都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界/戦争とカメラ」 横浜市民ギャラリーあざみ野
横浜市民ギャラリーあざみ野
「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界/戦争とカメラ」
2/1-2/23
横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界」を見て来ました。
恒例のあざみ野「フォト・アニュアル」シリーズ。今年は「写真の境界」です。写真の表現し得る領域はどこまで拡張していくのか。3名の写真家が展示を行っています。
会場内、撮影が可能でした。順に追ってみます。
まずは多和田有希。1978年生まれの作家です。2010年のVOCA展にも出品がありました。
多和田有希「Continental Drift Theory」2009年
被写体は群像や都市。いわゆる裸祭りでしょうか。ふんどし姿の男たちがひしめき合う姿。そして一転しての都市。韓国にも取材しているのかもしれません。看板にはハングルも。またおそらくは東京も写している。夜景です。群像は正面性が高い構図。都市は高い視点から鳥瞰するようなアングルで捉えています。私は都市により惹かれました。
多和田有希「White Voice」2013年
さて作品。ここに挙げた写真でも気づかれるかもしれませんが、ともかくも全面を白い粒、もしくは線のようなモチーフが覆っています。はだか祭りではさながら男たちの出す湯気。そして都市はネオンサインです。道路に沿って空へ向けて光が放たれる。鮮やかでもあります。
実は私自身、初めは写真の上から何らかの顔料なりで白い面を描き加えているのかと思いました。しかしながら目を凝らすと違う。線は引っ掻き傷のように走っています。ようは写真をサンドペーパーなりで削って生じた白なのです。解説には「彫刻」という言葉もあります。人々や都市の放つオーラやエネルギーを表現する。そうしたことも感じました。
春木麻衣子「a surface 01」2013年
次に進みましょう。1974年生まれの春木麻衣子。2011年には写美の新進作家展にも参加した作家です。
春木麻衣子「whom? Whose? 3-1M」2010年 他
ともかく目に飛び込んでくるのは黒と白の際立つコントラスト。そもそも展示室からして手前は明るくて白く、奥は暗くて黒い。そして黒の部屋。暗い建物内から見る窓越しの景色でしょうか。展示室も作品を覆う闇に包まれている。言わば写真と空間が連動しています。
ラストは1982年生まれの吉田和生です。近年には群馬の青年ビエンナーレ(2012)で大賞を受賞しています。
吉田和生「Air Blue」2014年
まずインパクトがあるのは壁一面を埋め尽くす「Air Blue」。森の中で木を見上げ、空を見据える。ただし単に見たままの風景ではなく、木や空に雲が時に交錯しているようにも映る。コラージュということで良いのでしょうか。実際に空を写して集めた写真をphotoshopで加工しているそうです。
吉田和生「Wav」2013年
それにしても水色に白を基調とした空間。ドットが散らばる平面。もはや抽象的です。また海に見えるような作品もありますが、これは意図してのこと。被写体は全て空です。作家の手を介すことで様々なイメージを引き出します。
「被写体の姿が不鮮明である。しかし不鮮明であるがゆえに、鑑賞者は目の前にあるイメージを超えて想像をめぐらすことが出来る。」(写真の境界展リーフレットより)
自分が何を見ようとしているのか。確かに元来にあるはずのイメージはいずれも変化、もはや曖昧でもあります。トリッキーという言葉は相応しくないかもしれません。ただ様々なアプローチを通すことで見開かれる新たな景色。なかなか魅惑的だと思いました。
さて本展に続く「戦争とカメラ」。こちらも見逃せません。横浜市が誇るカメラ・写真のコレクション。合計1万点にも及ぶ所蔵品をピックアップ。毎回テーマを設定して紹介していますが、今回はずばり「戦争」です。アメリカの南北戦争にはじまり、二つの世界大戦へ。カメラと写真がどのように戦争と関わってきたのか。それを100点の資料とともに追いかけています。
ソルントン・ピッカード社「マーク3ハイス・ガンカメラ」1915年
