。

規格破りの規格型電車

2023-03-08 01:42:08 | 私鉄電車
戦後の混乱期に運輸省規格型でつくられたとされる富山地鉄のモハ14750形(落成時はモハ1500形)の謎に迫るべく訪れた「ポッポの丘」の話の続きです。

同所の新たな展示車両として加わった長野電鉄のモハ1000形1003号車(所有は「運輸省規格型電車保存会」)が、ほぼ、地鉄のモハ14750形のコピー車体であることを知って訪れたわけですが、迫りたかった謎はただひとつ、正確な寸法です。モヤモヤの解消に実車の採寸ほど特効薬はありません。



以下は、参考資料(原典は鉄道ピクトリアル)を元に、運輸省規格型電車の規格と実車の対比をしながら「規格破り」な点を考察しています。

運輸省規格型電車というと運輸省が規格を制定して守らせた印象がありますが、正確には「社団法人日本鉄道協会が運輸省の指導をうけて、地方鉄道・軌道の新製車両に対する規格を定め、傘下の私鉄にこの線に沿って行動することを求めた」というのが実態のようです。このときの規格が「私鉄郊外電車設計要項」で昭和22年版と昭和24年版があるとされます。モハ14750形(竣工時はモハ1500形)は昭和22年度の「A'」と呼ばれる車体長17m、全幅2.7mの規格でつくられました。

車体関係について昭和22年版の規格では、窓幅は700mm又は800mm、客扉の幅は1,100mm又は1,150mmのいずれかとすることが求められ、しかも窓幅を700mmとする場合の扉幅は1,100mm、窓幅を800mmとする場合の扉幅は1,150mmとする、と定められていたようです。戸袋のことを考えればこの組み合わせは妥当かなと思うのですが、この情報がそもそもの「謎」の始まりでした。

写真判断では窓幅はどうみても狭い方の700mmに見えます。ということは客扉の幅は1,100mmということになります。窓柱は定かでないですが100mmとしておこう、乗務員扉はなんか広めだから600mmぐらいか・・・。と、この縛りで本に載った真横写真を使い、比率計算で模型設計図を起こそうとしたのですがどうにも合いません。う~んどこかに間違いがあるのか。。

で、実車の採寸となったわけですが結果は驚くべきものでした。思い込みがいかに危険かを思い知らされました。

窓幅は予想通り700mmでしたが、窓柱は100mmではなく80mmでした。しかも本当の柱部分は50mmで、その両側に15mmずつ“窓枠押さえ”がついて合計80mmになるという計算です。この長電は木枠窓ですが地鉄はアルミサッシに交換されているので、そのコントラストから80mm全体が窓柱のように見えます。20mmの誤差でしたが、トータルで10本の窓柱があるので200mmと大きい誤差になります。



次に客扉の幅ですが、700mm窓に対しては1,100mmであるべきものがなんと1,150mmでした。堂々たる「規格破り」です(笑)。地鉄のモハ1500形の製造年は書籍やHPでは昭和23年とされていますが、竣工が23年にずれ込んだだけで実際は昭和22年度規格の配給割当を受けているので1,100mmでなくてはいけませんが、どうやら昭和22年、23年、24年と進むにつれてこうした規格外のものも現れてきたとのことです。



こと車両づくりには一家言ある富山地鉄と老舗・日本車両がタッグを組んだ精一杯の反乱だったのかも知れませんが、なぜ700mmと1,150mmの組み合わせに拘ったのかは不明です。おそらく前者は当時の他の車両との共通化ないしはクロスシートとした場合のバランス、後者は、地方都市とはいえ朝夕のラッシュをさばくには広幅のドアが求められたことなどがその理由ではないかと推察されます。
なお、客扉左右の吹寄せの幅は、狭窓に広幅扉を組み合わせていることから、予想より広めの460mmもありました。


乗務員扉は予想どおり600mmでした。しかも引戸で、富山地鉄では雪対策として昔から採用されてきたとされるスタイル(なお、なぜ雪対策になるのかは不詳)、コピー版の長電(1000形は翌年の昭和23年度割当分)にも採用されてしまったのは、いかに当時の車両供給事情が苦しかったかを物語るものとして興味深いです。さらに言えば2段窓というのも珍しく、運転士の場合はよいが車掌は扱いにくかったのではないかと勘繰ってしまいます。



最後に、現地でも測れなかったものが半流スタイルの運転台前面、すなわち車端から乗務員扉までの寸法で、このように望遠撮影した真横写真から乗務員扉とほぼ同じ600mmぐらいではないかと予想しました。あと、腰板や窓などの天地寸法も測れなかったので、真横写真から比率計算で求めることにしました。




