「秋の青森のアートと史跡・街歩き」 Vol.1:青森県立美術館

2006年に三内丸山遺跡の隣に開館した青森県立美術館は、シャガールの「アレコホール」や多彩なコレクション、はたまた奈良美智の「あおもり犬」などで県内外より広く注目を集めてきました。



東京駅から8時過ぎの「はやぶさ」に乗車し、いくつもの街と森とトンネルを猛スピードで駆け抜け、青森市の玄関口である新青森駅と到着したのは11時20分頃でした。



そして同駅から周遊バスねぶたん号に乗ってしばらくすると、広々とした公園の中に白い建物、つまりは青森県立美術館が姿を見せました。



青森県立美術館を手掛けたのは建築家の青木淳で、設計に際しては三内丸山遺跡の発掘現場に着想を得たとしています。私も雪景色に覆われる建物を写真で目にしたことはありましたが、白い外観は青空にも良く映えていました。



シンボルマークやロゴタイプなどのヴィジュアル・アイデンティティは、グラフィックデザイナーの菊地敦己が担っていて、建物の壁面にもシンボルマークのネオンサインがまるで森を象るように設置されていました。夜になると青い光を放つそうです。



建物内部に入るとまずインフォメーションがあり、図書館やシアターと続いていて、その奥の向かって左側にカフェとショップが連なっていました。通路空間からして広々としていて、想像していた以上よりも大きな建物でした。



インフォメーション横のエレベーターで1階より地下2階へ降り、チケットブースを過ぎると、まず広がるのが縦横21メートル、高さ19メートルに及ぶ吹き抜けの大空間「アレコホール」でした。


マルク・シャガール バレエ「アレコ」の背景画 展示風景

ここではマルク・シャガールのバレエ「アレコ」のために描いた全4点の背景画が露出で展示されていて、いずれの作品も自由に撮影することができました。それぞれが横幅14メートル超、縦幅9メートルほどに及んでいて、まさにこの空間でなくては展示自体も叶わないような超大作でした。


右:マルク・シャガール バレエ「アレコ」の背景画 第1幕「月光のアレコとゼンフィラ」 1942年
左:マルク・シャガール バレエ「アレコ」の背景画 第2幕「カーニヴァル」 1942年

全4点のうち最も目を引くのが、満月の照る夜空の中、寄り添って男女の浮かぶ第1幕の「月光のアレコとゼンフィラ」でした。そして画面の下には満月の光を写す湖とバレエの舞台でもあるロマのテントも描かれていて、青く渦巻く大気とともに幻想的な光景を築き上げていました。


マルク・シャガール バレエ「アレコ」の背景画 第3幕「ある夏の午後の麦畑」 1942年

第3幕の「ある夏の午後の麦畑」はアメリカのフィラデルフィア美術館のコレクションで、長らく同館にて公開されてきましたが、改修工事のために青森県立美術館への長期借用が決まり、現在のように4点揃って展示されました。なお4点がまとまって公開されたのは、2006年の開館記念展「シャガール『アレコ』とアメリカ亡命時代」展以来のことだそうです。(2021年3月頃までを目処に公開予定。)



シャガールの「アレコ」に魅せられながら展示室を先に進むと、同じく通年展示として奈良美智の絵画、彫刻、インスタレーションなどが約30点ほど並んでいました。また展示室の窓からは同館のシンボルと化した「あおもり犬」も望むことができました。


棟方志功「二菩薩釈迦十大弟子」 1939年/1948年改刻 個人蔵(青森県立美術館寄託)

通年展示に続いて開催されていたのが、「ふるえる絵肌」と題した絵肌に着目したコレクション展でした。いずれも青森県出身の棟方志功や伊藤二子、馬場のぼる、橋本花、佐野ぬいなどの作品がそれぞれ個展の形式で紹介されていて、とりわけ馬場のぼるの動物をモチーフにした作品や、青や赤などの色面が心象風景を描くような佐野ぬいの絵画などに心を惹かれました。


ウルトラマンや怪獣のデザインで知られる成田亨の展示も充実していて、酒呑童子や阿修羅などを象った巨大なFRPの彫刻にも圧倒されました。地元の青森の作家を丹念に紹介した内容で、作品の量も不足なく、大変に充実したコレクション展でした。



一通り館内の作品を見終えた後は、奈良美智の屋外の作品、「あおもり犬」と「Miss Forest / 森の子」を見学することにしました。



まず一度地下の入口を出て、コンクリートに囲まれた「あおもり犬連絡通路」の階段を上り、再び降りて、展示室の裏手に当たる美術館の西側へ進むと、「あおもり犬」が目に飛び込んできました。


奈良美智「あおもり犬」 2005年

高さ8.5メートル、横幅6.7メートルほどある「あおもり犬」は、写真で見るよりも大きく、下から潜り込むようにして見上げると、かなりの迫力がありました。



やや首を垂れつつ、目を伏した「あおもり犬」は静かに笑っているように見えつつ、哀愁を漂わせているようで、思いの他に複雑な表情をしていました。解説に「大仏」とありましたが、それこそ見る角度や立ち位置によって変化して見えるのかもしれません。



雪のかぶった姿も有名ながら、この日の晴天を背にした「あおもり犬」も魅力的ではないでしょうか。来場者も続々やって来ては、思い思いに記念写真を撮っていました。



もう1点の「Miss Forest / 森の子」は、美術館の南側にある「八角堂」と呼ばれる煉瓦造りの建物の中に展示されていて、「あおもり犬」と同様に屋根のないスペースにて、日差しを浴びながら鎮座していました。


奈良美智「Miss Forest / 森の子」 2016年

石畳と苔の合間から頭を突き出す姿は、目を閉じては瞑想しているようで、あたかも古くから堂内に住んでいた精霊のようにも見えました。



その八角堂と公園に面しているのがカフェ「4匹の猫」とミュージアムショップで、カフェでは青森の食材を用いたカレーやピラフ、ベーグルなどが提供されていました。



私は昼食を既に済ませていたので、デザートセットから「タルト・オ・ポム ドリンクセット」(青森県産りんごのタルト)を注文しました。70席以上あるカフェ「4匹の猫」は空間にも余裕があり、タルトをいただきながらゆっくりとした時間を過ごすことができました。



「あおもり犬」は設備改修工事のため、10月5日から来年4月頃まで連絡通路が閉鎖されます。(展示室内からガラス越しで観覧は可。)



公園から吹き抜ける心地良い風を感じながら、美術館の建物を眺めた後は、次の目的地である隣の三内丸山遺跡へと歩いて向かいました。



Vol.2:三内丸山遺跡・青森港へと続きます。

「シャガール「アレコ」全4作品完全展示」 青森県立美術館@aomorikenbi
会期:2017年4月25日~2021年3月頃(予定)
休館:毎月第2、第4月曜日 (祝日の場合は、翌日休館)。年末年始(12月28日~1月1日)。この他、展示替え休館、館内改修工事のための臨時休館日あり。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人510(410)円、大・高校生300(240)円、中学生・小学生100(80)円。
 *常設展観覧料。
 *企画展は別料金。
住所:青森市安田字近野185
交通:JR新青森駅東口よりルートバスねぶたん号「県立美術館前」下車。青森駅前6番バス停より三内丸山遺跡行きより「県立美術館前」下車。駐車場あり。
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