goo blog サービス終了のお知らせ 

功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『ドラゴン武芸帳』

2014-12-28 22:24:51 | 王羽(ジミー・ウォング)
「ドラゴン武芸帳」
「ドラゴン武芸帖」
原題:白道/黒白道
英題:The Brave and the Evil
製作:1971年

▼今年も残すところあとわずか…というわけで2014年最後の作品紹介となる今回は、年末恒例の王羽(ジミー・ウォング)作品でいってみましょう。
本作はジミー先生が古巣のショウ・ブラザーズから離脱し、ゴールデン・ハーベストや独立プロで活躍し始めた頃に撮られたもので、当時の年間興行収入7位(資料によっては8位)にランクインしています。
肝心の内容は驚くほどシンプルですが、巨大な城砦や大勢のエキストラを動員してスケール感を演出。アクションシーンも見応えがあり、ヒットしたのも頷ける出来となっていました。

■九華山に本拠をかまえる張沖(ポール・チャン)盗賊団は、悪の限りを尽くしていた。盗賊団には大勢の兵隊に加え、手強い3人の幹部(薛漢・曾江・萬重山)が控えており、張沖自身も恐るべき剣技の使い手である。
この日も連中は[金票]局(用心棒を兼ねた運送業者)を襲撃し、リーダーの馬驥を始めとした運送人全員を殺害。まんまと宝物を強奪するが、馬驥の娘である上官靈鳳(シャンカン・リンホー)が仇討ちに来ることを予期しつつあった…。
 一方、諸国を行脚していた剣客のジミー先生は、たまたま立ち寄った茶屋で彼女の噂を耳にした。彼は1人で仇討ちに向かう上官靈鳳の身を案じ、密かにバックアップしようと思い立つ。
盗賊団の息がかかった旅館で合流した2人は、反発しつつも敵の連絡係だった苗天を討ち取り、曾江と萬重山も連続で撃破する。しかし上官靈鳳が1人で先走り、敵陣に突入して捕えられてしまう。
ジミー先生は対盗賊団用の秘密兵器を開発すると、盗賊団の志願者に化けてアジトに潜入した。四方八方敵だらけという状況の中、上官靈鳳を助け出したジミー先生は最後の戦いに臨む!

▲この作品を語るうえで無視できないのが、有名なジミー先生と上官靈鳳の大ゲンカ事件です。2人はこのトラブルが原因で二度と共演しなくなったそうで、その影響は本編中にも波及しています(中盤で明らかに上官靈鳳が代役を使っているシーンがある)。
しかし本作はこうしたゴタゴタがあったにもかかわらず、なかなかの力作に仕上がっていました。先述したスケール感もさることながら、ストーリーもテンポ良く進むので非常に見やすく、主役2人のキャラクターもそれなりに立っています。
 アクションも激しさに富み、大人数を相手にしたバトルが画面狭しと展開! 圧巻はラストの剣戟戦で、長時間にわたって延々とつばぜり合いが繰り広げられ、泥臭くも生々しい迫力に満ちていました。
ちなみにこの当時、まだジミー先生は色物路線に染まりきっておらず(『片腕ドラゴン』を撮ったのが本作と同じ年)、今回は奇抜なギミック描写が控えめとなっています。
 唯一の例外は張沖が使用する武器で、こちらは『片腕必殺剣』に登場した変形剣を参考にしているものの、ラストにジミー先生らしいアレンジがされていました(笑
最後までトラブルに振り回されつつも、自分らしさを貫き通したジミー先生の意地が垣間見える作品。当ブログでは今後もこうした傑作から珍作、果ては駄作まで紹介していくつもりなので、また来年もよろしくお願いします!

『上海13』

2013-05-27 22:37:35 | 王羽(ジミー・ウォング)
「上海13」
「必殺・ザ・ドラゴン」
原題:上海灘十三太保
英題:Shanghai 13/All the Professionals
製作:1984年

●いやぁ…これは久々に凄いものを見たなぁ…(汗)。本作は香港映画界を代表する大導演・張徹(チャン・ツェー)が監督したオールスター活劇で、TVドラマとして作られたものを再編集した作品です。
日本では長いこと国内版ビデオが入手困難となっていましたが、近年になって国内版DVDが発売されたため、現在は容易に視聴できるようになりました(かくいう私も国内版DVDでようやっと視聴した次第です)。
 出演者は特別出演のジミー先生(出番少ない)を筆頭に、狄龍(ティ・ロン)、陳觀泰(チェン・カンタイ)、戚冠軍(チー・クワンチュン)、鹿峰(ルー・フェン)などの張徹作品スターがズラリ!劉華(アンディ・ラウ)や尤少嵐(ソニー・ユー)といった外部の俳優も顔を見せています。
ストーリーは南京政府の機密文書を巡る争奪戦で、政府の刺客とそれに反抗しようとする人々との死闘が展開されます。しかしそういった時代背景を気にする必要はありません。何故なら本作は、最初から最後まで男たちの死闘”だけ”を描いているからです!(笑

