最近は寝る前に、「将棋世界」掲載・東和男八段の詰将棋を1題頭に入れ、眠るようにしている(もっともこの2日間は、桃の木のことが頭にこびりつき、全然眠れていないが)。
東八段のそれは7手詰か9手詰。パラッとした配置で、取り組みやすい。それでいて型通りピリッとした妙手が入り、易しすぎず難しすぎずで、睡眠薬代わりにちょうどいい。
だけど中には難しい問題もあり、解けぬまま眠ってしまうこともある。
たとえば2020年7月号の第8番である。筋は初手▲1二銀だ。これを△同玉は▲2二飛。△3一玉も▲2一飛で詰む。
しかし平凡に△1二同香を取られ、▲2二飛は△1一玉で詰まない。
次に初手▲2二銀は、△1二玉▲1一銀成△2三玉▲2二桂成△2四玉で詰まない。
また初手▲2二飛も、△3一玉▲4一歩成△同玉に▲2一飛成でも▲4二銀でも詰まない。そもそもこちらに玉を逃がす詰将棋ではないと思う。
ほかに初手▲2二桂成も、△同玉▲3一銀△同玉▲4一飛△2二玉で、やはりダメだ。
これは……駒の配置か持駒を間違えて憶えたのではないか、と訝るが、灯りを点けて確認する気までは起きない。この夜はそのまま眠ってしまった。
2日目の夜も考える。初手は飛車の横の王手か。▲4一飛は将来タテに引っ張れないし、▲5一飛以遠もほぼ同様だ。
よって▲3一飛となる。これを△同玉は▲2二銀だからこれが正着にも思えるが、やはり△1二玉で後続がない。
ああこれは誤植だ、と思った。恐らく配置を間違えて、次の号で訂正記事が載ったのだと思った。この日もそのまま眠ってしまった。
翌日の昼である。今度は寝床に行かないうちに、盤面を見て本腰を入れて考える。将棋世界に誤字脱字が皆無とはいわないが、絶対に誤植を出してはいけないのは詰将棋欄だろう(余詰は仕方ない)。よってこの図面に当然ながら、誤植はない。そもそもその有無を考えるあたり、編集部諸氏に失礼だ。
詰む可能性があるのは、やはり▲3一飛である。△同玉に▲2二銀の変化が、あまりにもピッタリだからだ。だが前述の通り、△1二玉の後が続かない。以下▲2一銀△2三玉に、▲3二銀不成も▲3二飛成も詰まない。
だが▲3一飛の利点は、▲3二飛成ができるところにある。では△1二玉に▲3二飛成か? だが△同飛▲2二桂成△同玉▲2三銀△3三玉▲3四銀成△4二玉で詰まない。
しかし何となく、解図のヒントを見つけたような気はする。まったく分からないが、▲3一飛△1二玉に、目をつぶって▲2三銀と放り込んでみよう。
これを△同飛なら、▲3二飛成△2二合▲同桂成で詰む。この変化があるということは、この順が正着なのではないか?
