幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

とらんすみゅ〜と

2017-05-14 00:17:29 | Weblog

誰かとランチデートでもしたいな
と思って道を歩いていると、
一匹の白い猫が僕に近づいてきた。

「とらんすみゅ〜と とらんすみゅ〜と」
白い猫はそう鳴きながら、僕の脚に尻尾をこすり付けてきた。

「ふん。きみとランチデート? 」
白い猫に言うと。
「ミュウ、ミュウ。とらんすみゅ〜と」
と猫は鳴いた。

猫缶でも買ってきてやるか。と思いながら訊いてみた。
「きみの携帯番号教えてくれる? それともFacebookのアカウントでもいいよ」
白い猫は目を細めて口を開けて鳴いた。
「ミュウ〜」

「なんだ携帯も持ってないのか。Facebookもやっていないのか?」
白い猫は黙って僕を見上げた。

「まあ、それの方がよっぽど信用できるけどね。あの女なんかよりよっぽど。あの女、本を貸してくれってしつこくメッセージしてきてさ。すごい嘘つきな女のくせに。それに比べたらきみの方がよっぽどましだよ」
白い猫は、顔を上げてニャ〜と鳴いた。

「いや、きみの方がっていう言い方は失礼かもしれないよね。きみはさっきから無償で僕にメッセージを送ってきてくれている。分かっているんだ」
僕はしゃがみ込んで猫の目を見た。
「きみさえもしよければ、僕とランチデートしないか?」
猫は尻尾を振ると、僕の顔を真剣な眼差しで見つめた。
白い顔に目やにがついている。
「それにしてもきみとランチを食べられるレストランなんてあるかな? いや、ないと思うよ、100%」
白い猫は、背中をブルっと震わせたあと、反対の方を向いて二三歩歩くとまたこちらを向いて戻ってきた。そして、しゃがみ込んでいる僕の脚に、自分の頭の骨をこすり付けた。

「OK。きみは嘘つき女なんかよりよっぽどましだ。行こう。酒は飲めないよね。それの方がよっぽどいい。僕はコンビニで玉子のサンドイッチを買ってくる。きみには旨そうな猫缶を買ってくるよ。そうしたら、よく一人で行く公園に行こう。綺麗な庭園になっている公園もあるけど、そこは管理が厳しそうだから、場末の公園の方に行こう。誰もいない小さなみすぼらしい公園があるんだ」

僕が立ち上がって歩き出すと、白い猫も黙ってついてきた。