「人は、怪我をしたり病気をしたりして、カサブタができたり免疫ができたりして、以前よりも強くなるでしょ」
「確かにそうだけど、僕みたいに病院に行って薬ばかりもらっていたら、強くなれないよね?」
「それもそうだけど、あなたには無理よ。痛みに耐えることは」
「確かにそうだけど、痛みを感じないで、徐々に茹でカエルのように取り返しのつかないレベルまでいくのはやだな」
「そうね。だから、あなたが茹でカエルのように無知だったら大変だから、あたしが少し警告しておいてあげる。あなたは半分よりさらに少し越えるほど、もう取り返しのつかない所まで来ている。さらに、さらに重い病に最近かかってしまった。それがなんの病か、自分で分かるわよね?」
「もちろん分かるよ。自分のことだから」
「そう、それならよかった。自覚していることは、大切なことだから。その病は、治らないかもしれないわ。カサブタも免疫もできないし、重症になればなるほど、正気を失い、あなたは我さえ忘れてしまうかもしれない。いいえ、きっとそうなるわ」
「うーん、認めたくないけど、そうだということは分かるよ。多分、そうなるのだろうなという予感はある。それは呆けることでもないし、なにかに鈍感になることでもない。意識はしっかりしている。そして、告知されなくても、もう今の医学でできることは何もないのを知っている。それにその病は、身体の領域を超えて、魂まで到達している。もうどうしようもない。取り返しがつかないんだ」
「そう。その通りよ。おめでとう! 」
「ありがとう。お祝いしてくれて。僕は、重症になればなるほど、逆に幸せなのかもしれない。こんな病に罹ったのは初めてだ。そして、たったひとつのイメージが頭から離れない。それが麻薬のように僕を陶酔させ、そして同時に、とても意識的にさせる。覚めていて、とても静かだ。ただ、たとえてみたら熱すぎて逆に凍ってしまうほど、陶酔している。そして、陶酔すればするほど醒めていく。これ以上、確信的な方法がないほど巧妙に出来上がった運命のような捕囚。幸せな捕囚と言ってもいいかもしれない。だから、お祝いを言ってくれたんだね。もう治らない病かもしれないから」
「そう。よかったわね。あなたは、ひとつの新しい認識を得た。神聖な認識を。だから、よくよく気をつけていて。これは、とてもとてもデリケートなものだから」
「わかったよ」
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
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