ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

絶滅危惧種の日

2022-09-04 18:20:48 | その他昆虫と話題

 絶滅危惧種とは、絶滅のおそれがある動植物の種や亜種のことである。種が絶滅するという事自体は、地球上で何度も繰り返されてきた自然な現象だが、近年、異常ともいえる速度で絶滅する生物が増えてきている。ちなみに毎年9月7日は絶滅危惧種の日である。1936年9月7日、オーストラリアの動物園で飼育されていたフクロオオカミの最後の1頭が死亡し、フクロオオカミが地球から絶滅した。これにちなんで、動植物の絶滅のリスクを認識し、その保護について考えることを目的に1996年にオーストラリアで(Threatened Species Day)が制定された。良い機会なので絶滅危惧種についてまとめておきたいと思う。

 野生生物の種や亜種の生息状況を調査し、絶滅の危険度を評価してまとめたものが「レッドリスト」(RL)である。レッドリストは国際的には国際自然保護連合 (IUCN)が作成しているが、各国が作成するもの、またそれぞれの国の地域で作成するものなど、さまざまな種類がある。日本では、環境省の他、各都道府県やNGOなどが作成しているものもある。環境省版レッドリストは対象種の日本全体での生息状況等をもとに、都道府県版レッドリストは各都道府県等内での生息状況等をもとに、それぞれ評価されている。それゆえに、都道府県版レッドリストにのみ掲載されている種もある。例えば、ゲンジボタル。環境省版レッドリストに記載はないが、埼玉県では絶滅危惧Ⅱ類(VU)としている。
 環境省版レッドリストは、日本に生息又は生育する野生生物について、専門家で構成される検討会が、生物学的観点から個々の種の絶滅の危険度を科学的・客観的に評価し、その結果をまとめたもので、捕獲規制等の直接的な法的効果を伴うものではなく、社会への警鐘として広く情報を提供することにより、様々な場面で多様な活用が図られるものである。
 環境省版レッドリストは、おおむね5年ごとに全体的な見直しがされ、最新の改訂版は、令和元(2019)年度に公表したレッドリスト2020であり、レッドリスト2019と比較して絶滅危惧種が40種増加し、合計3,716種となっている。
 尚、「レッドデータブック」(RDB)とは、レッドリストに掲載されている種の生息状況や絶滅危惧の原因などもまとめた解説本のことで、レッドリストより詳細な情報が記載されており、約10年ごとに見直しが行われている。

 レッドリストでは、種毎に絶滅のおそれの程度に応じたカテゴリー分けを以下のようにしている。

  1. 絶滅 Extinct (EX) 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
  2. 野生絶滅 Extinct in the Wild (EW) 飼育・栽培下、あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種
  3. 絶滅危惧Ⅰ類 Critically Endangered +Endangered (CR+EN)
    • 絶滅危惧ⅠA類 Critically Endangered(CR) ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの。
    • 絶滅危惧ⅠB類 Endangered(EN) ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの。
  4. 絶滅危惧Ⅱ類 Vulnerable (VU) 絶滅の危険が増大している種
  5. 準絶滅危惧 Near Threatened (NT) 存続基盤が脆弱な種
  6. 情報不足 Data Deficient (DD) 評価するだけの情報が不足している種

 絶滅危惧Ⅰ類における分類では、以下のような基準で判断されている。

  1. 絶滅危惧ⅠA類
    • 過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、90%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっており、且つ理解されており、且つ明らかに可逆的である
    • 出現範囲が100k㎡未満もしくは生息地面積が10k㎡未満であると推定される
    • 個体群の成熟個体数が250未満であると推定される 等
  2. 絶滅危惧ⅠB類
    • 過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、70%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっており、且つ理解されており、且つ明らかに可逆的である
    • 出現範囲が5,000k㎡未満もしくは生息地面積が500k㎡未満であると推定される
    • 個体群の成熟個体数が2,500未満であると推定される 等

