犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

ニーチェの哲学

2007-02-03 20:05:21 | 実存・心理・宗教
ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche、1844-1900)はドイツの哲学者である。すでに哲学と法律学の細分化が生じた後の時代の哲学者であるため、法律学の中では全く出番がない。しかしながら、近代市民社会の人権思想を負け惜しみの道徳(ルサンチマン)であるとして批判した思想は、現代社会の問題点をも鋭く捉えている。

日本国憲法では被告人の人権については詳細に定められているが、被害者の人権については全く定められていない。最近になってようやく被害者の人権という視点が主張されるようになったが、いわゆる「人権派」からはなかなか受け入れらない。人権という概念は、犯罪被害者にとっては非常に扱いにくい。この点に関して、ニーチェによる人権思想の批判は、犯罪被害者が本当に言いたかったことを的確に指摘している。

ニーチェの哲学は、抽象的な理念ではなく、人間の「生」そのものを直接的に捉えようとする。実存とは「今、ここに生きる自分自身の存在」のことである。犯罪被害者の苦しみは、まさに他の誰でもないこの自分が被害を受けたり、世界に1人しかいない大切な肉親の命が奪われたことに基づくものである。

実存という概念は、たった一度きりの人生、取り替えが効かない人生の真剣さを正面から捉える。これに対して、人権という概念には広く互換性があり、一般化されてしてしまうことが多い。被告人の人権と被害者の人権との比較調整と妥協という政治的な捉え方では、被害者の苦しみの根本を捉え損なう恐れがある。

実存主義(ニーチェ)のカテゴリーでは、主に哲学者・永井均氏の著作を参考にしながら、ニーチェ哲学の観点より犯罪被害者の置かれている苦しさについて考えてみたい。