December 12, 2014
新聞で、11月27日に、イギリスの推理作家、P・D・ジェイムズさんが94歳で亡くなったことを知った。私の40代、50代に夢中になって読んだ作家だ。老齢のため最近作はないと思っていたが、たまたま図書館の返却用の棚に、この作家の作品が3冊並んでいた。きっと新聞の訃報をみて借りた方がいたのだろう。1冊まだ読んでいないと思う作品があったので借りた。P・D・ジェイムズ『秘密』(ハヤカワ・ミステリ)。ジェイムズのほとんどの作品に登場するダルグリッシュ警視、この作品では警視長になっていた。詩人でもある。ずっと独身だったが、この作品の最後は彼の結婚式で終わっている。そろそろこのシリーズが終わるのではないかと予感させられる。作者が、筆を終える日が近いと考えられたのかもしれない。しかし2008年に刊行された本書には、筆の衰えは全く感じさせない。ポケ・ミスで436ページ、緻密な構成が、読者をを最後まで引っ張ってくれる。
本書は18冊目の長編だそうだ。ジェイムズやそのほかのハヤカワ・ミステリを夢中で読んだ頃が懐かしい。私の独りの生活を支えてくれたと言っても過言ではないだろう。ここ十数年、点訳で外とのつながりが増えた。そのせいかどうかわからないが、今まで読んだことのなかった日本の作家の本を読みはじめ、ミステリから遠のいた感がある。しかし久しぶりにジェイムズの本を読むと、ミステリの面白さに改めて思い至る。ミステリを読むことを教えてくださった友人のブログを覗くと、相変わらず推理作品を読まれている。今後の私の独りの生活に、またミステリが登場するような予感がする。取りあえず1911年に刊行されたジェイムズの『高慢と偏見』を図書館に予約した。
私の日常生活は質素なものだが、たとえばジェイムズの作品を読んでいると、イギリスの生活様式が、あたかも自分が暮らしているような形で頭の中に入ってくる。レストランでの食事、ロンドンやイギリス郊外の風景、ドライブ・・・、これぞ現実逃避というものだろう。本の内容に少し触れると、主人公の女性が、高名な形成外科医が所有する荘園に滞在して、顔の傷跡を消す手術を受けることになった。手術の翌朝、この女性が扼殺死体となって発見される。ダルグリッシュ警視長がロンドンから派遣され、事件のあった荘園の関係者への尋問が始まる。そんなときでも、食事は必要だ。荘園の女性支配人が、ここで働くコック夫婦に、食事の指図をする文章を、少し引用しよう。これは謎解きとは全く関係ないが、こういった描写が、ジェイムズのミステリの醍醐味であるので。この中に出てきている「レモン・カード」は、今、私がマーマレ―ドの代わりに作っているものなのも、うれしい。
「豆のスープはいい考えね、温かくて栄養たっぷりで、気持ちが和むわ。ストックがあるから、簡単に作れるでしょう。食事は簡単なものにしましょうよ。教会区の収穫祭かと思われたら困るでしょ。温かいソーダパンにバターをたっぷりと添えてね。冷製のお肉にはチーズの盛り合わせを組み合わせたらいいんじゃないの?タンパク質は取らなくちゃいけないから。でも控え目にね。いつものように食欲をそそるように出してちょうだい。だれもお腹がすいていないでしょうけど、食事はしなくてはいけない。それからキンバリー(コック)が作ったおいしいレモン・カードとアプリコット・ジャムを出すといいんじゃないかしら。ショックを受けると、甘いものが欲しくなるものだから。コーヒーはいつもたっぷり出せるように用意してね」(P・D・ジェイムズ、青木久恵訳『秘密』早川書房)
画像は、「野菊」。図書館の庭にたくさん咲いていた。
新聞で、11月27日に、イギリスの推理作家、P・D・ジェイムズさんが94歳で亡くなったことを知った。私の40代、50代に夢中になって読んだ作家だ。老齢のため最近作はないと思っていたが、たまたま図書館の返却用の棚に、この作家の作品が3冊並んでいた。きっと新聞の訃報をみて借りた方がいたのだろう。1冊まだ読んでいないと思う作品があったので借りた。P・D・ジェイムズ『秘密』(ハヤカワ・ミステリ)。ジェイムズのほとんどの作品に登場するダルグリッシュ警視、この作品では警視長になっていた。詩人でもある。ずっと独身だったが、この作品の最後は彼の結婚式で終わっている。そろそろこのシリーズが終わるのではないかと予感させられる。作者が、筆を終える日が近いと考えられたのかもしれない。しかし2008年に刊行された本書には、筆の衰えは全く感じさせない。ポケ・ミスで436ページ、緻密な構成が、読者をを最後まで引っ張ってくれる。
本書は18冊目の長編だそうだ。ジェイムズやそのほかのハヤカワ・ミステリを夢中で読んだ頃が懐かしい。私の独りの生活を支えてくれたと言っても過言ではないだろう。ここ十数年、点訳で外とのつながりが増えた。そのせいかどうかわからないが、今まで読んだことのなかった日本の作家の本を読みはじめ、ミステリから遠のいた感がある。しかし久しぶりにジェイムズの本を読むと、ミステリの面白さに改めて思い至る。ミステリを読むことを教えてくださった友人のブログを覗くと、相変わらず推理作品を読まれている。今後の私の独りの生活に、またミステリが登場するような予感がする。取りあえず1911年に刊行されたジェイムズの『高慢と偏見』を図書館に予約した。
私の日常生活は質素なものだが、たとえばジェイムズの作品を読んでいると、イギリスの生活様式が、あたかも自分が暮らしているような形で頭の中に入ってくる。レストランでの食事、ロンドンやイギリス郊外の風景、ドライブ・・・、これぞ現実逃避というものだろう。本の内容に少し触れると、主人公の女性が、高名な形成外科医が所有する荘園に滞在して、顔の傷跡を消す手術を受けることになった。手術の翌朝、この女性が扼殺死体となって発見される。ダルグリッシュ警視長がロンドンから派遣され、事件のあった荘園の関係者への尋問が始まる。そんなときでも、食事は必要だ。荘園の女性支配人が、ここで働くコック夫婦に、食事の指図をする文章を、少し引用しよう。これは謎解きとは全く関係ないが、こういった描写が、ジェイムズのミステリの醍醐味であるので。この中に出てきている「レモン・カード」は、今、私がマーマレ―ドの代わりに作っているものなのも、うれしい。
「豆のスープはいい考えね、温かくて栄養たっぷりで、気持ちが和むわ。ストックがあるから、簡単に作れるでしょう。食事は簡単なものにしましょうよ。教会区の収穫祭かと思われたら困るでしょ。温かいソーダパンにバターをたっぷりと添えてね。冷製のお肉にはチーズの盛り合わせを組み合わせたらいいんじゃないの?タンパク質は取らなくちゃいけないから。でも控え目にね。いつものように食欲をそそるように出してちょうだい。だれもお腹がすいていないでしょうけど、食事はしなくてはいけない。それからキンバリー(コック)が作ったおいしいレモン・カードとアプリコット・ジャムを出すといいんじゃないかしら。ショックを受けると、甘いものが欲しくなるものだから。コーヒーはいつもたっぷり出せるように用意してね」(P・D・ジェイムズ、青木久恵訳『秘密』早川書房)
画像は、「野菊」。図書館の庭にたくさん咲いていた。