幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

警察署の取調室(6)

2019-09-06 20:36:20 | Weblog

◯警察署の取調室

風呂屋からの路地に点々と落ちていた私の持ちもの
着ていた服:モスグリーンのスウェットの上下
履いていた靴:緑色のスニーカー

そして小銭入れ
を渡された

取り調べ

記憶喪失
アパートに帰らなきゃ
でもどこのアパートかわからない
職業も
母の名も父の名前もわからない
自分の名前も
聞かれても何も答えられない

ただ言葉は覚えている
あのひとが言った言葉

何も持ち物がない
お金は小銭入れに456円だけ
何も覚えていない
どこに帰るのかもわからない
どこに行くのかもわからない


◯措置入院

連れて行かれるとき
1カラット以上あるダイヤの立爪指輪が道端に落ちていた
気づかれないようにポケットに入れる

後でポケットから取り出して見ると
それは男性用のカフスボタンだったかもしれない

それがなんだかよくわからない
正直なところ

ただダイヤモンドだけはわかる

そしてそれが本物であることが分かる

とても高価なもの

ダイヤをよく見るとラウンドブリリアントカットではない
三角形の図形がいくつも重ね合わさったような不思議な形をしている

「シュリ・ヤントラの結晶構造だ!」
と自分の中の誰かが叫んでいる

中を覗いて見ると “Happiness ” と書いてある

“幸せ”



いったい誰のものだろう?

誰が落とした “幸せ” なのだろう?

これを持ち主に返したい

でも誰が落としたのかわからない

手がかりを探して “シュリ・ヤントラ” の中を覗き込む


























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