神社のある風景

山里の神社を中心に、歴史や建築等からの観点ではなく、風景という視点で巡ります。

玉置神社

2008年09月14日 | 奈良県

奈良県吉野郡十津川村玉置川


京都に生まれ育った私は、中学生の頃から山歩きに興味を持つようになった。もともと野生の植物が好きだったし、滝や渓谷に惹かれていたから、ある程度の体力と判断力を持ち合わせる年齢になれば、自らの足で山を目指すのは必然といえた。
京都には千メートルを超える山は無く、滝も少ない。「山高きがゆえに貴からず、樹あるを以って貴しと為す」、という言葉を中学の時に知って、なるほど、と思いはしたものの、「近畿の屋根」と言われ、無数の滝を有する大峰山脈や台高山脈には憧憬を抱いていた。
それでも、「樹あるを以って貴しと為す」の部分は絶対的で、岩と雪の三千メートル級の山には全く興味を抱かなかった。
私は山に挑む気はさらさらなく、対立や挑戦といった言葉とは逆の、「融合」というべき山歩きに憧れた。
その憧れの大峰山脈には行く機会の無いまま大人になり、そして山歩きからも離れてしまったけれど、その存在は今でも大きく、ネット上で写真を見ることも多い。
しかも、大峰山脈の南端に近い玉置山には、熊野奥宮と言われる玉置神社がある。行かねば、と思っていた。
初めて訪れたのは昨年の四月。寒い日で境内は薄っすらと雪化粧しており、それはそれで美しかったのだが、私はもっと緑濃い季節に再訪したいと思った。
そしてつい先日、深い緑に覆われた玉置を見ることが出来た。
実はこのブログで紹介する神社が、これでちょうど100社め、ということで、この憧れの場所を紹介しようと思う。



十津川沿いの道は、何度走っても長く感じる。深い谷間の屈曲した道。行けども行けども山また山という感じだ。
途中から川沿いを離れ、玉置山への道に入る。こちらもカーブの連続だが、標高約1000メートルの駐車場まで車で行けるのだから有難い。駐車場は広く、数十台が駐車可能。
まだ暗い時間帯に到着したので、駐車場横の鳥居が薄っすら浮かび上がるのを待つ。


参道は、最初のうちは林道のような雰囲気。
ありがたいことに夜明けとともに霧が出てきた。霧の玉置山を見たいと思っていたのだ。


この辺りの木々は細いけれど、それでも山深さを感じさせる。


神社職員用駐車スペースを過ぎると、だんだん参道らしくなってくる。


ここで道は二手に分かれる。右が正規の参道と思われるので、往路は右の道を、帰路は左の道から戻ってくることにする。


徐々に神域の気配が深まってくる。


木々が細く見えるが、決して細くはなく、背が高いのでそう見えるのである。


やがて、かなりの太さの木も現れだす。


杉が主体ではあるが、所々にある広葉樹も美しい。


俄かに大木が増えだすと高みに社殿が見えてくる。
見えているのは恐らく大日社。左奥の注連縄の巻かれた木が、樹齢三千年と言われる「神代杉」。これは後でゆっくり撮影しようと思って先へ進んだのだが、それが失敗で、暫くすると霧が晴れてしまい、幻想的な雰囲気が減ってしまうことになる。


本殿へ向かう鳥居が見えてきたところで、右手に降りる小道がある。その先にある「大杉」は、神代杉や常立杉、磐余杉など名付けられた周りの他の巨杉に比べ、随分とありふれた名称である。
が、その大きさはありふれたものではなく、名実ともに「大杉」であり、奈良県下最大の杉となっている。
写真ではその大きさを測りにくいだろうが、参考までに言うと、根元に巻かれた注連縄の左側、つまり低い方が、成人男性の身長くらいの高さである。


その森厳さに息を呑む。
厳しくも美しい表情の木々。


画角を変えただけだがお気に入りなので・・・。


元の道に戻り、本殿へ向かう。


本殿前の鳥居横から社務所を見る。かなり大きな建物で、仏教的な雰囲気が色濃く出ている。


朝陽を浴びる本殿。


本殿横の神武社(手前)と若宮社。


社務所の横を通り、左から先ほど分岐した道が合流してくる。その先にある三柱社。


小さな水神社の横を通り、玉置山山頂へと至る道の途中にある玉石社へ向かう。
この辺りも立派な杉が林立する。


山道と言っていい登りの先に玉石社。
ここから山頂までは僅かなので、気力のある人は登ってみるのもいいと思う。晴れていれば熊野灘まで見渡せる。ただし、距離は短いがキツイ登りではある。


