病院広報(はとはあと)評価支援情報

「はとはあと」は、市民の暮らしに必要な、誠実で適切な医療情報を評価し、支援することで参加施設の透明性と“信頼を高めます。

情報あってこそ医療の質

2011-05-29 16:25:31 | はとはあと最新情報
※本稿は、一旦アップしましたが、一部に問題がありましたので、見直しをおない再度アップしたものです。

そこにイスがあるとします。人は「イス」やイスのありようを、それに相応しい言葉(情報)を使って説明してきました。何ごとも情報の光りを当てることで、その実体が浮き彫りにされ認知されることになります。人間社会に発生し続ける出来事も、高度に情報化されることでニュースとして社会に伝わっていくことになります。 

 ところが同じように医療という仕組みを理解しようとすると、これは、なかなか難しいことになります。ひとつには、医学を根とするものの、途轍もなく大きく動かしがたい広がりや深みがあること、もう一つは多様性、人体のみならず命を育む環境や利用する人々が身を置く社会など、どれをとってもユニークな個別の存在と関係にあり、全体を明確にするほどの情報の光が見つからないことです。

 さ、それはそれとして、今かりに、急に体調が悪くなった高齢のAさんにとって、どうすればよいか、その判断はまことに切実です。「インターネットの時代で情報なんか溢れかえっている」とよく言われます。しかし、一人暮らしというのもあり、救急車が必要という時もあり多様、ケースバイケースです。命や病気・ケガについての確かな情報は、「必要なときに」、「手近にあり」、「わかりやすい」こと、つまり情報の光が当たっていることが絶対条件です。

 このような多様な医療需要に対して、近年、医療界は、その“商品”である医療、その質を上げるための懸命の努力があったように思います。350万人を超えるともいわれる医療従事者のボランティア精神や赤ひげの心意気など、経済界ではあり得ない取り組みや報酬の枠を超えた犠牲的努力を評価してこそ、現在の医療があると考えていいと思います。

 ところが、情報の光の当て方によっては、そんな医療現場に大きな問題があります。それは伝統的に情報を出さない文化といえます。「由らしむべし知らしむべからず」といった風潮は、ほとんどなくなりつつあるようですが、情報を積極的に出そうという意識が旺盛かといえば、そうとは言えません。それは「時間ない」「予算ない」「技術ない」、そして「知識ない」のナイナイづくしが原因という人もいます。さらに「なんでも自前主義」がいっそうブレーキを掛けているとの言も気になります。一括すれば「気がない」なというのが社会の目です。社会に対して発言しない、説明不足の理由も多様なのです。

 それより、このまま医療現場から「声がでない」のは、「何か奥に理由があるのではないか」と勘ぐられるのが心配です。そのような印象を与えてしまっては、形のない商品を扱うサービス業は失格でしょう。なかでも国民の声を代弁し世論をリードするといわれるマスコミには、そのような見方は当然の成り行きです。このため医療には、国民の暮らしや思いに配慮するためにも、社会との地域の通った対話が求められるところであり、優れた医療機関となる絶好のチャンスでもあります。

 私は、自分の子供を事故(~病院)で亡くして以来、医療の世界に関心をもち、1995年から病院広報の必要性を訴え有志の医療機関とともに提案してきました。医療に素人である私にできることは、サービスの、業としてのあり方や情報提供の重要性について、経済行為に不慣れな医療者のみなさんに、その手段・技術・仕組みを伝え、病院経営のお役に立つことでした。病院などの医療機関が少しでも多くの情報を院内外に送り出し、その反響によって医療サービスを改善してもらえるよう呼びかけてきました。地域の温度差はありますが、多くの賛意を得て、現在154回目の研修講座を企画しているところです。

 多くの病院との行き来で感じてきたことは、そこに立派なイスがあるのに、イスについての一面的な情報しかないということです。医師・看護師不足は日常化していますし、多くの病院が赤字経営に苦しんでいます。そのうえこのたびの震災も相まって疲労困憊の度は増すばかりです。医療の全体像や将来像について、当事者のまともな説明がありません。「もっとも真面目に聞こう」という市民も少ないのが現実ですが、だからといって情報が少ないことを放置していいいはずがありません。

 それらを解決するのは、私たちが伝えてきた病院の広報機能です。病院の広報活動をより活性化させるには、さらなる資源の投入と継続、その信念が必要であり、組織的な取り組みが欠かせません。医療がサービスであろうとなかろうと、その価値は、「知っている人が知らない人に」、思いやりをもって「伝える」ことです。最高の品でも黙って置いて来るようでは、その価値は生まれません。本来の価値を説明し意味を伝えてこそ「質が評価できる」のです。人から人への医療とともに「情報を伝える」、その創出の価値が専門性であり、病院という組織の意義を明確にする「病院広報」はないでしょうか。

NPO法人日本HIS研究センター 代表理事 石田章一

※病院広報とは、医療法でいう病院ではなく、診療所や調剤薬局、老人保健施設などを含む施設が行う広報活動をいう。