くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

素顔

2004-09-13 13:39:41 | エッセイ
 週末は引っ越しの手伝いをしておりました。久しぶりの筋肉痛も心地良く、久しぶりのトラックの運転も楽しかった。幅1.6メートル、全長3メートルほどの1.5トン車でした。頭を思いっきり出してからの右左折とか、強烈な排気ブレーキとか(オプションだけど)、トラックには乗用車とは違った独特の運転技術があります。バイクと同じで一度憶えてしまえば忘れないものですね。荷物をロープで固定するときのナンキン縛りも忘れてなかった。小さなことだけど、こんな事柄が生きていく上で自信になるものなのだなあ。

 全て終わってから友人と車の運転について暫く話しをしました。「運転をすると別人になる人がいるよね~」とのこと。その場合、いつもより乱暴になるとか、強気になるとか、そういう変化が多いようです。いつもより優しくなる、というのがまずないのがつまらない。
 “運転をすると人が変わる”のではなくて、本来の“その人自身”が出てくるのだと思う。これまで見ることの出来なかった生々しい本質を見せられて、同乗した人は驚くわけです。運転によって人格が変わったりすることはありません。
 だからある人物を見極めたいときには、その人に運転をしてもらうのが一番分かりやすいのではないか。普段の振る舞いや言動とは全く違った面が見えるし、饒舌になることも多い。そしてそういう変化を運転している本人は隠そうとはしないものです。
 なんとなれば、他人の評価を“素直”に聞きながら自分の運転の仕方を見つめ直せば、自分でも分からなかった本来の自分が見えてくるということになります。“素直に”と書いたのは、運転しているときにはたいてい自信過剰になっているから、隣に乗っている人に注意をされても聞き入れないことが多いからです。このことを見ても、いかに運転という環境が本性を露呈しやすいものかということが分かりますね。

 ところで、学生時代にこんなことがありました。
 みんなでワンボックスカーに乗って上野近辺を走っていたときのことです。運転していた奴は普段から穏やかで、ハンドルを握ってもあまり変化はなかった。やはり穏やかで慎重でした。かといって臆病なのとは違います。意思表示のはっきりした運転です。
 ある交差点で右折しようとしていたときに、直進車群の切れ目があってもなかなか行かないのを見て、みんなは(自分も含む)「今、行けたじゃん!」と何度か言ったものです。やや強引でも行けるタイミングってありますね。そのときに彼は一言、
「俺、なるべく相手にブレーキを踏ませたくないんだよ」
 この言葉は20年近く経った今でも、ココロの奥底にしっかりと根付いています。