連載小説 そこまで、どこまで、アイ・ラブ・ユー その3

「いいな。黒川も行くか？」
「いいよ」
　ソファで煙草を吸っていた黒川が同意した。この男は、サイドボードに入っていたサントリーの角瓶を勝手に拝借し、水割りで飲んでいた。
　無論、その酒は、この夜のホストである宮城の父親のものである。
「おい黒川。それ、たくさん飲むなよ。親父にバレるだろ」
　宮城が咎めると、黒川は不満げに鼻を鳴らした。
「新しいのを買ってくればいいじゃあねえか」
　黒川の強い視線を受けて、宮城は顔を赤らめた。そして、取ってつけたように、
「カクテルってさあ、奥が深いものなんだよね。だからバーテンさんって、いろんな知識がいるんだってさ。僕、自分の店を持って、バーテンダーになりたいな。どう思う？」
「お前、大学に行かないのか？」黒川とともにウイスキーを飲んでいた、尾上という男が口を開いた。
「専門学校にでも行くのかよ」
「え、まさか」
「飲食店をやるには、資格がいるはずだぞ。教育学部なんか狙って予備校通っていても、だめだ」