都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」 千葉市美術館
千葉市美術館
「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」
1/25-3/2
千葉市美術館で開催中の「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」を見て来ました。
江戸の文化を象徴する浮世絵。もちろん描かれているのは当時の人々の生活。浮世絵をひも解くことで、彼の時代の風俗なり流行を知ることも出来ます。
ずばり本展のテーマは浮世絵が表したものです。盛り場や花見での宴席に夕涼み、または歌舞伎役者に看板娘。さらには子どもたちの遊ぶ姿から一転して彼方に望む富士の景色まで。主に8つのセクションから江戸の人々の美意識なり文化を探っていきます。
歌川広重「名所江戸百景 両国花火」 安政5(1858)年頃 東京芸術大学 *展示期間:1/25~2/6
まずはプロローグから。名所です。冒頭の師宣の「江戸雀」は最古の地誌書。江戸の名所が34箇所記されている。鍬形恵斎の「東都繁昌図巻」はどうでしょうか。飛鳥山の花見から日本橋まで。特に面白いのは日本橋の魚河岸です。行き来する商売人。そこには魚図鑑かと思うほどたくさんの魚が描かれています。
鳥文斎栄之「三幅神吉原通い図巻」(部分) 文化期(1804-1818)年頃 千葉市美術館
吉原へ進みましょう。鳥文斎栄之の「三幅神吉原通い図巻」は、恵比寿、大黒、福禄寿の三福神が吉原へ通うという物語を描いたもの。隅田川で小舟に乗り、しばらくして河をあがって吉原大門へ。その後はガラリと場面が変わっての大宴会。全長5~6mほどでしょうか。長い絵巻です。
メインストリートの仲之町の花見を描いたのは国貞、「桜下吉原仲之町賑之図」です。艶やかな着物に身を包んだ遊女が集う。桜は毎年植え替えていたというから驚きです。まさに享楽。吉原の賑わいを感じ取ることが出来ます。
さて江戸の盛り場、何も吉原だけではありません。例えば隅田川西岸の橘町に東岸の深川、さらには南の品川へ。そしてここで面白いのが盛り場によって遊女のファッションなり様式が異なっていることです。
例えば橘町、何と踊り子たちは芸がないことで有名だったとか。また目立つために二人連れで歩くという風習も。それに足元は低い履物が基本。少しだけ三味線を習ったような若い子が多かったそうです。
鳥居清長「当世遊里美人合 多通美」 天明(1781-89)前期 個人蔵
一方の深川は大人の女性です。下駄は厚底で黒地立てのスタイリッシュな羽織。例えば清長の「当世遊里美人合 多通美」。確かに渋い。ちなみに多通美とは江戸から見て辰巳の方角、つまり深川を表しています。
なおこの盛り場毎の遊女の様相、最新の千葉市美術館ニュース(69号)の「双子コーデ」というテキストに詳しく載っています。吉原でもよく描かれる二人連れの遊女の画、花魁や禿との関係。まさかそこに一定の様式なり傾向があったとは思いませんでした。
歌川国貞「七代目市川団十郎の矢の根五郎」 文政8(1825)年 成田山霊光館
歌舞伎も江戸の人々の楽しみの一つ。役者絵です。「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」は写楽のデビューとしても知られる名作。そして七代目の団十郎を描いた絵馬もお目見え。成田山の所蔵です。さらには八代目団十郎の有名なファンであったという老婆を描いた珍品も。また興味深いのは死絵です。ようは役者の死の追善のための作品ですが、うち国芳の「八代目市川団十郎の死絵」が異彩を放つ。横たわるのは巨大な団十郎。その周囲を女性たちが泣いて囲んでいる。言わば見立役者涅槃図です。ユーモアのある表現ではないでしょうか。
役者の姿を貼った団扇も展示されていました。ちなみにこれらは日用品であることから、団扇の状態で残っているのが珍しいとのこと。好きな役者の団扇を持って楽しんだという江戸の人々。現代人の感覚とそう変わらないのかもしれません。
喜多川歌麿「鞠と扇を持つ美人」 寛政8-9(1796-97)年頃 千葉市美術館
その他には評判の町娘を描いた美人大首絵なども展観。ラストは清親で明治に残る江戸の情緒を探る。また外国人の日本旅行紀の言葉が引用されているのもポイントです。彼らの見た日本の景色。そこから振り返って江戸を見知る。展示の視座は多角的でした。
またあえて触れておきたいのがキャプションです。千葉市美、いつもながらではありますが、今回も一点一点の作品に丁寧な解説がついています。浮世絵の背後や情景。より深く絵を味わうことが出来ました。
石井林響「霊泉ノ図」 明治38(1905)年頃 千葉市美術館
