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「収蔵品展020 抽象の世界」 東京オペラシティアートギャラリー 3/21

東京オペラシティアートギャラリー(新宿区西新宿3-20-2)
「収蔵品展020 抽象の世界-色・かたち・空間」
1/14-3/26

昨日はメインの企画展についてあまり好意的でない感想を書いてしまいましたが、常設展示にあたる収蔵品展は、どれも飛びきり上質な作品ばかりで見応え満点でした。さらっと見終えた企画展の数倍はじっくりと見ていたでしょうか。このギャラリーの所蔵する抽象画ばかりが約80点ほど並んだ展覧会です。ボリュームも満点です。



入ってすぐの展示室に並んでいた大きな油彩の抽象画にはあまり惹かれなかったのですが、その先の細い廊下に展示されていた平野充の小さな油彩画はどれも絶品でした。ペン画を思わせるような精緻なタッチに、水彩のように柔らかく浮かび上がる黒い色彩。暗がりの画面には、光のカーテンのような白い帯がひらひらと舞っています。まるで、つい一ヶ月ほど前に見たオラファー・エリアソンの「影の光」が、紙の上にて小さくまとまって実現したような味わいです。特に作品番号27の「無題」(1985)は、その光にクレーを思わせる美しい赤い色彩が加わります。また作品番号28番の「無題」(1999)も、まるでしとしとと雨が降っているように上から下へと線が垂れていて、それがどこか涙のイメージとも重なり合います。刹那的です。初めて見知った方でしたが、もっとまとめて拝見したいとも思いました。

昨年の大回顧展が記憶に新しい難波田龍起は4点展示されています。油彩にエナメルで描かれた「青い夜」(1966)。青く広がった奥深い空間に交錯する無数の白い線。その一本一本の線は、まるで体内を駆け巡る神経のようで、感情の交差が激しく起っている有様にも見えてきます。とても心を揺さぶられる作品です。また、数年前の東京国立近代美術館での回顧展で感銘した野見山暁治も2点出ていました。この中では「夏の終わり」(1985)が印象深い作品でしょうか。くすんだ草色や水色が、揺らぎながらせめぎ合い、そして広がっていく。決して大きな作品ではありませんが、キャンバスを超えていくような無限の広がりを感じる作品です。その他、赤い油彩が激しく飛び散っている堂本尚郎の「絵画」(1961)や、黄ばんだ紙にインクが染み渡って、まるで画面にぽっかりと穴が開いてしまっているようにも見えた榎倉康二の「干渉(飛散)No.3」(1998)なども、それぞれかつて開催された回顧展(『堂本尚郎展 世田谷美術館』/『榎倉康二展/東京都現代美術館』)の記憶を呼び起こさせながら、改めてその魅力に触れることの出来る作品でした。

一見書のようにも見える艾沢詳子のコラグラフ作品(5点)も、なかなか味わい深い作品です。和紙に真っ黒な墨が滲んでいるようにも見える大きな染み。それが白い紙と相互に影響し合って一個の画面を作り上げる。その得体の知れない黒い物体は、時に夜空から見下ろした街の明かりや、または龍が力強く昇っているような光景にも見えてきます。美感にも優れた作品でした。



最後は、拙ブログでもお馴染みの(?)李禹煥が2点待ち構えていました。作品は有名な「線より」(1976)と、もっと最近のシリーズ作品である「風と共に」(1989)です。そしてここでは「風と共に」の方を挙げてみましょう。横浜美術館の回顧展でも出ていなかったような激しいタッチの画面。点が風に煽られて飛び交い、竜巻に巻き込まれたかのようにグルグルと回転している。点の乱舞が、大風に煽られて行き場を失った鳥たちの錯乱にも見えます。これほどに荒々しい「風と共に」は初めて見ました。ここに静謐さはありません。

その他青木野枝の「水冠」シリーズや、大竹伸朗の「夢」、または郭仁植の彩墨画などに惹かれました。アートギャラリーの収蔵品展はいつも大変に充実していますが、今回はその中でも最上と言って良いほどの内容かと思いました。これは素晴らしい。是非おすすめします。
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