一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

大山十五世名人の持ち時間の使い方

2021-03-13 00:07:55 | 将棋雑記
日付変わって今日3月13日は、大山康晴十五世名人の生誕98周年。だからというわけではないが、大山十五世名人の記事を書いてみよう。

私の気のせいかもしれないが、ABEMAの中継を見ると、5時間や6時間の持ち時間で、終盤に1分将棋になってしまう将棋がよく見られる。そして1分では読み切れず、勝ちを逃してしまう場合が少なくない。
だけど素人考えだが、間違いやすい終盤で時間に追われるなら、序中盤をもう少し軽快に飛ばし時間を残しておけば……と思うわけである。
では大山十五世名人は、どういう時間の使い方をしていたのだろう。
大山十五世名人の多くの実戦の中から、晩年の将棋を見てみる。この将棋は大山十五世名人が序盤の不用意な手で不利に陥ったが、そこから驚異の粘りを続け、終盤に逆転勝ちした。手数は227手。
長く続く不利な局面、手数が2局分、とくれば相当時間を使っているはず。果たして1分将棋になったのだろうか。
では、消費時間だけを記してみよう。先手が大山十五世名人である。持ち時間は6時間。とくれば、棋戦名はすでにお分かりであろう。

▲0△0▲0△0▲0△1▲1△0▲0△0▲0△0▲1△0▲1△0▲0△1▲2△2
▲6△12▲1△0▲0△0▲0△4▲3△0▲0△0▲2△0▲30△51▲11△8▲5△5
▲7△1▲1△0▲16△22▲0△0▲9△3▲2△0▲0△0▲0△16▲3△14▲0△0
▲6△9▲18△0▲2△29▲14△0▲0△9▲1△17▲37△2▲0△22▲3△1▲12△7
▲9△16▲1△0▲8△6▲1△23▲2△0▲0△0▲0△0▲10△1▲0△1▲13△1
▲7△4▲0△1▲0△0▲29△0▲0△2▲1△12▲0△0▲6△20▲4△4▲0△0
▲0△0▲13△0▲1△2▲0△0▲1△9▲0△0▲2△0▲0△2▲0△2▲0△4
▲4△0▲0△1▲0△1▲0△0▲7△1▲8△0▲0△2▲3△0▲0△0▲1△0
▲0△5▲0△1▲7△0▲0△0▲0△0▲0△1▲5△0▲1△0▲0△0▲0△0
▲0△0▲0△1▲1△0▲3△0▲0△0▲0△0▲0△0▲0△0▲2△0▲0△0
▲14△0▲0△0▲0△0▲0△0▲0△0▲0△0▲0△0▲0△0▲0△0▲0△0
▲0△0▲0△0▲0△0▲0
まで、227手で大山十五世名人の勝ち。

消費時間のみの表記は史上初であろう。
終局時の消費時間は、大山十五世名人が5時間58分、後手が5時間59分。
大山十五世名人は114着手のうち、

0分……61回
1分~10分……42回
11分~20分……8回
21分~30分……2回
31分~40分……1回

だった。最長は73手目の37分。ちなみに後手のそれは、36手目の51分だった。
大山十五世名人は35手目に、30分の考慮がある。大山十五世名人は対局中も公務で席を外すことが多かった。中には3時間以上に及ぶものもあり、それがそっくり消費時間になった。よってこの30分も、読みの中身は分からない。
そして37手目に、大山十五世名人が11分の考慮で仕掛けた。便宜上ここから中盤戦とする。この手を含めて消費時間は58分。
だが39手目が軽率な手で、次の40手目がそれを咎めた好手。以降、大山十五世名人が不利になる。ここからひたすら耐える展開になるのだが、その手練手管が多いに参考になるのである。
いつから終盤戦とするかは判然としないが、後手が先手を寄せに行った134手目から終盤戦としたい。
ここまで大山十五世名人の消費時間は5時間2分である。長い中盤戦だっただけに、この時点で1時間を切っているが、想定内だったのではあるまいか。
ところが将棋はここから二転三転し、さらに訳の分からない戦いになる。
大山十五世名人は201手目に、残り時間16分のうち14分を割き、渾身の一手を指した。
これでもまだ大山十五世名人が悪かったが、後手がその後間違え、逆転した。
最後は大山十五世名人が後手玉を詰ましたが、これはすべてノータイム。決して易しい詰みではないと思うが、この程度の詰みは一目だったのだろう。
以上、1局を見ただけでは何ともいえないが、大山十五世名人に大長考というのはなく、局面ごとに小刻みに時間を消費している感じである。
また残り時間が1分でなく2分、というのがミソで、アクシデントがあったときのために、あえて1分多く残していたのではなかろうか。例えば2分なら、用足しも可能だろう。この辺の用心深さに、私は唸るのである。
いろいろ勉強になる時間の使い方だった。
コメント
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