うち私が特に興味深かったのは「兵器としてのカメラ」についてのセクション。ようは軍隊における記録写真や軍事調査のためのカメラです。「マーク3ハイス・ガンカメラ」はどうでしょうか。まさに銃のような形をしたカメラ。何でも射撃訓練用で実際の射撃機能はないとか。目標に向けて引き金を引くと撮影され、現像後に目標が写っていれば着弾したものとみなすそうです。
ツァイス・イコン社「ESK2000」1939年
そして同じく訓練用としては二次大戦中にドイツ空軍が使ったものも。言われなければまるで砲弾。一見ではカメラか判別出来ません。
ヴァルスツ電機社「ミノックス」1937年 他
またスパイカメラもあります。その名の通りスパイ用。ドイツやフランス軍のもの。いずれも10センチ四方ほどで、手にすっぽりと収まるサイズです。これで文章などを隠し撮りしていたのでしょうか。
EG&G社「ラパトニック」1950年 他
そして最後には驚きのカメラが。何と核実験の撮影装置です。その名は「ラパトニック」。これでアメリカ軍は1952年~55年にかけてネバダ州で行われた核実験を撮影したそうです。
タイム社「ライフ 1943年8月16日号」1943年
また写真が戦争のプロパガンダに使われた経緯などについての展示もあります。あざみ野でのカメラコレクション展、いつもかなり楽しめますが、今回も充実していました。
「戦争とカメラ」会場風景
それにしてもこの内容で入場は無料。立派なリーフレットまでいただけます。恐れ入りました。
2月23日まで開催されています。おすすめします。
「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界/戦争とカメラ」 横浜市民ギャラリーあざみ野(@artazamino)
会期:2月1日(土)~2月23日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00
料金:無料
住所:横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
交通:東急田園都市線あざみ野駅東口徒歩5分、横浜市営地下鉄ブルーラインあざみ野駅1番出口徒歩5分。
「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界/戦争とカメラ」
2/1-2/23
横浜市民ギャラリーあざみ野で開催中の「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界」を見て来ました。
恒例のあざみ野「フォト・アニュアル」シリーズ。今年は「写真の境界」です。写真の表現し得る領域はどこまで拡張していくのか。3名の写真家が展示を行っています。
会場内、撮影が可能でした。順に追ってみます。
まずは多和田有希。1978年生まれの作家です。2010年のVOCA展にも出品がありました。
多和田有希「Continental Drift Theory」2009年
被写体は群像や都市。いわゆる裸祭りでしょうか。ふんどし姿の男たちがひしめき合う姿。そして一転しての都市。韓国にも取材しているのかもしれません。看板にはハングルも。またおそらくは東京も写している。夜景です。群像は正面性が高い構図。都市は高い視点から鳥瞰するようなアングルで捉えています。私は都市により惹かれました。
多和田有希「White Voice」2013年
さて作品。ここに挙げた写真でも気づかれるかもしれませんが、ともかくも全面を白い粒、もしくは線のようなモチーフが覆っています。はだか祭りではさながら男たちの出す湯気。そして都市はネオンサインです。道路に沿って空へ向けて光が放たれる。鮮やかでもあります。
実は私自身、初めは写真の上から何らかの顔料なりで白い面を描き加えているのかと思いました。しかしながら目を凝らすと違う。線は引っ掻き傷のように走っています。ようは写真をサンドペーパーなりで削って生じた白なのです。解説には「彫刻」という言葉もあります。人々や都市の放つオーラやエネルギーを表現する。そうしたことも感じました。
春木麻衣子「a surface 01」2013年
次に進みましょう。1974年生まれの春木麻衣子。2011年には写美の新進作家展にも参加した作家です。
春木麻衣子「whom? Whose? 3-1M」2010年 他
