私の日常

毎日の生活で印象に残った出来事を記録しておきたい。

本を読む

2018-03-13 11:23:43 | 日記

March 13, 2018

図書館から、予約してあった本、ジェイムズ・ロード『ジャコメッティの肖像』(みすず書房)が届いたというメールが入り、借りてきて読んだ。先日このブログで触れた映画「ジャコメッティ 最後の肖像」の原作となった本だ。映像もよかったが、なぜか活字で読んでみたかった。ジャコメッティは、20世紀を代表する彫刻家であり、同時に優れた画家であり、素描家であり、版画家でもあった。本書は、1964年9月12日からの18日間に、パリのアトリエで、ジャコメッティが著者ロードをモデルとして油彩画を制作した際の記録である。みすず書房の高価な本で、私には、図書館で借りてこそ読める本だ。この肖像画の作成過程の絵を写真に撮ったもの、ジャコメッティ本人やアトリエ、またモデルとなった著者の写真も含まれていて、手元に置きたいと思うような本だった。なお、著者のロードは、アメリカ生まれの美術評論家、エッセイストである。第二次世界大戦中、アメリカ兵としてパリに滞在し、退役後もフランスにとどまり、パリの芸術家、思想家と広く交友を持った。

活字で描かれる多くの天才と同様、複雑な芸術家の心と向き合って、根気よくモデルをつとめながら、ジャコメッティと彼を取り巻く人々や事象を鋭く観察し書き留めた作品に、こうして出会えたことがうれしい。若いころは、よく美術館に足を運び、海外の名作にじかに触れて感動したものだったが、入館料が高価だといったこともあり、最近はずいぶんそういったことからも遠のいてしまっていた。久しぶりに訪れた国立新美術館での「ジャコメッティ展」が、こんなにも楽しい思いを与えてくれた。そんなわけで、今、国立新美術館で開かれている「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」を妹を誘って出かけることにした。次に、著者とジャコメティの終わりなき対話の一部を引用させてもらう。

 彼はうめいた。彼はため息をついた。私はすっかり慣れてしまってていたが、彼は自分を非難する言葉と激怒の言葉のかぎりを口にした。ようやく彼はこう言った。「きみは怒ってるか?」
 「いいえ」と私は言った。「もちろん怒ってなんかいません。なんで私が怒るんですか?」
 「すべてを壊しているからだ。」
 「ばかなことを言わないでください。」
 「だが、それはほんとうのことなんだ。」
 「それはあなたの意見にすぎません」と私は言った。「一般に芸術家は自分の作品を判断できないと思われているんですよ。いずれにせよ、あなたはおそらくこれを私と同じ見方で見ることはできないのです。それが私にとって美しいものであるのに、同じときに、あなたにとっては台無しになったものであるかもしれないのです。」
 「いまにわかるだろう」と彼は言った。(ジェイムズ・ロード、関根浩訳『ジャコメッティの肖像』みすず書房)

画像は、妹のメールから、「クリスマスローズ」。