くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その10

2007-07-25 22:39:43 | 連載もの そこまで、どこまで、アイ・ラブ
「俺、あいつのために、一所懸命なんだぜ」
 宮城が言う。
「うん。見ていて分かるよ、それは」
 三鷹が律儀に頷いてみせる。
「予備校の時間割だって、俺が組んでやったんだ」
「そうか、そうか」
「俺がこの世に生まれてきたのは、あいつを幸せにするためだと思うんだよ」
 理想を追い続ける19歳の青年の言葉ではある。
 キルケゴールを愛読する彼は、心根が優しく、純粋な男なのだ。 
 しかしそれにしても、三鷹を相手に言う言葉でもない。
 三鷹も居心地が悪くなったらしく、
「あ、うん..」
 相づちを打つのをやめてしまった。
 開け放った窓からは、蛙の大合唱が聞こえてくる。
 彼らのいる住宅街は、すぐ背後に水田をひかえていた。
 のどかな、郊外にあるベッドタウンである。
 再び、電話が鳴った。宮城が受話器を取り上げた。