だが▲2三銀は△同玉で、上に逃がしそうな気がする。アッ、それは▲2一飛成?△1四玉?▲3六角?まで詰みか? なんだかよく分からないが、これで詰みそうだ。何となく△2四玉~△3五玉と逃げられそうなイメージがあったが、大丈夫これで詰んでいる。
そうかそうか……。いや、手ごわい詰将棋だった。
しかし続く第9番も難しかった。
これは持駒に桂が2枚あるから、とりあえず▲1三桂と打ってみる。これに△3二玉は▲4二角成以下簡単なので△3一玉だが、そこで飛車の王手があっちこっちにあるものの、詰まない。
といって▲1三桂△3一玉に▲4二金△同飛▲同歩成△同玉は、飛車2枚では詰まない。
では初手▲3三桂に換えてみるか。だがこれも△3一玉▲2一飛△3二玉▲4一飛成に△3三玉で詰まない。
そうか、私は持駒を間違えて憶えたんだ。「飛金桂桂」ではなく、「飛金金桂」だったんだ……。
だがその局面を考える気力もなく、その夜はそのまま眠ってしまった。
翌日確認すると、持駒はやはり「飛金桂桂」だった。まあそうであろう。
いろいろ考えたが、初手に桂の王手は利かないらしい。そこで初手▲2二金はどうか。
以下△2二同飛▲3三桂に、△3一玉は▲4一飛△3二玉▲4二飛成まで。
よって△3一玉では△1三玉の一手だが、▲1四飛で詰む。
あれ、これで詰んだ? アッ、△1三玉は△1二玉だった。じゃあこれも詰まないのか。
もうメチャクチャな手だが、初手▲3二金と放り込んでみる。これに△同玉なら▲4二角成△2一玉▲3一飛△2二玉▲3二飛成△1三玉▲2五桂まで詰む。この変化が詰むのは大きい。ではこれが正着であろう。
あとは△3二同飛の検証である。まず▲1三桂。これに△3一玉は▲2一飛で詰むが、△3一玉に代えて△1二玉で詰まない。
よって▲1三桂では▲3三桂が正着。これに△1二玉は▲1三飛が打てて詰み。よって△1二玉では△3三同飛とするが、▲2二飛△3一玉▲4二飛成△2一玉▲1三桂まで、詰み。なるほど、それで1一の駒が香でなく歩だったのだ。
これは収束の盛り上がりがなかったが、初手の妙手だけで満足できた。
以上、プロなら一目の詰将棋でも、私たちレベルの棋力だと、1問でも長時間楽しめるのである。
さて、作者の東八段は、この3月いっぱいで現役引退となる。順位戦は最高がB級2組だったが、竜王戦は1組に在籍したこともある。最近は王将戦予選で谷川浩司九段に勝ち、力が衰えていないところを見せた。
東八段は人望も厚く、連盟の理事も6年務めた。今後は縁の下の力持ちとして、活動していくことだろう。
東先生、長い現役生活、お疲れさまでございました。
東八段のそれは7手詰か9手詰。パラッとした配置で、取り組みやすい。それでいて型通りピリッとした妙手が入り、易しすぎず難しすぎずで、睡眠薬代わりにちょうどいい。
だけど中には難しい問題もあり、解けぬまま眠ってしまうこともある。
たとえば2020年7月号の第8番である。筋は初手▲1二銀だ。これを△同玉は▲2二飛。△3一玉も▲2一飛で詰む。
しかし平凡に△1二同香を取られ、▲2二飛は△1一玉で詰まない。
次に初手▲2二銀は、△1二玉▲1一銀成△2三玉▲2二桂成△2四玉で詰まない。
また初手▲2二飛も、△3一玉▲4一歩成△同玉に▲2一飛成でも▲4二銀でも詰まない。そもそもこちらに玉を逃がす詰将棋ではないと思う。
ほかに初手▲2二桂成も、△同玉▲3一銀△同玉▲4一飛△2二玉で、やはりダメだ。
これは……駒の配置か持駒を間違えて憶えたのではないか、と訝るが、灯りを点けて確認する気までは起きない。この夜はそのまま眠ってしまった。
2日目の夜も考える。初手は飛車の横の王手か。▲4一飛は将来タテに引っ張れないし、▲5一飛以遠もほぼ同様だ。
よって▲3一飛となる。これを△同玉は▲2二銀だからこれが正着にも思えるが、やはり△1二玉で後続がない。
ああこれは誤植だ、と思った。恐らく配置を間違えて、次の号で訂正記事が載ったのだと思った。この日もそのまま眠ってしまった。
翌日の昼である。今度は寝床に行かないうちに、盤面を見て本腰を入れて考える。将棋世界に誤字脱字が皆無とはいわないが、絶対に誤植を出してはいけないのは詰将棋欄だろう(余詰は仕方ない)。よってこの図面に当然ながら、誤植はない。そもそもその有無を考えるあたり、編集部諸氏に失礼だ。
詰む可能性があるのは、やはり▲3一飛である。△同玉に▲2二銀の変化が、あまりにもピッタリだからだ。だが前述の通り、△1二玉の後が続かない。以下▲2一銀△2三玉に、▲3二銀不成も▲3二飛成も詰まない。
だが▲3一飛の利点は、▲3二飛成ができるところにある。では△1二玉に▲3二飛成か? だが△同飛▲2二桂成△同玉▲2三銀△3三玉▲3四銀成△4二玉で詰まない。
しかし何となく、解図のヒントを見つけたような気はする。まったく分からないが、▲3一飛△1二玉に、目をつぶって▲2三銀と放り込んでみよう。
これを△同飛なら、▲3二飛成△2二合▲同桂成で詰む。この変化があるということは、この順が正着なのではないか?
