春の訪れに浮かれて、独り里山を散ポタしていた時のこと。僕と彼女は出会った。
うららかな陽の下、静かに佇むひとがいた。
女性のようだ。菜園の手入れをしているのだろうか?
化粧気のない、その清楚な横顔に何故か惹かれて脚を止めた。
微動だにせず何かを一心に見つめているようだ。彼女の瞳には何が映っているのだろうか?
ふとそんな興味が湧いたが、声を掛けたら、この雰囲気が壊れてしまいそうだった。
驚かさないように、そっと彼女の傍らに立ち、彼女の視線を辿った。 ああ、そういうことなのだね?
春の陽気に浮かれているかのような虫の羽音が、うるさく聴こえるほどの静寂が僕等を包んだ。
忙しげに蜜を集める蜂達を驚かさないようにしているのだね?
そして、野に咲く小さき草花の彩に、待ちわびた春の訪れを感じているのだね?
出来るだけ静かな声で彼女に問いかけてみたが、彼女は答えてはくれなかった。
でも、それも仕方ないことだ。だってよく見たら彼女はマネキンだったから^^