さて本展に続く所蔵作品展、「画人たちの1万時間~写生、下絵、粉本類を中心に」も驚くほどに充実。またある意味でマニアックです。こちらは新収蔵品から写生帖や下絵類を公開。幕府の御用絵師である麻布一本松狩野家の描いた下絵類から、千葉ゆかりの近代日本画家の石井林響のスケッチなど。そして何と言っても興味深いのは田中抱二に関する資料が出ていたことです。
「田中抱二関係資料」 江戸時代後期~明治時代前期 個人蔵(千葉市美術館寄託)
田中抱二とは抱一最晩年の弟子で同門の四天王とも称された人物。花鳥画などに秀作を残しています。資料は入門時の10代の作から晩年までの画史や縮図。いずれも抱二を先生と呼ぶ人物が整理したものだそうです。目を引くのは虫や花を描いた画冊や抱一の「絵手鑑」を写した画帖など。ちなみに抱一の画塾の雨華庵では一と六の付く日が稽古日だったとか。画人の制作や暮らしが垣間見えます。抱一ファンには嬉しい展示でした。
最後に展示替えの情報です。一部作品において入れ替えがあります。
「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」出品リスト(PDF)
リピーター向けの割引制度もあります。その名も「ごひいき割引」。有料チケットを提示すると、会期中、2回目以降の観覧料が2割引となります。
それにしても偶然なのか江戸博では「大浮世絵」展(~3/2)が開催中。そちらは王道。浮世絵を通史で追うのに対し、ここ千葉では江戸の人々の具体的な生活を事細かに浮かび上がらせていく。確かに名品が揃うのは両国かもしれませんが、企画や構成では千葉の方が面白い。出品は200点超。絵馬、肉筆と盛りだくさんです。楽しめました。
鈴木春信「風流江戸八景 真乳山の暮雪」 明和5(1768)年頃 個人蔵
両国から小一時間ほど足を伸ばして千葉へ。あわせてご覧になっては如何でしょうか。
「浮世絵図鑑:江戸文化の万華鏡/別冊太陽/平凡社」
3月2日まで開催されています。
「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」 千葉市美術館
会期:1月25日(土)~3月2日(日)
休館:2/3、2/10。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*ごひいき割引:本展チケット(有料)半券の提示で、会期中2回目以降の観覧料2割引。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」
1/25-3/2
千葉市美術館で開催中の「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」を見て来ました。
江戸の文化を象徴する浮世絵。もちろん描かれているのは当時の人々の生活。浮世絵をひも解くことで、彼の時代の風俗なり流行を知ることも出来ます。
ずばり本展のテーマは浮世絵が表したものです。盛り場や花見での宴席に夕涼み、または歌舞伎役者に看板娘。さらには子どもたちの遊ぶ姿から一転して彼方に望む富士の景色まで。主に8つのセクションから江戸の人々の美意識なり文化を探っていきます。
歌川広重「名所江戸百景 両国花火」 安政5(1858)年頃 東京芸術大学 *展示期間:1/25~2/6
まずはプロローグから。名所です。冒頭の師宣の「江戸雀」は最古の地誌書。江戸の名所が34箇所記されている。鍬形恵斎の「東都繁昌図巻」はどうでしょうか。飛鳥山の花見から日本橋まで。特に面白いのは日本橋の魚河岸です。行き来する商売人。そこには魚図鑑かと思うほどたくさんの魚が描かれています。
鳥文斎栄之「三幅神吉原通い図巻」(部分) 文化期(1804-1818)年頃 千葉市美術館
吉原へ進みましょう。鳥文斎栄之の「三幅神吉原通い図巻」は、恵比寿、大黒、福禄寿の三福神が吉原へ通うという物語を描いたもの。隅田川で小舟に乗り、しばらくして河をあがって吉原大門へ。その後はガラリと場面が変わっての大宴会。全長5~6mほどでしょうか。長い絵巻です。
メインストリートの仲之町の花見を描いたのは国貞、「桜下吉原仲之町賑之図」です。艶やかな着物に身を包んだ遊女が集う。桜は毎年植え替えていたというから驚きです。まさに享楽。吉原の賑わいを感じ取ることが出来ます。
さて江戸の盛り場、何も吉原だけではありません。例えば隅田川西岸の橘町に東岸の深川、さらには南の品川へ。そしてここで面白いのが盛り場によって遊女のファッションなり様式が異なっていることです。
例えば橘町、何と踊り子たちは芸がないことで有名だったとか。また目立つために二人連れで歩くという風習も。それに足元は低い履物が基本。少しだけ三味線を習ったような若い子が多かったそうです。
鳥居清長「当世遊里美人合 多通美」 天明(1781-89)前期 個人蔵
