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くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

憧れはグラハム・カー 雑木林編 2

2004-09-10 20:27:24 | 連載もの 憧れはグラハム・カー
「よおし、火を強くしよう。おいマサル何やってんだよ早く薪集めろよ」ブロンソン・ススムが突然焚き火担当になって張り切った。「固い木って火がつきにくいんだなあ」
 三人にとって、焚き火で湯を沸かすのは初めてのことだった。飯盒一杯の水を沸騰させるのはけっこう難しいものである。
「あのよ、もう一時間は経ったんだけどな」千春マサルがバリトン声に苛立ちを加えて言った。
「そんなに経ってねえよ」奈保子ハヤトが反論する。
「いつ沸くんだよ」
「そんなの知らねえ」
「ススム君があと10分で沸くって言ったんですね」
「ちょっと火力が弱まったからな」ススムが玄人風に言う。しかしそんなこと分かっちゃいないのだ。
 陽が陰ってきた。眩しく輝いていた雪面がしずもり、急速に気温が下がっていく。
「うひゃっ! 寒いなやっぱ」ススムがアノラックの襟を立てた。濡れっぱなしのスノトレを火にかざす。「おいハヤト、こんなんじゃ凍死するぞ」
「なあ」マサルが斜め下からススムを見上げる。
「10分経ったんですけど」
「あっそう」ススムはシラを切ることにした。
「10分経ったんですけど。沸いたんでしょうね」
「知らないよそんなこと!」
「だってさっき10分で沸くって言ったんですね、ススム君が」
「言ってないよ」
「言いました」
「言ってない」
「沸いたかどうかって、どうやって分かるんだろ?」ハヤトが蓋を開けてみた。湯気とコンソメの匂いが立ち昇った。
「どけてみろ」ススムが人差し指を突っ込んだ。「ぬるい...」snowdome180

 それから三人でコンソメ湯を飲んで、ひたすら焚き火に熱中した。火が弱まると誰かが立ち上がって、どこからか薪を集めてきた。マサルが大きな切り株を持ってきたときには盛大な拍手が起こった。
「こんにちは!」突然、すっかり暗くなった林の中から子供の声がした。ハヤトが仰天して尻餅をついた。
「すみません、焚き火にあたらせて下さい」闇から現れたのは小学生の集団である。5~6人はいるだろうか。その中のリーダー格らしい子が声を掛けてきたのだ。
「おう、あたれよ」ススムが招く。「学校どこだ?」
「ヒガシです」
「なんだあ、ヒガシかあ! 俺の後輩だなあ!」ススムは自分の出身校と分かって嬉しそうだ。
「松村知ってるか? 理科のセンセー」
「はい、こないだケッコンしました」
「うそ! あのオールドミスが?」
「前よりブスじゃなくなったです」
「ぎゃははっ!」
 ススムと後輩たちは暫くうわさ話をした。蚊帳の外に置かれたハヤトとマサルは黙って火を大きくする。周りの雪面はだいぶ溶けていた。
「そんじゃ、ありがとうございましたっ!」リーダーの子が突然言って、ベレー帽をとってペコリとお辞儀をした。他のメンバーも同じ挨拶をし、つぎつぎと闇に消えていった。
「礼儀正しいなあ」マサルが言った。
「ヒガシの連中はみんなそうだよ」ススムが胸を張った。
「あ~あ、明日朝レン(朝の部活動)思いっきり早く行かねえか?」ハヤトが言った。
「いいな。んじゃ六時集合な」
「マサルは?」
「そんなに早く行けないよ。楽器だって持ってきてないし」
「俺らは持って帰ってきたからな。体育館の横で課題曲やろうぜ」
「いいねえ」
「絶対県大会な」
「金賞な」
「よしっ」


おわり
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憧れはグラハム・カー 雑木林編

2004-09-10 19:46:21 | 連載もの 憧れはグラハム・カー
「おい、本当にあと10分で沸くんだろうな」マサルが確認した。
「沸くよ」ススムが器用に眉をあげて答える。そんなときは彼は一寸チャールズ・ブロンソンに似ていた。
「もうちょっと薪集めようぜ、寒いし」ハヤトが雪面から腰を上げた。「こんなのがモチのいい薪なんだよ」固いナラの枝を持ち上げて二人に見せた。こういうのを集めろよ、と暗にほのめかしているのだ。
 その日の朝、三人はピカピカのリュックを背負って近所のスーパーに集合した。道路には前夜の雪がうっすらと積もっており、気温は低いが気分のいい日曜日だった。
 三人の住む町から東に向かって丘を上がると、まだ宅地造成半ばの隣町に行けた。巨大な案部があり、その底では自殺体が見つかったことがあるという話しだ。そんな恐ろしいところには行く勇気もない中学生三人組だったが、案部の手前に広がっている雑木林は以前から気になっていた場所だった。リュックに飯盒とシェラカップとサバイバルグッズを詰めて、三人は林に分け入ったのだ。
 クラスト状態の雪を踏みしめて中心部まで進むと、国道を走る車の音も聞こえなくなった。誰もいない。三人は顔を見合わせうふふと笑い、倒木に座って意味もなく買ったばかりのキャンプ道具を振りかざして遊んだ。
「あのうるさい鳥は何?」
「ヒヨドリ」
「ヌエ」
「ひゃははっ!」
「ヌエの鳴く夜は恐ろしい...」
tre240


「あ~あ、俺泊まっていきたいなあ」ハヤトが言った。
「馬鹿だなテントもないのに」ススムが分別顔で返す。
「俺は寒さは平気だ。服を着たまま寝る」ハヤトは時折無茶を言った。目がクルクルと動くとやや河合奈保子に似ている。
「凍死するぞう」マサルが良く通るバリトンで言う。しかし顔は松山千春そっくりである。
「しねえよ」
「するよ」
「しませんね~だ」
「するんですね」
「こないだベストテン見た?」
「あっ見た見た。松田聖子ブリッ子な」
「渡辺徹の“約束”いいよな」
「うん、カッコいい」
「さ・よ・な・ら・さっ♪」
「腹減ってきたな、もう三時だよ」
「おい食料係、ナンか作れ」
 ということで冒頭に戻るのである。食料係のハヤトは飯盒に水を入れて火にかけ、そこにコンソメのキューブを一つ落として蓋をした。
「なにそれ?」マサルが尋ねる。
「コンソメ」ハヤトが何故か目を逸らして答える。
「まさかそれだけ?」
「しょうがねえじゃんか、金ないんだから。それにコンソメはあらゆる栄養素が詰まっているんだぞう」口からでまかせである。

おっぺけでつづく♪
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