「世紀の日本画」 東京都美術館

東京都美術館
「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」 
1/25-4/1 前期:1/25-2/25、後期:3/1-4/1



東博での「クリーブランド展」と「人間国宝展」にあわせ、「日本美術の祭典」として開催中の「世紀の日本画」展。近代日本画の名品を展観。大観、春草、古径、青邨、靫彦など。その数120点。(前後期で総入れ替え)半ば各画家を代表し得る作品が集まっています。

これは日本画好きにはたまらない展覧会。早速、感想をといきたいところですが、その前に一つだけ踏まえておきたい点を。勘違いしたのは私だけかもしれませんが、実は本展タイトルの「世紀」。例えば漠然と「20世紀」とした意味ではない。ようは日本美術院が大正3年に再興してから現在までの100年、その「1世紀」という意味なのです。

つまりは再興院展の歴史を遡って100年辿るというもの。よって院展限定です。また何も過去の巨匠だけではなく、現在も活動を続けている再興院展の同人の画家の作品も展示されています。それに過去の別部門ということでしょうか。洋画と彫刻も僅かながら出品されていました。


狩野芳崖「不動明王」明治20年 東京藝術大学 *前期展示:1/25-2/25

それでは感想に入ります。冒頭は再興院展成立前後です。狩野芳崖の「不動明王」。堂々たる姿。どうでしょうか、図版では落ち着いた色味に見えますが、実際には驚くほどに発色が良い。眩い金色の背景に明王の着衣の鮮烈なオレンジ色。そして空間には奥行きがある。エキゾチックな雰囲気。力強い作品です。

春草の「四季山水」も優品です。前期は春から夏までの光景。野山には桜が咲く。穏やかな筆致と色遣い。それでいて図像的とも呼べるイメージも。例えば川が岩を流れる場面岩の部分の色がモザイク状に塗られている。そういえば木々の並びにもリズムが感じられます。


奥村土牛「閑日」昭和49年 東京国立近代美術館 *前期展示:1/25-2/25

土牛の「閑日」に惹かれました。画家85歳の時の作品。描かれているのは一匹の猫。目が金色です。躯は得意のたらし込み。その上に細い線で毛を描く。背景は赤い敷物でしょうか。洒落た構図です。


下村観山「白狐」(右隻)大正3年 東京国立博物館 *前期展示:1/25-2/25

観山の「白狐」も目を引きます。何でも天心の英文オペラ「白狐」を引用したという作品。思慕への意味もあるのでしょうか。右隻には口に稲穂を加えた白狐。背景は木立です。ちょうど名作「木の間の秋」を思わせるような空間。密です。木々に絡む葉や蔓。奥に行くに連れて木が薄くぼやけている。空間に広がりがあります。一方での左隻。シンプルな画面ではないでしょうか。大きな余白。そこに薄が2、3本のみ描かれている。右隻と見事なまでに対比的でした。

川端龍子の「佳人好在」は京都国立近代美術館の所蔵品です。私は初めて見たかもしれません。舞台は料亭です。畳の上には膳が置かれ、椀には海老や刺身でしょうか。ゆで卵も盛られています。奥は池のある狭い庭。庇と縁側の合間から覗き込むような構図です。そこには一羽のカワセミ。何か獲物を狙っている。それにしても透明感のある色彩。穏やかな光景です。龍子と言えばまず「鳴門」のような荒々しい大作が思い浮かびますが、まさかこうした作品も残していたとは知りませんでした。

さて展覧会、後半はテーマ別です。歴史や花に鳥、また風景や幻想など。それらの元に再興院展の画家の作品が並びます。またここは初めにも触れたように存命の方の作品も展示されています。時系列での展開ではありませんが、作品を通して院展100年の歴史が浮かんでくるかもしれません。


中村岳陵「婉膩水韻」昭和6年 静岡県立美術館 *前期展示:1/25-2/25

衝撃的な作品と出会いました。中村岳陵の「婉膩水韻(えんじすいいん)」です。大和絵から飛び出して来たような女性が全裸で泳いでいる。右上は脱ぎ捨てた衣でしょう。水面に両手を振って前へ進まんとする女性の姿。透き通るように真っ白な肌です。そして水辺を大きく描いた構図も大胆。当時、モダニズムを追求していたという画家。どのような評価を得たのでしょうか。

吉田善彦の「霧氷」。一面に凍り付いた林。無人です。ほぼグレー一色。目を凝らすと仄かな彩色も。それにしても薄暗くまた寒々しい。静まり返った雪の夜。人の行く手を阻む。厳しい冬の景色です。


小倉遊亀「径」昭和41年 東京藝術大学 *前期展示:1/25-2/25

東博、東近美、芸大美術館など、主に国公立の博物館や美術館から集められた日本画。見慣れた作品も少なくありませんでしたが、大作揃い。一定の見応えはありました。

さて会期は前後期の二会期制。作品は全て入れ替わります。

「特別展 世紀の日本画」出品リスト(PDF)
前期:1月25日(土)~2月25日(火)
後期:3月1日(土)~4月1日(火)

久々に金曜の夜間に観覧しましたが、さすがに会場内は空いていました。ただ土日の昼間は比較的混み合っているそうです。

「近代日本の画家たちー日本画・洋画美の競演/別冊太陽/平凡社」

前期展示は2月25日までです。展覧会は4月1日まで開催されています。

「日本美術院再興100年 特別展『世紀の日本画』」 東京都美術館@tobikan_jp
会期:1月25日(土)~4月1日(火)
 前期:1月25日(土)~2月25日(火)、後期:3月1日(土)~4月1日(火)
時間:9:30~17:30(毎週金曜日は20時まで開館)*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。2月26日(水)~28(金)。但し2月24日(月)、3月31日(月)は開館。
料金:一般1400(1200)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
 *毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
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