だが▲2三銀は△同玉で、上に逃がしそうな気がする。アッ、それは▲2一飛成?△1四玉?▲3六角?まで詰みか? なんだかよく分からないが、これで詰みそうだ。何となく△2四玉~△3五玉と逃げられそうなイメージがあったが、大丈夫これで詰んでいる。
そうかそうか……。いや、手ごわい詰将棋だった。
しかし続く第9番も難しかった。
これは持駒に桂が2枚あるから、とりあえず▲1三桂と打ってみる。これに△3二玉は▲4二角成以下簡単なので△3一玉だが、そこで飛車の王手があっちこっちにあるものの、詰まない。
といって▲1三桂△3一玉に▲4二金△同飛▲同歩成△同玉は、飛車2枚では詰まない。
では初手▲3三桂に換えてみるか。だがこれも△3一玉▲2一飛△3二玉▲4一飛成に△3三玉で詰まない。
そうか、私は持駒を間違えて憶えたんだ。「飛金桂桂」ではなく、「飛金金桂」だったんだ……。
だがその局面を考える気力もなく、その夜はそのまま眠ってしまった。
翌日確認すると、持駒はやはり「飛金桂桂」だった。まあそうであろう。
いろいろ考えたが、初手に桂の王手は利かないらしい。そこで初手▲2二金はどうか。
以下△2二同飛▲3三桂に、△3一玉は▲4一飛△3二玉▲4二飛成まで。
よって△3一玉では△1三玉の一手だが、▲1四飛で詰む。
あれ、これで詰んだ? アッ、△1三玉は△1二玉だった。じゃあこれも詰まないのか。
もうメチャクチャな手だが、初手▲3二金と放り込んでみる。これに△同玉なら▲4二角成△2一玉▲3一飛△2二玉▲3二飛成△1三玉▲2五桂まで詰む。この変化が詰むのは大きい。ではこれが正着であろう。
あとは△3二同飛の検証である。まず▲1三桂。これに△3一玉は▲2一飛で詰むが、△3一玉に代えて△1二玉で詰まない。
よって▲1三桂では▲3三桂が正着。これに△1二玉は▲1三飛が打てて詰み。よって△1二玉では△3三同飛とするが、▲2二飛△3一玉▲4二飛成△2一玉▲1三桂まで、詰み。なるほど、それで1一の駒が香でなく歩だったのだ。
これは収束の盛り上がりがなかったが、初手の妙手だけで満足できた。
以上、プロなら一目の詰将棋でも、私たちレベルの棋力だと、1問でも長時間楽しめるのである。
さて、作者の東八段は、この3月いっぱいで現役引退となる。順位戦は最高がB級2組だったが、竜王戦は1組に在籍したこともある。最近は王将戦予選で谷川浩司九段に勝ち、力が衰えていないところを見せた。
東八段は人望も厚く、連盟の理事も6年務めた。今後は縁の下の力持ちとして、活動していくことだろう。
東先生、長い現役生活、お疲れさまでございました。