ともかく目に飛び込んでくるのは黒と白の際立つコントラスト。そもそも展示室からして手前は明るくて白く、奥は暗くて黒い。そして黒の部屋。暗い建物内から見る窓越しの景色でしょうか。展示室も作品を覆う闇に包まれている。言わば写真と空間が連動しています。
ラストは1982年生まれの吉田和生です。近年には群馬の青年ビエンナーレ(2012)で大賞を受賞しています。
吉田和生「Air Blue」2014年
まずインパクトがあるのは壁一面を埋め尽くす「Air Blue」。森の中で木を見上げ、空を見据える。ただし単に見たままの風景ではなく、木や空に雲が時に交錯しているようにも映る。コラージュということで良いのでしょうか。実際に空を写して集めた写真をphotoshopで加工しているそうです。
吉田和生「Wav」2013年
それにしても水色に白を基調とした空間。ドットが散らばる平面。もはや抽象的です。また海に見えるような作品もありますが、これは意図してのこと。被写体は全て空です。作家の手を介すことで様々なイメージを引き出します。
「被写体の姿が不鮮明である。しかし不鮮明であるがゆえに、鑑賞者は目の前にあるイメージを超えて想像をめぐらすことが出来る。」(写真の境界展リーフレットより)
自分が何を見ようとしているのか。確かに元来にあるはずのイメージはいずれも変化、もはや曖昧でもあります。トリッキーという言葉は相応しくないかもしれません。ただ様々なアプローチを通すことで見開かれる新たな景色。なかなか魅惑的だと思いました。
さて本展に続く「戦争とカメラ」。こちらも見逃せません。横浜市が誇るカメラ・写真のコレクション。合計1万点にも及ぶ所蔵品をピックアップ。毎回テーマを設定して紹介していますが、今回はずばり「戦争」です。アメリカの南北戦争にはじまり、二つの世界大戦へ。カメラと写真がどのように戦争と関わってきたのか。それを100点の資料とともに追いかけています。
ソルントン・ピッカード社「マーク3ハイス・ガンカメラ」1915年
うち私が特に興味深かったのは「兵器としてのカメラ」についてのセクション。ようは軍隊における記録写真や軍事調査のためのカメラです。「マーク3ハイス・ガンカメラ」はどうでしょうか。まさに銃のような形をしたカメラ。何でも射撃訓練用で実際の射撃機能はないとか。目標に向けて引き金を引くと撮影され、現像後に目標が写っていれば着弾したものとみなすそうです。
ツァイス・イコン社「ESK2000」1939年
そして同じく訓練用としては二次大戦中にドイツ空軍が使ったものも。言われなければまるで砲弾。一見ではカメラか判別出来ません。
ヴァルスツ電機社「ミノックス」1937年 他
またスパイカメラもあります。その名の通りスパイ用。ドイツやフランス軍のもの。いずれも10センチ四方ほどで、手にすっぽりと収まるサイズです。これで文章などを隠し撮りしていたのでしょうか。
EG&G社「ラパトニック」1950年 他
そして最後には驚きのカメラが。何と核実験の撮影装置です。その名は「ラパトニック」。これでアメリカ軍は1952年~55年にかけてネバダ州で行われた核実験を撮影したそうです。
タイム社「ライフ 1943年8月16日号」1943年
また写真が戦争のプロパガンダに使われた経緯などについての展示もあります。あざみ野でのカメラコレクション展、いつもかなり楽しめますが、今回も充実していました。
「戦争とカメラ」会場風景
それにしてもこの内容で入場は無料。立派なリーフレットまでいただけます。恐れ入りました。
2月23日まで開催されています。おすすめします。
「あざみ野 フォト・アニュアル 写真の境界/戦争とカメラ」 横浜市民ギャラリーあざみ野(@artazamino)
会期:2月1日(土)~2月23日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~18:00
料金:無料
住所:横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 アートフォーラムあざみ野内
交通:東急田園都市線あざみ野駅東口徒歩5分、横浜市営地下鉄ブルーラインあざみ野駅1番出口徒歩5分。
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