ということで必要な情報はすべて手に入ったのですが、帰ってからインターネットを徘徊していると、いつも参考にしている「ぜかまし文庫」さんのところにそのものズバリの図面が収蔵されていて膝から崩れ落ちました。灯台下暗しです。モハ1500形の1と2がのちのモハ14751と14752、クハ1050形の1と2が電装されてのちのモハ14753と14755になっています。



モハの図面には窓幅の記載がありませんでしたがクハの方にはありました。ポッポの丘で測ってきたものは運転台部分で少し誤差がありましたが、その他は実測どおりでした。ちなみに長電モハ1000形の図面も収蔵されていて完全コピー版であることを確認しました。この図面は長電のものです。



これが崩れ落ちた体制を立て直して何とか描いた模型化寸法です。地鉄の図面では客扉は車両中心方向に開くように描かれていますが(当時の写真でもそうなっている)、クロスシート化を考慮したのかその後の改造で長電と同じく運転室方向へ開くようになり、運転室と客扉の間の窓は3か所中2か所が戸袋(開くのは中央の1か所のみ)というマニアックな構造になっています。ま~2段窓表現を拒み続ける当工場には関係ない話ですけど。。笑



いかがだったでしょうか。久々に「重箱の隅つつき隊」の活動をしてしまいましたが、設計者の意図を推し測りながら模型図面を描くのはやはり楽しい作業です。モハ14750形の晩年仕様の製作モチベーションがかなりアップしました。

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房総横断大人の遠足

2023-03-05 02:36:16 | 実物・資料系(現在)
今日は久しぶりにリアル鉄をしてきました。千葉県を走る小湊鉄道といすみ鉄道の2大非電化ローカル私鉄を乗り通して房総半島を横断してのですが、主目的は乗り鉄ではなく、以前にも訪ねたことがある保存車両のワンダーランド「ポッポの丘」の再訪です。ちょっと気になる車両が新しく仲間入りしたというので観察してきました。


いかんせん本数の少ないローカル線で、特に小湊鉄道は途中折返しが多く終点の上総中野まで行ける列車は限られるので、少し早めに家を出て午前8時半前には内房線の五井駅に降り立ちました。今日はレンタサイクルも使うので体力温存のため東京駅から快速のG車を奮発しました。模型は毎日見ていますが209系の実車を見るのは久しぶりです。



快速電車が走り去ったあと、目の前に広がる五井機関区にたたずむ小湊鉄道の車両群を目の当たりにして気分は一気にヒートアップします。“ディーゼル王国・千葉”は令和の今も健在でした。奥から順にキハ40首都圏色、「里山トロッコ」用客車、キハ40小湊標準色、キハ40JR東日本東北地域本社色、生え抜きキハ200の面々・・・。



大原まで乗り通すことができる「房総横断乗車券」1,730円也を購入してホームへ。まず目に入ったのは恐らく既に除籍済みであろうキハ200。塗装も剥げてかなりくたびれたキハ202、203、206の3両がモーターカーを間にはさんで側線に置かれていました。このうちキハ202はすでにエンジンが降ろされていました。キハ40が活躍を始めた今、姿を消すのも時間の問題でしょう。



折り返し8:52発の上総中野行となる列車が入線。キハ201+207の2両編成です。キハ40の運用は決まっていないようで、まあどちらが来てもいいかなとは思っていましたが、今度いつ来られるかわからないのでキハ200に乗っておいたのは正解でしょう。



トップナンバーキハ201に乗り込みます。オールロングシートですが、中央に立ち上がる排気管や床の円陣点検蓋などレトロな雰囲気満載です。なんと発車後のアナウンス前に「アルプスの牧場」が流れて涙腺崩壊。。



それにしてもすごい鉄道です。まるでコンバータ油をかき混ぜてるだけかのようにユルユルと加速したかと思うと小舟のように左右に揺れながら少しずつ歩を進めます。どの駅も時が止まったかのようなストラクチャーばかり。50分ほど走ったところで里見駅に到着。少し停車時間があるというのでホームに出てみると、なんと車内販売ならぬ車外販売が行われていて弁当や飲み物に人だかりがしていました。この列車の後にはトロッコ列車も来るのでそうした需要も見込んでいるのでしょう。



五井を出てから1時間20分で終点の上総中野に到着。何もない静かな山間の小駅です。ちょうどいすみ鉄道の車両も到着して乗り換えが行われます。乗ってきたキハ200は10分ぐらいでそそくさと五井へ折り返していきました。昔と違ってどのローカル鉄道もダイヤがスリム化されてしまい、終点でゆっくり撮影することが難しくなってしまいました。



