都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「板谷波山の夢みたもの」 出光美術館
出光美術館
「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」
1/7-3/23
出光美術館で開催中の「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」を見て来ました。
明治末期から昭和にかけて活躍した陶芸家、板谷波山。時に美しき乳白色を帯びた陶芸品。独特のつや消しによる色味には温かみもある。私も漠然とながらも惹かれるものを感じていました。
しかしながら波山の辿った制作史はどうなのか。実のところ私は何も知りませんでした。これぞ決定版です。出品は陶芸、図案などをあわせて計180件。波山の魅力を探っていきます。
さて回顧展、当然ながら波山の作品を時間軸で追いかけていますが、単にそれだけではないのが大きな特徴です。ではそれは何か。言ってしまえば陶芸以外にも目を向けていること。かの時代の芸術の潮流なども踏まえ、波山の業績を多角的に見定めているのです。
その一例を。まずは「葆光彩磁鸚鵡唐草彫篏模様花瓶」。文字通り生い茂る唐草にオウム。南国風の意匠をとる花瓶ですが、それと津田青楓による漱石の「道草」の装丁デザインを比較している。確かに似たものがあります。
このように展示では漱石や泉鏡花の小説における「生命礼賛」を波山の陶芸にも見出している。白秋の引用もあります。
そして興味深いのが「葆光磁梅花文瓢形花瓶」です。青い花瓶に梅があしらわれる。また本作は明治末期のものですが、この青。大正期には日露戦争の勝色として流行したとか。その辺の関係についても触れられていました。
波山の作陶に進みます。よく知られるのは薄肉彫と呼ばれる彫の作品ですが、そうではなく塗りもある。比較的早い段階の「彩磁牡丹文花瓶」も一例。牡丹を描いています。それに先に挙げた「葆光磁梅花文瓢形花瓶」も同様です。まるで抱一画の如く軽快な筆さばきが印象に残ります。
さらに色の世界です。まずは独自の葆光釉。分かりやすいのは「葆光彩磁葡萄文香爐」と「彩磁葡萄文香爐」の比較です。両者とも紋様は葡萄ですが、前者は釉薬により仄かな白い光を発している。後者は彩磁です。当然ながら色味は強い。まるで表情は異なります。
また当然ながら波山の色は単に葆光彩によるものだけではありません。黒、茶、紅。また一口に白とは言えども、白磁、氷華磁、蛋殻磁、凝霜磁、葆光磁の5種類もある。カラリストと言う言葉は相応しくないかもしれません。しかしながら波山の色への探求。その関心は驚くほど多岐にわたっています。
ちなみに白ではやはり葆光磁に惹かれますが、氷華磁も趣き深い。例えば「氷華磁葡萄彫文花瓶」です。白磁の上に青みを帯びた釉薬をかける。すると透明感が出るとともに、線刻の部分に青い影が生まれ、紋様が際立ってくる。また青磁はどうでしょうか。「青磁二重鎬瓢花瓶」と「青磁瓢花瓶光」の取り合わせ。模様のない素文と蓮弁を彫刻で表した作品。大小2種の花瓶。それぞれに別の趣きがあります。
さて展示は主に前半が色別での展開、後半はモチーフ別です。鉱物、天体、植物、動物。波山は何を見つめていたのか。中でも一推しは「朝陽磁鶴首花瓶」。波山の天文学への関心。そして天目にも小宇宙が広がる。「曜変天目茶碗 銘天の川」です。ちなみに天目の銘は茶碗を手にした人物が名付けていたとか。星空を器に見やる。イメージは深淵でした。
あまり見慣れない図案や写生集も出ていました。植物を丹念にスケッチする波山。作陶に活かしたのでしょうか。時に文字で指示書きのようなものも記されていました。
それにしてもこの充実極まりない展覧会。そもそも出光美術館の波山コレクションは国内最大。波山の残した全1000件のうち280件余を有します。何でも創設者の出光佐三が惚れ込んで収集したそうです。
そうした両者の関係の一端を示すのが「天目茶碗 銘命乞い」かもしれません。この茶碗を制作後、僅かな傷を見出して打ち捨てようとした波山。対して佐三はまさに命乞いをした。結果、譲り受けた作品だそうです。
名品揃いに巧みな構成。初心者の私にはもちろん、波山に馴染み深い方にも発見の多い展示ではないでしょうか。感銘しました。
「炎芸術 115ー特集:板谷波山/阿部出版」
3月23日までの開催です。これはおすすめします。
「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」 出光美術館
会期:1月7日(火)~3月23日(日)
休館:月曜日。但し月曜が祝日の場合は開館。
時間:10:00~17:00 毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」
1/7-3/23
出光美術館で開催中の「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」を見て来ました。