 レッドリスト2020では、昆虫類875種類が記載され増加傾向にある。なかでも絶滅の危険度が高い絶滅危惧Ⅰ類では、トンボとチョウ類だけを見てみると絶滅危惧IA類(トンボ5種、チョウ21種)絶滅危惧IB類(トンボ11種、チョウ31種)が記載されている。
 これまで、トンボ類では106種、チョウ類では148種類の図鑑写真及び生態写真を撮影し、ブログ(ホタルの独り言 Part 1を含む)に掲載し紹介してきたが、もちろん絶滅危惧種も多く含まれている。以下には、過去に撮影した環境省カテゴリー絶滅危惧Ⅰ類のトンボとチョウ類のリストと写真を掲載した。どの種も、それぞれが生息できる環境の悪化や消失によって減少しており、絶滅危惧ⅠA類では国内数か所でしか生息していないが、特別な生息地等保護区にして大がかりな保護対策を行っていたり、「国内希少野生動植物種」に指定され捕獲や譲渡等が原則禁止となっている。もはや、環境の復元により生息地を拡大させることは難しく、現状の生息地を保全するしかないという状況である。絶滅危惧ⅠB類においては、保護対策が行われていない種がほとんどであり、すでに数カ所の産地では絶滅し、残りの産地でもいつ絶滅に追いやられても不思議ではない状態が続いている。
 これら絶滅危惧種は、里地里山環境や農業と密接な関係がある場合も多く、その背景は様々である。それぞれの生息環境を保全することが重要だが、地権者ではない他人が安易に「保全」という言葉を振りかざすことは無責任である。しかしながら、このままの状況が今後も続けば、絶滅危惧種はさらに増え、絶滅する種も多くなってしまうだろう。
 我々にできることは何か。例えば、身近な自然に関心を持つ、外来種を自然の中に放さない、森や川などに出かけたときは、ゴミはすべて持ち帰る等ができる。ネットオークションサイトのヤフオク!では、絶滅危惧種、準絶滅危惧種であるオオクワガタ、ニホンザリガニなど4,000種以上を対象に出品停止にするなど、企業も取り組みを始めている。
 私は、ホタルに関しては、環境も含めた保護保全、そして再生の指導を全国的に行っているが、その他の絶滅危惧種に関しては、それぞれの種の生態を学び理解し、その記録を写真や映像で残し発信していきたいと思う。私たちにできる一つ一つは小さなことだが、引いてはそれが地球の生態系を守ることに繋がり、これ以上絶滅危惧種を増やさないことになる。
 絶滅危惧種の日を迎えるに当たり、皆で改めて考えてみようではないか。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。サムネイルの写真をクリックしますと拡大表示されます。

  • 絶滅危惧ⅠA類
    • ベッコウトンボ Libellula angelina
    • ゴマシジミ関東・中部亜種 Phengaris teleius kazamoto
    • オオルリシジミ本州亜種 Shijimiaeoides divinus barine
ベッコウトンボの写真 ベッコウトンボの写真 ゴマシジミ関東・中部亜種の写真 ゴマシジミ関東・中部亜種の写真 オオルリシジミ本州亜種の写真 オオルリシジミ本州亜種の写真
  • 絶滅危惧ⅠB類
    • オオキトンボ Sympetrum uniforme
    • オオセスジイトトンボ Paracercion plagiosum
    • オオモノサシトンボ Copera tokyoensis
    • コバネアオイトトンボ Lestes japonicus
    • ヒヌマイトトンボ Mortonagrion hirosei
    • マダラナニワトンボ Sympetrum maculatum
    • アサマシジミ本州亜種 Plebejus subsolanus yaginus
    • クロシジミ Niphanda fusca
    • シルビアシジミ Zizina emelina
    • ツマグロキチョウ Eurema laeta betheseba
    • ヒメシロチョウ Leptidea amurensis
    • ミヤマシロチョウ Aporia hippia japonica
    • ミヤマシジミ Plebejus argyrognomon praeterinsularis
    • ヤマキチョウ Gonepteryx maxima maxima
オオキトンボの写真 オオセスジイトトンボの写真 オオモノサシトンボの写真 コバネアオイトトンボの写真 ヒヌマイトトンボの写真 マダラナニワトンボの写真 アサマシジミ本州亜種の写真 クロシジミの写真 シルビアシジミの写真 ツマグロキチョウの写真 ヒメシロチョウの写真 ミヤマシロチョウの写真 ミヤマシジミの写真 ヤマキチョウの写真

参考

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