今回は山頂へは行かず、もと来た道を戻る。
往きに通った水神社の前を通るときに、ちょうど朝陽が射し込んで来た。


本殿周辺の、大きな木を見て周る。


緩やかに訪れていた朝が、一気に勢いを増す。森が目覚めて、俄かに賑わいだしたかのような気配に充ちる。


至福の時だ。


玉置神社を代表する神代杉。
もはや杉であるかも定かでないような樹形をなしている。三千年の時とは、人が描く概念や想像すらも隔たりのある時の流れであろう。


ちょっと見ただけでは、枯れているのか生きているのかさえ判らない。
幹の途中からは、芽吹いて成長した他の木が何本も生えている。恐らくは、そういった木々は切ってしまった方が神代杉にとってはいいのだろうとは思う。けれど、三千年生きるとは、こういうことなのだとも思う。自然のまま、あるべき姿のまま、神代杉は立っている。


さて、三柱社の手前まで戻り、往きには通らなかった道で帰ることにする。
山蔭になっているので、まだ早朝の気配。
左手にあるのは白山社。


やはり杉林は見事だ。右下に、往きに通った道の幟が見えている。


間もなく分岐点に到着。深い森ともお別れである。


社殿周辺よりだいぶ遅れて、この辺りにも朝陽が射し込んで来た。


駐車場に到着。
雲が眼下にあって、駐車場の時点で下界とは違うのだという気がする。
この広い山域自体が、聖地であり神域であるのだろう。


2万5千分1地形図 十津川温泉
撮影日時 080910 5時20分~8時10分

駐車場 あり
地図

 


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27 コメント

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玉置山への巡礼道 (uzi)
2008-09-14 13:13:58
百社掲載おめでとうございます。ハイペースですねぇ。

玉置神社の、最高の風景写真を見せて頂きました。
自分が歩いた参道を追体験致しました。

玉置神社は名張からでも4時間かかります。
R168は狭いしカーブが多いし、実際に距離もあるんですけど、
それ以上に長く感じ、また疲れる道です。
お隣のR169はそれほどでもないんですけどね。
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Unknown (hiro1jz)
2008-09-14 16:01:51
お陰さまで、ここまでやってこれました。
ありがとうございます。
自分としては、週二回くらいの更新がちょうどいいかな、
という感じですが、実際に神社に行く経費が馬鹿になりません(笑
もうちょっと控えるかもです。

やはりuziさんも行かれてましたか。
出来が悪ければ、掲載を見送って再度訪問、のつもりでしたが、
なんとか玉置らしさが撮れたかな、という気はしてます。
それでも何度も行ってみたい場所です。やはり遠いですけど・・・。
地図を見てみると、名張からでも阪神からでも、
あまり距離は変わりませんね。
大阪市内は阪神高速利用で、しかも深夜でしたので、
所要時間は2時間40分でした。
昼間ならやはり4時間くらいでしょうか。
南紀に行く時は、熊野に限らず新宮、勝浦方面でも169号線を使います。
遠回りのようで、こっちのほうが早いんですよねぇ。
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すばらしい (幽黙)
2008-09-14 17:26:43
100社目の玉置
堪能させていただきました
愚生には玉置は余りに遠い
こうしてhiro1jzさんの
そこに自分がいるような
気を感じさせてもらえる
写真を拝見できることが
なんともありがたいです
ちょっと
遅くなりましたが
これからぼつぼつ但馬を
アップしていきます(^ ^;
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おめでとう (era)
2008-09-14 22:40:55
さすが百社目ですね。魂こもった写真に、ある種の
畏怖さえ感じる写真ですね。どの写真もグレートで
すね。なんどか玉置の写真みたことありますが、
間違いなくベストな写真!
これからもhiro1jzさんのペースで更新してくださ
いませ。

