犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

ヘーゲルの哲学

2007-02-02 20:26:37 | 国家・政治・刑罰
ヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel、1770-1831)はドイツの哲学者である。そして、代表的な法律学(刑法学)のテキストに登場する最後の哲学者である。

刑法学の歴史を見てみると、ヘーゲルに至るまでは哲学者の名が多く見られる。しかしヘーゲルを境として、哲学者と刑法学者が完全に分かれている。哲学者の名は法律学界では無名であり、法律学者の名は哲学界では無名である。これは、法律学が哲学から細分化し、技術的な法解釈学になったという学問の細分化に由来する。

哲学から細分化した刑法学は、最大の問いを哲学に預けてしまった。それは、「なぜ人を殺してはいけないのか」という究極的な問いである。哲学は現在もこの問いに正面から取り組んでいる。これに対して刑法学は、このような問いには実益がないとして、条文の言葉の一言一句を解釈する方向に向かっている。

学問の細分化は、一般人の常識と専門家の常識の差を生じさせる。一般人の常識からすれば、罪を犯した人間は、まずは自分自身に向き合って反省しなければならない。しかしながら刑法学のコンセプトは、そのような視点を心情的・非論理的なものとして排除したがる。そして、国家権力による刑罰権の濫用から市民の人権を守ることが近代国家の最大の常識であるとし、これを前提に話を進めていく。

犯罪被害者が現在の法律や裁判に対して有する違和感の多くは、法律学の哲学からの細分化に端を発する。ヘーゲル哲学は、法律だけでなく人間のすべての営みを含んだ体系であり、犯罪被害者の直面している問題を端的に捉えている。

弁証法(ヘーゲル)のカテゴリーでは、主に哲学者・池田晶子氏の著作を参考にしながら、ヘーゲル哲学の観点から犯罪被害者の置かれている状況について論じてみたい。