一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

最低で最高な一日(後編)

2021-03-28 00:07:51 | LPSA麹町サロンin DIS

第6図以下の指し手。「▲6六歩△同歩▲同銀△4二角」「▲4五桂△4四銀」「▲4六歩(第7図)

ほかの3局は粛々と進行している。コロナ禍もあるのか、客はあまりしゃべらないし、渡部愛女流三段もほぼ同様だ。
第6図で目障りなのは△6五の歩だ。そこで▲6六歩と指した。渡部女流三段は素直に応じ、▲6六同銀に△4二角と穏やかに引いた。
ここでじっと▲6五歩もあったかもしれないが、私は勇躍▲4五桂。やはりこの手は指したくなるところである。△4四銀に▲4六歩と落ち着いて、バカにうまくいっていると思った。

第7図以下の指し手。△4八歩」「▲同角△8六角▲8四歩△4七歩」「▲2六角△3五歩▲3九飛△6四角」「▲5七銀△4八歩成▲同角△7三桂」(第8図)

第7図で渡部女流三段の手番だが、私は2歩得で、遊び駒もほとんどない。要するに、悪くはないのだ。プロ相手にこの展開は信じられないが、この局面、どちらを持つかと問われれば、やはり下手側を持つだろう。つまり私の見立て違いではないということだ。
ここで渡部女流三段は△4八歩。渡部女流三段は歩使いの名手で、いつも意表の手を指してくる。この手もそうで、まったく考えなかった。
私は、なんだこんな歩、とばかり取ったが、どうだったか。渡部女流三段は「不安しかない……」とつぶやき、△8六角と飛び出した。私はつられて笑ったが、現実は根元の歩を取られ、面白くなかった。そもそも△4八歩は、△4九歩成とされても脅威でない。それならほかに有効な手を考えるべきだった。
▲8四歩に△4七歩。まったく、いろいろ揺さぶってくるものだ。
私は▲2六角と覗くしかないが、手順に△3五歩と打たれてしまった。実は飛車が敵陣に利いているのが自慢だったが、そこを修復されて、つまらない局面にしてしまった。
渡部女流三段は△6四角と引いたが、ここで△7三桂はどうか。実はこれこそ私が待ち受けていた順で、それには▲7四歩のカウンターパンチがある。以下△8五桂▲7三歩成△8四飛▲6三と(参考B図)となるが、こちらも攻めを呼び込むので恐いものの、渡部女流三段も気持ち悪かろうと思った。

▲5七銀に△4八歩成の意味がよく分からなかったが、▲同角を利かせて、渡部女流三段はついに△7三桂。私は考え込んでしまった。

第8図以下の指し手。「▲3三歩△同桂」「▲同桂不成△同金上」「▲6五歩△同桂▲1五角△8八歩」(第9図)

第8図でふつうは▲7六銀であろう。以下△8四飛に▲6五歩くらいで、まだ先は長い。だが▲7六銀の後退と、△8四飛の進出の交換が屈辱である。私は前に出る手しか考えなかった。
そこでさっきから指したいのが▲7四歩である。ただ今度は△8五桂に▲7三歩成とできない。▲6五歩と打ち△8六角なら▲7三歩成があるが、何かワンクッション置いている感じである。それに△8五桂、△8六角と呼び込む形も脅威で、攻め合い負けになると思った。
私は頭から湯気が出るほど考える。渡部女流三段がこちらを見たが、何も指していないのでほかへ移った。指導者がこちらを見たら一手指す、というのが私のポリシーだが、それを破ってしまった。
では単に▲6五歩はどうか。これに△同桂なら間接的に銀取りを防げる。だが△6五同桂▲6六銀に△4六角の王手から△4五銀と桂を抜かれてしまう。
そこで、まず▲3三歩から桂交換をした。▲3三同桂不成に「王手」と言う。
「フフッ」
「1回王手かけたから、この将棋はもう満足です」
「そんなあ」
場の空気がちょっと和んだ。
初王手に△同銀なら▲4五桂のつもりだったが、渡部女流三段は△同金上。私もその取られ方がいちばんイヤだった。
そしてこれが、私の読みを狂わせた。当初▲6六銀と逃げるつもりが、▲1五角と覗いてしまったのだ。
だがこれは△5七桂成で銀桂交換の駒損になるし、第一、▲1五角が何の先手にもなっていない。
渡部女流三段は「攻め合いに出る」とつぶやき、△8八歩。

第9図以下の指し手。「▲8八同玉△8七歩」「▲同金△7五桂」「▲7六桂△6七桂成▲6四桂△5七桂成」(投了図)
まで、94手で渡部女流三段の勝ち。

この手が厳しかった。読めばよむほど悪くなるので、私は愕然とした。こんなにヒドイ局面になっていたのか!
王手で桂を取られてはいけないので、私は▲8八同玉。しかし△8七歩の王手が厳しかった。前述の通り、本当に渡部女流三段は歩の使い方がうまい。現代の女流棋士・小太刀の名手だと思う。
私は▲同金と取ったが、△7五桂が激痛である。そしてこの桂は、私が桂交換をしたから生じたものだ。つまり先の▲4五桂ハネもすべてお手伝いになってしまったわけで、ここで戦意が喪失した。
私は▲7六桂と角取りに打ったが、渡部女流三段は逃げることなく、粛々と金を取る。
▲6四桂に△5七桂成と、2枚目の桂に飛び込まれては勝負あった。
渡部女流三段が次に回ってきたときに、「負けました」と投了した。
「エエーーーッ!?」

渡部女流三段は大仰に驚いたが、すぐに納得の表情になった。
「(第8図から4手後の)▲6五歩と▲1五角がマズかった。これが敗着です」
と私。
「▲6五歩で▲7四歩がありませんでしたか?」
「ああそうですね、でも△6四角がいるから」
「そこで▲6五歩(参考C図)で」

「ああそうか、やはりそれでいいんですか。いや私も△7三桂に▲7四歩のカウンターは狙ってたんですよ、ホントに。だから早く△7三桂と跳べと念じていました。
でもこの局面は△8五桂と△8六角が迫ってるからなあ。▲7三歩成のとき△7七歩で攻め合い負けじゃないですか?」
「でも私の玉も位置が悪いし……」
やはり▲6五歩では、▲7四歩がよかったようだ。
「うーん、中盤まではよく指してたと思うんだけどなあ……」
「ええ。(第6図で)▲6六歩と位を奪回に来られて、困りました」
このあたりは、駒を動かさず口頭の感想戦である。お互いもう少し続けたいふうだったが、他者もいるので、ここで終わりとなった。

「まだ時間があるので、もう1局行きましょう」
時刻は午後4時11分である。きょうは2時間だが、さすがにもう1局は完結しない。それで、これで引き揚げることにした。
実はきょう3月18日は、私の誕生日だった。私くらいの歳になると、誕生日は最低の日である。だが渡部女流三段と将棋を指せて、最高の1日になるはずだった。
だがこんな負け方をしては、やはり最低の1日ともいえる。
いややっぱり、最高の1日と考えるべきなのだろう。帰り道では、そんなことばかりを考えていた。
コメント
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