一方の深川は大人の女性です。下駄は厚底で黒地立てのスタイリッシュな羽織。例えば清長の「当世遊里美人合 多通美」。確かに渋い。ちなみに多通美とは江戸から見て辰巳の方角、つまり深川を表しています。
なおこの盛り場毎の遊女の様相、最新の千葉市美術館ニュース(69号)の「双子コーデ」というテキストに詳しく載っています。吉原でもよく描かれる二人連れの遊女の画、花魁や禿との関係。まさかそこに一定の様式なり傾向があったとは思いませんでした。
歌川国貞「七代目市川団十郎の矢の根五郎」 文政8(1825)年 成田山霊光館
歌舞伎も江戸の人々の楽しみの一つ。役者絵です。「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」は写楽のデビューとしても知られる名作。そして七代目の団十郎を描いた絵馬もお目見え。成田山の所蔵です。さらには八代目団十郎の有名なファンであったという老婆を描いた珍品も。また興味深いのは死絵です。ようは役者の死の追善のための作品ですが、うち国芳の「八代目市川団十郎の死絵」が異彩を放つ。横たわるのは巨大な団十郎。その周囲を女性たちが泣いて囲んでいる。言わば見立役者涅槃図です。ユーモアのある表現ではないでしょうか。
役者の姿を貼った団扇も展示されていました。ちなみにこれらは日用品であることから、団扇の状態で残っているのが珍しいとのこと。好きな役者の団扇を持って楽しんだという江戸の人々。現代人の感覚とそう変わらないのかもしれません。
喜多川歌麿「鞠と扇を持つ美人」 寛政8-9(1796-97)年頃 千葉市美術館
その他には評判の町娘を描いた美人大首絵なども展観。ラストは清親で明治に残る江戸の情緒を探る。また外国人の日本旅行紀の言葉が引用されているのもポイントです。彼らの見た日本の景色。そこから振り返って江戸を見知る。展示の視座は多角的でした。
またあえて触れておきたいのがキャプションです。千葉市美、いつもながらではありますが、今回も一点一点の作品に丁寧な解説がついています。浮世絵の背後や情景。より深く絵を味わうことが出来ました。
石井林響「霊泉ノ図」 明治38(1905)年頃 千葉市美術館
さて本展に続く所蔵作品展、「画人たちの1万時間~写生、下絵、粉本類を中心に」も驚くほどに充実。またある意味でマニアックです。こちらは新収蔵品から写生帖や下絵類を公開。幕府の御用絵師である麻布一本松狩野家の描いた下絵類から、千葉ゆかりの近代日本画家の石井林響のスケッチなど。そして何と言っても興味深いのは田中抱二に関する資料が出ていたことです。
「田中抱二関係資料」 江戸時代後期~明治時代前期 個人蔵(千葉市美術館寄託)
田中抱二とは抱一最晩年の弟子で同門の四天王とも称された人物。花鳥画などに秀作を残しています。資料は入門時の10代の作から晩年までの画史や縮図。いずれも抱二を先生と呼ぶ人物が整理したものだそうです。目を引くのは虫や花を描いた画冊や抱一の「絵手鑑」を写した画帖など。ちなみに抱一の画塾の雨華庵では一と六の付く日が稽古日だったとか。画人の制作や暮らしが垣間見えます。抱一ファンには嬉しい展示でした。
最後に展示替えの情報です。一部作品において入れ替えがあります。
「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」出品リスト(PDF)
リピーター向けの割引制度もあります。その名も「ごひいき割引」。有料チケットを提示すると、会期中、2回目以降の観覧料が2割引となります。
それにしても偶然なのか江戸博では「大浮世絵」展(~3/2)が開催中。そちらは王道。浮世絵を通史で追うのに対し、ここ千葉では江戸の人々の具体的な生活を事細かに浮かび上がらせていく。確かに名品が揃うのは両国かもしれませんが、企画や構成では千葉の方が面白い。出品は200点超。絵馬、肉筆と盛りだくさんです。楽しめました。
鈴木春信「風流江戸八景 真乳山の暮雪」 明和5(1768)年頃 個人蔵
両国から小一時間ほど足を伸ばして千葉へ。あわせてご覧になっては如何でしょうか。
「浮世絵図鑑:江戸文化の万華鏡/別冊太陽/平凡社」
3月2日まで開催されています。
「江戸の面影 浮世絵は何を描いてきたのか」 千葉市美術館
会期:1月25日(土)~3月2日(日)
休館:2/3、2/10。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*ごひいき割引:本展チケット(有料)半券の提示で、会期中2回目以降の観覧料2割引。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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