犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

罪刑法定主義と厳罰化の矛盾

2007-02-08 20:28:07 | 国家・政治・刑罰
近代司法の大原則といわれるのが「罪刑法定主義」である。この概念は、憲法学・刑事法学にとっては常識中の常識であるが、被害者の視点から見れば違和感を覚えることが多い。罪刑法定主義のイデオロギーは、被告人の権利を確立する一方で、犯罪被害者の問題を置き去りするという効果を生じさせてきた。

罪刑法定主義とは、ある行為を犯罪として処罰するためには、法律において犯罪と刑罰の内容を予め明確に規定しておかねばならないとする原則である。その派生原理として、①類推解釈の禁止、②刑罰の不遡及、③刑罰法規の適正が導かれる。さらに刑罰法規の適正の内容として、刑罰法規の明確性、罪刑の均衡、刑罰の謙抑性が導かれる。かくして、罪刑法定主義の派生原理である刑罰の謙抑性の原則は、犯罪被害者からの厳罰化の要請と抵触してくる。

罪刑法定主義は、公権力が恣意的な刑罰を科すことを防止して、国民の権利と自由を保障することを目的とする。すなわち、罪刑法定主義が保障され、刑罰の謙抑性が保障されているからこそ、国民は安心して生活できるという建前がある。そうだとすれば、国民の間から厳罰化の世論が出てくるのは、罪刑法定主義の理屈の上では本来あってはならないことである。これが罪刑法定主義というイデオロギーが直面している1つの矛盾であり、背理の状況である。

このような状況に直面して、一方では「被告人の権利と被害者保護は矛盾するものではない」という考え方もできる。しかしながら、このような問題の捉え方は、現実に生じている様々な矛盾を正面から受け止めていない。妥協案と折衷案を模索するだけならば、単なる政策論争に終わってしまうだろう。

被告人の権利と被害者保護を同時に行おうとすれば、必ず矛盾が生じる。このような矛盾を矛盾として端的に受け止めるのが、弁証法という哲学の基本的な考え方である。そして、この方法を確立したのがヘーゲルである。