残念。自分の休みは十月後半なんですよ。今回は
ブログでオフの報告を堪能させてもらいます。
2人が行く神社はどの神社なんでしょう?いまから
楽しみです。

岩戸落葉も参拝済みですか。なら北区で有名どころ
の良さそうな神社は、かなり制覇してますね。
こうなったら青春カムバック企画で、そのエリア
の写真も面白いかもしれませんね。
貴船は平日でも混雑します。自分が初めて参拝し
たときに驚きました。
元伊勢は北に向かいますか!舞鶴周辺は、あまり
紹介されないエリアだから面白い神社みつかると
楽しい企画になりますね。

うわ丹波じゃなくて但馬・・・自分馬鹿馬鹿。

京都・大阪周辺は山に関していえば面白くないみ
たいですよね。奈良の奥と和歌山になるんでしょ
うね。玉置は堪能させてもらいました。
あ~群馬北部の吾妻線は綺麗な人が多かったんで
すが、もっと大きい街の高崎は。。。何も言うま
いって感じです。
南紀は美人多い・・・いますぐ行きたくなりまし
た。南紀は式内社がないせいか全然知らないんで
すよね。潮岬しか知らないです。丹生都姫の関連
社で南紀もあったかなぁ?あれば行きたいですよ。
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Unknown (hiro1jz)
2008-09-15 06:23:14
>幽黙さん
ここは近畿で最も行きにくい神社かも知れませんね。
でも、十津川村周辺は、本当に自然の美しいところですし、
何日もかけて周る価値のあるところですから、
ぜひいつか行ってみて下さい。
あ、でも、また山ダニに付かれました。
紀伊半島南部は多いようです。
まあ、しゃがみこんで写真を撮ったり叢に入ったりするからなんでしょうが、
腹這いになって撮影したりする幽黙さんは餌食になるかも知れません(笑


>eraさん
ありがとうございます。
なんか勢いで過去最多の写真を掲載してしまいましたが、
もとの写真と、ブログに載せてからとイメージが違ったりするんですよねぇ。
ホントは元画像のクォリティでお届けしたいんですが・・・。

あ、やっぱり日程的に無理でしたか。
曜日のズレくらいなら調整できたんですが残念。
神社は、周るんでしょうかね?(笑
なんか二宮神社で紅葉を満喫しながら、
光の変化を見つめ、風を感じ、ぼけ~っとする、
なんて気も・・・どうなんでしょう?

貴船は晩秋かなぁ・・・。
もしかしたら来年になるかもです。
元伊勢は、幽黙さんのブログを見てたら但馬に変更したくなってきました(笑

京都周辺の山は、地味だけど味わい深いといった感じです。
でもまあ写真にはしにくいですねぇ。
美人でいえば、京都はそれなりに多いような。
単純に地元贔屓かも知れませんが。
あ、滋賀の方が多いかなぁ。
一般的には神戸と言われるような気もしますけど、
私はあんまり・・・。
って、何の話でしょうか(笑
南紀は式内社が少ないですよね。
丹生都姫・・・無いんじゃないかなぁ・・・。


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こんばんわ (era)
2008-09-15 22:28:59
何度見ても素晴らしい写真ですよね。実物も素晴ら
しいんでしょうね。この神社を悪く言う人聞いたこ
とないですもんね。
でも、このクラスの写真は、しょっちゅう撮れない
ですよね。毎週こんなの撮ってたら早死にしそうで
すよねぇ。

神社でボーっともいいですね。なんどか、そうした
ことありますよ。。。熊野の大斎原がそうでした。
時期があって近江・丹波くらいでオフするなら呼ん
でくだしまし。但馬もいいんだけど京都から遠い
んですよねぇ。。。

但馬納得です。自分も幽黙さんの見て悶絶しました
。但馬は行きたくなるから見るもんじゃないです
よ。トホホ。
良い写真撮ってきてくださいね。

丹生都姫告門に南紀はない予感ですね。
たしかに京都の女性可愛いですが、自分は神戸派
ですねぇ。女性の服装や雰囲気が近所の横浜に近い
せいだと思います。
エリア離れますが敦賀の女子高生は萌えでした。
敦賀に出張に行った友人も同意権でした。。。
脱線すいません。

明日の夜から岐阜の恵那に弾丸ツアーしてきます。
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Unknown (hiro1jz)
2008-09-16 08:23:08
行きたい神社がいっぱいあるので、
まだ早死にはしたくないですね(笑
でも、被写体と光線状態が良かったから、
というのが大きいと思います。
条件が悪い時に、どれだけ上手く撮れるか、
と考えると、まだまだでして・・・。

