都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」 太田記念美術館
太田記念美術館
「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」
2/1-2/26

太田記念美術館で開催されていた「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」を見て来ました。
北斎の娘であり、自らも絵師として活動した葛飾応為。その業は晩年の父の制作を助けたと言われるほど。しかしながら北斎の没した数年後に消息を絶つ。生没年すら不明です。現存する作品も僅か10点ほどしかありません。
よく「幻の」という言葉でも語られる応為。あながち誇張ではないかもしれません。そして残された作品の中でも特に有名なのが表題の「吉原格子先之図」。光と闇の鮮やかなコントラスト。類い稀な個性を感じます。
その応為作を中心に浮世絵における光と影の表現を追いかけます。
さて既に本日をもって会期を終えた展覧会。手短かに感想を。まずは応為の「吉原格子先之図」。てっきりラストに掲げられているのかと思いきや、冒頭での展示。この作品を初めて見たのも太田記念。振り返れば2008年の「浮世絵の夜景」展のことでした。
それにしても何度見ても引込まれるものがある。格子の向うには吉原の遊女、艶やかな宴。明るくまた華やかです。そしてそれを覗き込む男たち。反面のシルエット。闇夜です。明暗の対比。明かりは格子からもれる光と提灯のみ。多くは後ろ姿で表情も伺えません。またよく見ると格子の向うにもシルエット状の人物がいる。さらに覗き込むのは自分、絵を見る鑑賞者です。だまし絵とまでは言いませんが、どこか不思議な印象を与えられます。
さて本作に続くのは、葛飾派以下、多様な浮世絵の絵師たち。それを「洋風表現」、「夜と美人」、「夜景」、「影、シルエット」の他、「閃光」などのキーワードで見ています。
まず印象深かったのは広重の「隅田堤闇夜の桜」。夜桜を愛でる三人の女性たち。いわゆる美人画ですが、あえて桜をモノクロ、ようは色を入れないで表現しているのがポイント。女性たちの着物の美しさが浮かび上がる。背景の闇とのコントラストも見事です。

月岡芳年「風俗三十二相 つめたさう 文化年間めかけの風俗」1888年
芳年の「風俗三十二相 つめたさう 文化年間めかけの風俗」はどうでしょうか。夜中に水で手を洗う女の姿。口には拭くための紙をくわえている。どこかエグ味のある人物表現は芳年ならではですが、面白いのは背景。右に暗、左に明。それを斜めの構図で切り取っているのです。

喜多川歌麿「中田屋」1794-95年頃
歌麿の「中田屋」も趣き深い一枚。縁側でしょうか。手前の階段に腰をかけるのは一人の女性。背後には障子があり、別の女が少しあけて手前の女と会話している。障子には同じく女性のシルエットが映ります。はじめは腰掛けている女の影かと思いました。違います。さらにもう一人、障子の向うにいる女のもの。三名の女性の演じる瞬間の情景。それを巧みに描き出しています。
国貞の「二見浦曙の図」は劇的です。言うまでもなく伊勢は二見浦の夫婦岩に取材した作品。岩の彼方、水平性の向うから朝日が浮かび上がる。四方に散る閃光。上空に5本、海には6本でしょうか。また岩の手前には小さな人影が。何でも身を清めようとする人たちなのだそうです。

井上安治「銀座商店夜景」1882年
ラストは清親に井上安治らが登場。維新後、明治の夜景です。中でも井上安治の「銀座商店夜景」が目を引く。当時まだ珍しかった缶詰を得る店先を描いたもの。夜の景色ですが、ともかく店の中が明るい。煌煌と照っている。やはり電灯なのでしょうか。江戸時代の明かりとは大きく異なります。
応為作は表題の1点のみ。現存する作品の数を思えば致し方ないかもしれません。ただそこから浮世絵全般の陰影表現を追う展開。思いの外に興味深いものがありました。
「浮世絵美人解体新書/安村敏信/世界文化社」
展覧会は終了しました。
「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」 太田記念美術館(@ukiyoeota)
会期:2月1日(土)~2月26日(水)
休館:月曜日。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般700円、大・高生500円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」
2/1-2/26