ここから、いすみ300形302号車で大多喜へ。大多喜にはいすみ鉄道の車庫があって、これから急行運用につくキハ52が暖機運転中でした。奥の瓦屋根は大多喜城の大手門。大多喜は「房総の小江戸」と呼ばれる城下町ですが、今回は残念ながら時間切れで回れませんでした。



大多喜駅舎。丸ポストの右側に材木のようなものが立てかけてありますが、よく見ると竹に細かい穴を開けた中に電球を仕込んだイルミネーションになっています。この「竹灯籠」は冬季の風物詩とのこと。ぜひ見てみたいですね。ここからは駅前の観光協会でレンタサイクルを借りてポッポの丘へ向かいます。



走ること約20分、田んぼ越しに高台の上にある車両が見えてきました。前に来た時と変わらぬ風景ですが少し車両の色があせた?
前回の訪問時の投稿は以下でご覧いただけます。
TKG!
続・ポッポの丘



場内は上下2段に分かれています。これは駐車場のある下段の様子ですが、車両の置き方が前回と変わっていて、千葉都市モノレールの車両が売店になり、新たに加わったクハ103などが向きを揃えて中央に展示されていました。



丸ノ内線の400形。だいぶ塗装が傷んでいますが健在で安心しました。左は新たに展示に加わった京急旧1000形のカットボディ。塗装をやり直しているようです。この京急もそうですが、ポッポの丘にはオーナーが集めた車両以外にも、場所貸しの形で保存会などが所有する車両が多数展示されていて、それぞれの会員や支援者などが補修を行っています。



新たに加わったクハ103-525でこれも塗装をやり直しているようです。このクハ103は、左に少し写っているクモニ83006とともに以前東芝府中事業所で試験車として使われていたもので、現存する500番代クハとしては唯一のものだそうです。所々に青いドアが見えますが、新製配置された京浜東北線時代のスカイブルーに塗られるのでしょうか。



これも新たに加わった保存車で長野電鉄の1000形1003号車のカットボディです。実はこの車両こそが今回の房総横断遠足の目的地なのです。少し前の投稿で富山地鉄のモハ14750形イイネという記事を書きましたが、「運輸省規格型車両」ということ以外は寸法の入った形式図もなく詳細が不明でした。ところが長電モハ1000形・1500形とウリふたつで、しかも辛うじて解体を免れた1000形のカットボディがポッポの丘にある!という情報を小耳に挟んだので採寸に来たというわけです。詳細は別記事に書きたいと思います。



そしてなんと鉄道車両だけでなく三輪トラックまで展示されていました!!泣く子も黙るマツダT1500オート三輪です。個人所有の車だそうでナンバーもついていました。何となくですが次に来たらボンネットバスあたりが置かれている未来が見えます。笑



今回の訪問で印象的というか気がかりだったのは、ほとんどの車両が前に見た時よりも経年劣化で塗装剥離が進んでしまった感があることです。この「鉄顔」コレクションも、とくに右端のクハ111-1072や左から2両目のクハ183-21はかなり劣化が進行しているのが分かります。



一方、DE10と24系寝台は補修が行われて美しい姿が蘇っていました。



どこまで支援につながるか分かりませんが今回もTKG・玉子かけご飯を食し、赤卵を土産に買ってきました。ここに集められた車両が末永く輝いていてほしいものです。



ひと通り見学を終えて大多喜駅に戻ると、車庫にはキハ20 1303(いすみ300形の色変え版)がスタンバイ中でした。急行に使われるキハ52は土休日しか走らないため、「平日にもキハに乗れる」がコンセプトだそうです。



で、こちらが本家本元のキハ・・・キハ52 125です。ちょうど大原から急行で下ってきたところを撮ることができました。反対側には「夷隅」のヘッドマークが付いていたのを撮り損ねたのが心残り。。



今日は乗り、撮りともかなり満足のいく釣果となったので、あとはまったり大原へ出て「わかしお」で帰るだけだ・・・と思ったら、やってきた大原行は単行で、ここに観光客と高校生が入り混じってたいそうな混雑でした。当方、ある思惑があって最後部の貫通ドアの窓にオデコを付けてカメラを構えます。



思惑とは、2つ隣の国吉駅構内に、かつて久留里線を走っていたキハ30が保存されているとの情報を得ていたので、国吉駅発車時に撮ろうという魂胆だったのですが、なんと引退したキハ28が手前に置かれていて撮れませんでした。。まあキハ28の元気な姿を拝めたからいいですが・・・。また改めてリベンジすることにしましょう。



大原からは接続よく東京行の「わかしお」に乗車でき、日が落ちる前に帰宅できました。また気候が良くなったら、今度は養老渓谷や大多喜城などの観光を絡めて訪問したいと思った次第です。


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