玉置に行った時に、本宮大社の前を通りましたが、
平日の朝なのに人が沢山いました。
やはり世界遺産効果は大きいですね。
大斎原でぼーっと出来たのは、とても運が良いと思います。
そうですね、また次の機会にぜひ濃ゆい集まりを(笑

幽黙さんが紹介されると、神社の様子がホントよく判るんですよね。
今回紹介されたところも、よく見れば他のサイトさんで見たことがあったんですが、
こんなにいいところだったのか、みたいな衝撃を受けました。
でも、やっぱりまだ誰も紹介されてないところを見つけたいので、
たぶん舞鶴に行くと思います。

女性の神戸弁というのがちょっとニガテなんですね。
文字では伝えられませんが、京都の女性の発音は大事な要素です(笑
まあ、外見的美人度とは違いますが。
敦賀は何度か行ったことがありますが、
う~ん、記憶にないです。

お、恵那ですか。
どんな神社があるのか全く未知ですが、
山深くて良さそうな土地ですよね。
良い神社を見つけてきてください。
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Unknown (幽黙)
2008-09-16 21:07:35
愚生は11月に舞鶴に行くのですが
残念ながら?見仏の旅になります
知人数名でのオフ会みたいなもので…
舞鶴の神社も
いくつか調べましたが
なかなか良さそうなところが
ありますよねぇ
楽しみにしていますね(^ ^)
お褒めの言葉ありがたく頂戴いたします
但馬も実際に見るとやはり違いますね
まだ行きたいところがたくさんあります

eraさんの恵那探訪も楽しそうですね
またお話をお聞かせください
返信する
Unknown (たんばの人)
2008-09-16 23:47:22
百社目に相応しく
息を呑みました。

山道を車で登れるから
これだけの神社を
維持できるのでしょうか。

丹波も昔は山頂に城や
大きな社寺を構えた
ところもあったようですが
戦火で失ったもの
維持が困難なため山裾へ
移転されたもの
そのほとんどが失われ
見る影もなく残念です。

ご存知かもしれませんが
丹波比叡と言われる
妙高山は車で登れます。

神池寺、日ヶ奥渓谷は
撮って頂きたいところですが、
あ、神社は微妙ですが。

さてこれからも
この社殿の石垣のように
神社の奥深さを一つ一つ
積み上げて私達を
圧倒してくださいね。

神社のある風景に出会え
百社に感動を受け
改めて感謝申し上げます。
返信する
Unknown (hiro1jz)
2008-09-17 08:27:26
>幽黙さん
私は例によって地図以外の情報は皆無に近い状態でして、
果たして良い場所にめぐり合えるかどうか・・・。
おお、見仏オフ会ですか。
お寺の仏像でしょうか、野仏でしょうか、
それもアップされるんですよね? 楽しみです。

幽黙さんのお陰で行きたい神社が増えて困ります。
尤も、先を越されて口惜しがることもありますが(笑
お互い、刺激しあって切磋琢磨、
なんて私の口から言うのはおこがましいですが、
私自身は、とても良い刺激とやる気を頂いております。


>たんばの人さん
修験道の拠点であったことなどの歴史的経緯や、
やはり樹齢三千年の杉のある鎮座地の神聖性からすると、
麓に下ろすという選択肢は無かったんでしょう。
今は使われてないようですが、
麓から物資を運ぶためのロープウェイ(林業などで使われているタイプの)もありますし、
やはり維持管理は大変であったろうとは思います。

十津川は、もう村自体が「山」ですが、
丹波は「里」の比重が大きいですから、
やはりどうしても戦乱の影響は受け易いでしょうし、
人情として、里へ里へと降りてきてもらう形になるでしょうね。
それもまた、歴史としての丹波の魅力でしょうが、
やはり残念ですね。

日ヶ奥渓谷は、以前に訪れたとき、
探勝路が立ち入り禁止になってましたが
今はどうなんでしょう?
渓谷は大好きですし、あそこは光線の向きも良いと思われるので、
ぜひとも撮影したいと思ってます。
神社や渓谷に限らず、
長閑な田園風景や集落の風景なんかも撮りたいんですが・・・。

見る人を圧倒、というのは流石に無理ですけど、
少しずつでも良いものにしていって、
神社の良さを伝えていけたら、と思っています。

こちらこそ、視野や見聞を広げさせてもらい、
とても感謝しております。





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