太田記念美術館で開催されていた「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」を見て来ました。
北斎の娘であり、自らも絵師として活動した葛飾応為。その業は晩年の父の制作を助けたと言われるほど。しかしながら北斎の没した数年後に消息を絶つ。生没年すら不明です。現存する作品も僅か10点ほどしかありません。
よく「幻の」という言葉でも語られる応為。あながち誇張ではないかもしれません。そして残された作品の中でも特に有名なのが表題の「吉原格子先之図」。光と闇の鮮やかなコントラスト。類い稀な個性を感じます。
その応為作を中心に浮世絵における光と影の表現を追いかけます。
さて既に本日をもって会期を終えた展覧会。手短かに感想を。まずは応為の「吉原格子先之図」。てっきりラストに掲げられているのかと思いきや、冒頭での展示。この作品を初めて見たのも太田記念。振り返れば2008年の「浮世絵の夜景」展のことでした。
それにしても何度見ても引込まれるものがある。格子の向うには吉原の遊女、艶やかな宴。明るくまた華やかです。そしてそれを覗き込む男たち。反面のシルエット。闇夜です。明暗の対比。明かりは格子からもれる光と提灯のみ。多くは後ろ姿で表情も伺えません。またよく見ると格子の向うにもシルエット状の人物がいる。さらに覗き込むのは自分、絵を見る鑑賞者です。だまし絵とまでは言いませんが、どこか不思議な印象を与えられます。
さて本作に続くのは、葛飾派以下、多様な浮世絵の絵師たち。それを「洋風表現」、「夜と美人」、「夜景」、「影、シルエット」の他、「閃光」などのキーワードで見ています。
まず印象深かったのは広重の「隅田堤闇夜の桜」。夜桜を愛でる三人の女性たち。いわゆる美人画ですが、あえて桜をモノクロ、ようは色を入れないで表現しているのがポイント。女性たちの着物の美しさが浮かび上がる。背景の闇とのコントラストも見事です。

月岡芳年「風俗三十二相 つめたさう 文化年間めかけの風俗」1888年
芳年の「風俗三十二相 つめたさう 文化年間めかけの風俗」はどうでしょうか。夜中に水で手を洗う女の姿。口には拭くための紙をくわえている。どこかエグ味のある人物表現は芳年ならではですが、面白いのは背景。右に暗、左に明。それを斜めの構図で切り取っているのです。

喜多川歌麿「中田屋」1794-95年頃
歌麿の「中田屋」も趣き深い一枚。縁側でしょうか。手前の階段に腰をかけるのは一人の女性。背後には障子があり、別の女が少しあけて手前の女と会話している。障子には同じく女性のシルエットが映ります。はじめは腰掛けている女の影かと思いました。違います。さらにもう一人、障子の向うにいる女のもの。三名の女性の演じる瞬間の情景。それを巧みに描き出しています。
国貞の「二見浦曙の図」は劇的です。言うまでもなく伊勢は二見浦の夫婦岩に取材した作品。岩の彼方、水平性の向うから朝日が浮かび上がる。四方に散る閃光。上空に5本、海には6本でしょうか。また岩の手前には小さな人影が。何でも身を清めようとする人たちなのだそうです。

井上安治「銀座商店夜景」1882年
ラストは清親に井上安治らが登場。維新後、明治の夜景です。中でも井上安治の「銀座商店夜景」が目を引く。当時まだ珍しかった缶詰を得る店先を描いたもの。夜の景色ですが、ともかく店の中が明るい。煌煌と照っている。やはり電灯なのでしょうか。江戸時代の明かりとは大きく異なります。
応為作は表題の1点のみ。現存する作品の数を思えば致し方ないかもしれません。ただそこから浮世絵全般の陰影表現を追う展開。思いの外に興味深いものがありました。

展覧会は終了しました。
「葛飾応為 吉原格子先之図ー光と影の美」 太田記念美術館(@ukiyoeota)
会期:2月1日(土)~2月26日(水)
休館:月曜日。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般700円、大・高生500円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
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