犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

ウィトゲンシュタインの哲学

2007-02-05 19:17:25 | 言語・論理・構造
ウィトゲンシュタイン(Ludwig Josef Johann Wittgenstein、1889-1951)は、オーストリアの哲学者である。言語哲学、分析哲学の創始者であり、「語りえないことについては人は沈黙しなければならない」という有名なフレーズで知られる。

法律学においても、実定法の条文を論理的に分析する「法実証主義」が、ウィトゲンシュタインの影響を受けている。しかしながら、条文の細かい解釈技法の研究に走る法律学は、ウィトゲンシュタイン哲学の本質を見落としている。

ウィトゲンシュタイン哲学の根本は、言語が人間のものの見方を規定するということである。この洞察は、裁判で使われる難しい専門用語が被害者を疎外している状況を的確に見抜いている。今後の裁判員制度や、被害者の裁判への参加に向けて、参考にすべきところが沢山ある。

法治国家においては難しい法律が権威として存在し、それを専門家が独占し、国民一般には容易に理解できないという構造がある。しかし、ウィトゲンシュタインの視点をもってすれば、これらの構造はすべて逆転する。

どんな法律の専門家も、昔は素人であったはずであり、生まれながらの専門家はいない。そして、どんなに難しい専門用語も、日常用語の文法の理解がなくては使うことができない。専門用語が日常用語を不明確だとして見下したり、法律家が一般人を感情的・非論理的だといって見下したりすることは、自分自身の存立の根拠を揺さぶっていることになる。

分析哲学(ウィトゲンシュタイン)のカテゴリーでは、主に社会学者・橋爪大三郎氏の著作を参考にして、被害者が裁判によって疎外されてしまう原因を突き止めてみたい。