明治末期から昭和にかけて活躍した陶芸家、板谷波山。時に美しき乳白色を帯びた陶芸品。独特のつや消しによる色味には温かみもある。私も漠然とながらも惹かれるものを感じていました。
しかしながら波山の辿った制作史はどうなのか。実のところ私は何も知りませんでした。これぞ決定版です。出品は陶芸、図案などをあわせて計180件。波山の魅力を探っていきます。
さて回顧展、当然ながら波山の作品を時間軸で追いかけていますが、単にそれだけではないのが大きな特徴です。ではそれは何か。言ってしまえば陶芸以外にも目を向けていること。かの時代の芸術の潮流なども踏まえ、波山の業績を多角的に見定めているのです。
その一例を。まずは「葆光彩磁鸚鵡唐草彫篏模様花瓶」。文字通り生い茂る唐草にオウム。南国風の意匠をとる花瓶ですが、それと津田青楓による漱石の「道草」の装丁デザインを比較している。確かに似たものがあります。
このように展示では漱石や泉鏡花の小説における「生命礼賛」を波山の陶芸にも見出している。白秋の引用もあります。
そして興味深いのが「葆光磁梅花文瓢形花瓶」です。青い花瓶に梅があしらわれる。また本作は明治末期のものですが、この青。大正期には日露戦争の勝色として流行したとか。その辺の関係についても触れられていました。
波山の作陶に進みます。よく知られるのは薄肉彫と呼ばれる彫の作品ですが、そうではなく塗りもある。比較的早い段階の「彩磁牡丹文花瓶」も一例。牡丹を描いています。それに先に挙げた「葆光磁梅花文瓢形花瓶」も同様です。まるで抱一画の如く軽快な筆さばきが印象に残ります。
さらに色の世界です。まずは独自の葆光釉。分かりやすいのは「葆光彩磁葡萄文香爐」と「彩磁葡萄文香爐」の比較です。両者とも紋様は葡萄ですが、前者は釉薬により仄かな白い光を発している。後者は彩磁です。当然ながら色味は強い。まるで表情は異なります。
また当然ながら波山の色は単に葆光彩によるものだけではありません。黒、茶、紅。また一口に白とは言えども、白磁、氷華磁、蛋殻磁、凝霜磁、葆光磁の5種類もある。カラリストと言う言葉は相応しくないかもしれません。しかしながら波山の色への探求。その関心は驚くほど多岐にわたっています。
ちなみに白ではやはり葆光磁に惹かれますが、氷華磁も趣き深い。例えば「氷華磁葡萄彫文花瓶」です。白磁の上に青みを帯びた釉薬をかける。すると透明感が出るとともに、線刻の部分に青い影が生まれ、紋様が際立ってくる。また青磁はどうでしょうか。「青磁二重鎬瓢花瓶」と「青磁瓢花瓶光」の取り合わせ。模様のない素文と蓮弁を彫刻で表した作品。大小2種の花瓶。それぞれに別の趣きがあります。
さて展示は主に前半が色別での展開、後半はモチーフ別です。鉱物、天体、植物、動物。波山は何を見つめていたのか。中でも一推しは「朝陽磁鶴首花瓶」。波山の天文学への関心。そして天目にも小宇宙が広がる。「曜変天目茶碗 銘天の川」です。ちなみに天目の銘は茶碗を手にした人物が名付けていたとか。星空を器に見やる。イメージは深淵でした。
あまり見慣れない図案や写生集も出ていました。植物を丹念にスケッチする波山。作陶に活かしたのでしょうか。時に文字で指示書きのようなものも記されていました。
それにしてもこの充実極まりない展覧会。そもそも出光美術館の波山コレクションは国内最大。波山の残した全1000件のうち280件余を有します。何でも創設者の出光佐三が惚れ込んで収集したそうです。
そうした両者の関係の一端を示すのが「天目茶碗 銘命乞い」かもしれません。この茶碗を制作後、僅かな傷を見出して打ち捨てようとした波山。対して佐三はまさに命乞いをした。結果、譲り受けた作品だそうです。
名品揃いに巧みな構成。初心者の私にはもちろん、波山に馴染み深い方にも発見の多い展示ではないでしょうか。感銘しました。
「炎芸術 115ー特集:板谷波山/阿部出版」
3月23日までの開催です。これはおすすめします。
「没後50年・大回顧 板谷波山の夢みたものー〈至福〉の近代日本陶芸」 出光美術館
会期:1月7日(火)~3月23日(日)
休館:月曜日。但し月曜が祝日の場合は開館。
時間:10:00~17:00 毎週金曜日は19時まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、高・大生700(500)円、中学生以下無料(但し保護者の同伴が必要。)
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
交通:東京メトロ有楽町線有楽町駅、都営三田線日比谷駅B3出口より徒歩3分。東京メトロ日比谷線・千代田線日比谷駅から地下連絡通路を経由しB3出口より徒歩3分。JR線有楽町駅国際フォーラム口より徒歩5分。
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