都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
芸術新潮4月号 「藤田嗣治の真実」
拙ブログで「芸術新潮」を取り上げるのは二度目のことですが、今月号は表紙絵を見てすぐ購入しました。メイン特集は「藤田嗣治の真実」。いよいよ今日から始まった東京国立近代美術館の「藤田嗣治展」に合わせた企画です。
藤田の特集は全80ページほどです。図版掲載が何かと難しいとも聞く藤田の作品ですが、今回だけはいつもの芸術新潮の通り、カラー図版や写真がふんだんに使われています。(藤田の図版がこれだけ掲載された雑誌も珍しい?)構成は7章立て。藤田の生涯を簡単に追いながら、その画業に迫まっていく内容でした。
どの記事もなかなか簡潔に良くまとめられているのですが、特に彼の作品のキーワードでもある「乳白色の肌」(1章「白い裸身」、7章「超絶技巧の秘密」)や「猫」(3章「猫たちの劇場」)については、かなり分かり易く解説されています。また、彼が最晩年に建てた通称シャペル・フジタ(正式名称ノートル=ダム・ド・ラ・ぺ礼拝堂)は、実に鮮やかな写真入りにて紹介されていました。これで現地へ行かないと見ることの出来ないフレスコ画も確認出来ます。(6章「聖母礼讃」)彼の宗教画に興味のある私にとっては大変に嬉しいところでした。
雑誌では、一般的な藤田のイメージ(それこそ乳白色の裸女などですが。)とは異なった作品もいくつか紹介されています。その中では彼がシュルレアリスムに取り組んだものや、南米旅行で手がけた風俗画などが印象深い作品でした。(2章「万国風俗図鑑」)また、今回の回顧展ではさすがに展示されませんが、驚異的なスピードで描かれたという彼の最大の作品「秋田の行事」も、写真入りで簡単に触れられています。(4章「群像表現との闘い」)一面的ではない、藤田の全てを捉えようとする姿勢。藤田と日本美術界の関係のような、諸説も分かれる問題点についての突っ込んだ議論はさすがにありませんが、そこまで求めるのは高望みかもしれません。ともかく分かり易くまとまっています。
藤田は、作品よりもその生涯に何かと「曰く」が語られる作家でありますが、私が彼の作品に出会った(つまり意識して見始めた。)のは、そんな「曰く」を少しも知らない今から2、3年前のことでした。初めはブリヂストンの常設展や、その他の名画展で見た乳白色に美しさを感じていたのですが、ある時東京国立近代美術館の常設に展示されていた一枚の戦争画を見てから、その作品の凄みはもとより、決して「乳白色の画家」だけではない、多様な表現を手がけたその幅広い才能に驚かされます。ただし作品は当然ながら断片的にしか見たことがありません。ですから今回の回顧展が非常に待ち遠しかったわけです。
藤田を取り巻く様々な言説については、今年1月に講談社文庫から改版された「藤田嗣治 異邦人の生涯」(近藤史人 講談社)を参照するのが一般的でしょう。「日本と喧嘩別れをしてフランスへ渡った藤田。」というような安易な藤田像を改め、丹念にその生涯をひも解きながら、彼と関わりのあった人物との交流を通して、近寄り難い奇異な芸術家でもまた異端者でもない、まさに等身大の人間味ある藤田の姿を詳らかにする試み。文庫版になり手軽にもなりました。この回顧展を機会に手に取ってみても良いかもしれません。私が一読したところでは、特に戦争画へ向かった藤田へ対する著者の解釈が新鮮でした。この行に著者の藤田への強い愛情がこめられています。良書です。
*藤田関連ではもう一点、ごく最近に「藤田嗣治 パリからの恋文」(湯原かの子著 新潮社)という本も発売されたようですが、こちらはまだ未読です。出来れば近いうちに読んでみたいと思います。
4月号を読んで藤田展への期待がさらに高まってきました。混雑しないうちに早めに行きたいものです。
![]() | 芸術新潮 04月号 [雑誌] 新潮社 このアイテムの詳細を見る |
藤田の特集は全80ページほどです。図版掲載が何かと難しいとも聞く藤田の作品ですが、今回だけはいつもの芸術新潮の通り、カラー図版や写真がふんだんに使われています。(藤田の図版がこれだけ掲載された雑誌も珍しい?)構成は7章立て。藤田の生涯を簡単に追いながら、その画業に迫まっていく内容でした。
どの記事もなかなか簡潔に良くまとめられているのですが、特に彼の作品のキーワードでもある「乳白色の肌」(1章「白い裸身」、7章「超絶技巧の秘密」)や「猫」(3章「猫たちの劇場」)については、かなり分かり易く解説されています。また、彼が最晩年に建てた通称シャペル・フジタ(正式名称ノートル=ダム・ド・ラ・ぺ礼拝堂)は、実に鮮やかな写真入りにて紹介されていました。これで現地へ行かないと見ることの出来ないフレスコ画も確認出来ます。(6章「聖母礼讃」)彼の宗教画に興味のある私にとっては大変に嬉しいところでした。
雑誌では、一般的な藤田のイメージ(それこそ乳白色の裸女などですが。)とは異なった作品もいくつか紹介されています。その中では彼がシュルレアリスムに取り組んだものや、南米旅行で手がけた風俗画などが印象深い作品でした。(2章「万国風俗図鑑」)また、今回の回顧展ではさすがに展示されませんが、驚異的なスピードで描かれたという彼の最大の作品「秋田の行事」も、写真入りで簡単に触れられています。(4章「群像表現との闘い」)一面的ではない、藤田の全てを捉えようとする姿勢。藤田と日本美術界の関係のような、諸説も分かれる問題点についての突っ込んだ議論はさすがにありませんが、そこまで求めるのは高望みかもしれません。ともかく分かり易くまとまっています。
藤田は、作品よりもその生涯に何かと「曰く」が語られる作家でありますが、私が彼の作品に出会った(つまり意識して見始めた。)のは、そんな「曰く」を少しも知らない今から2、3年前のことでした。初めはブリヂストンの常設展や、その他の名画展で見た乳白色に美しさを感じていたのですが、ある時東京国立近代美術館の常設に展示されていた一枚の戦争画を見てから、その作品の凄みはもとより、決して「乳白色の画家」だけではない、多様な表現を手がけたその幅広い才能に驚かされます。ただし作品は当然ながら断片的にしか見たことがありません。ですから今回の回顧展が非常に待ち遠しかったわけです。
![]() | 藤田嗣治「異邦人」の生涯 講談社 このアイテムの詳細を見る |
藤田を取り巻く様々な言説については、今年1月に講談社文庫から改版された「藤田嗣治 異邦人の生涯」(近藤史人 講談社)を参照するのが一般的でしょう。「日本と喧嘩別れをしてフランスへ渡った藤田。」というような安易な藤田像を改め、丹念にその生涯をひも解きながら、彼と関わりのあった人物との交流を通して、近寄り難い奇異な芸術家でもまた異端者でもない、まさに等身大の人間味ある藤田の姿を詳らかにする試み。文庫版になり手軽にもなりました。この回顧展を機会に手に取ってみても良いかもしれません。私が一読したところでは、特に戦争画へ向かった藤田へ対する著者の解釈が新鮮でした。この行に著者の藤田への強い愛情がこめられています。良書です。
*藤田関連ではもう一点、ごく最近に「藤田嗣治 パリからの恋文」(湯原かの子著 新潮社)という本も発売されたようですが、こちらはまだ未読です。出来れば近いうちに読んでみたいと思います。
4月号を読んで藤田展への期待がさらに高まってきました。混雑しないうちに早めに行きたいものです。
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