 とにかくストーリーは二の次三の次!物語は「功夫スターたちが戦って死ぬ→場所を移動する→功夫スターたちが戦って死ぬ→場所を移動する…」という流れを延々と繰り返しながら進んでいきます。
ここに張徹が得意とする裏切りと確執のサスペンス、刺客集団・上海13のメンバー(誰が敵で味方か解らない)などが絡むため、アクションの濃さは並大抵の功夫映画をはるかに凌駕していました。
 その反面、張徹の監督作にしてはストーリー面が弱く、過去の傑作と比べると不発気味です。本作はこの点を膨大な量のアクションシーンで補っており、一流の功夫スターたちによるガチンコ対決をこれでもかと堪能できます。
力強い拳さばきを見せる狄龍、身軽さを存分に発揮する程天賜、武器戦闘ならお任せの鹿峰、強力無双の陳星(チン・セイ)などなど…。『少林寺列伝』ほどではありませんが、出演者たちが披露するアクションは素晴らしいものばかりでした。

 …しかし、満貫全席を一気に食べようとすれば腹を壊してしまうもの。功夫片を見慣れているはずの私も、本作を視聴した後は物凄い疲労感に襲われてしまいました(苦笑
決して功夫映画ファン以外には薦められないものの、アクションの濃度だけは多の追随を許さない作品。もし本作を視聴する場合は、適度な休憩を挿みながら見ないと冗談抜きで疲れるので御注意下さい。

『片腕ドラゴン』

2012-12-30 23:03:31 | 王羽(ジミー・ウォング)
「片腕ドラゴン」
原題:獨臂拳王
英題:One-armed Boxer
製作:1971年

▼去年、私はその年最後の映画レビューに王羽(ジミー・ウォング)ことジミー先生の主演作、『戦国水滸伝・嵐を呼ぶ必殺剣』をセレクトしました。そこで今年最後の更新も、ジミー先生の作品から代表作と呼ばれる『片腕ドラゴン』を取り上げてみたいと思います。
この作品は、ショウ・ブラザーズ屈指の剣戟スターとして活躍していたジミー先生が、諸事情で台湾へと活動拠点を移さざるを得なくなった頃に手掛けたものです。先の『嵐を呼ぶ必殺剣』もこの時期の作品で、他にも『ドラゴン武芸帖』などが製作されています。
どちらも傑作と呼び声の高い映画ですが、この『片腕ドラゴン』は台湾という新天地で再スタートを切ったジミー先生の、ある思いが込められている作品なのです(詳細は後述)。

■正徳武館に所属するジミー先生は、あるときライバル道場の鉄鈎門とトラブルを起こしてしまう。軽率な行動を取ったジミー先生は罰を受けるが、怒りがおさまらない鉄鈎門の道場主・田野は道場総出で正徳武館を襲撃する。が、武術の実力は正徳武館のほうが遥かに上であった。
この一件で完全にブチ切れた田野は、日本・チベット・タイ・韓国・インドから武術の達人たちを雇い入れ、正徳武館の人間を皆殺しにせんと動き出した。所有する工場が襲撃を受けたため、再び正徳武館は鉄鈎門との全面対決に挑むのだが、敵はあまりにも強大だった。
 館長や門下生は皆殺しにされ、ジミー先生も沖縄の空手家・龍飛(ロン・フェイ)に片腕を切断された。こうして正徳武館は壊滅し、鉄鈎門はさらなる悪事に手を染めていく事に…。一方、ジミー先生は医者の親子に助けられて一命を取り留めていた。当初は自信を失っていたが、片腕で戦う方法を知った彼は過酷な特訓を開始する。
腕の全神経を焼き切り、一撃必殺の鉄拳を手に入れたジミー先生は、いよいよ仇敵へのリベンジに挑む。対する相手は田野と大勢の手下たち、そして怪物じみた実力を持つ世界武術連合軍!果たしてジミー先生は、腕一本でこの圧倒的不利な状況にどう立ち向かうのだろうか!?

▲本作は、自身の代表作である『片腕必殺剣』のキャラクター像と、初監督作の『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』のストーリーを基に、ジミー先生が独特のアイデアを散りばめて作り上げた逸品です。
功夫アクションの完成度は、劉家良(ラウ・カーリョン)が武術指導を担当した『片腕カンフー対空とぶギロチン』には及びません。が、その雑さを補って余りあるエネルギッシュな動作と、次から次へ現れる世界武術連合軍の奇怪さのおかげで、異様にテンションの高いアクションが構築されています。
 これら体当たりのアクションもさることながら、本作はジミー先生にとって重大な”決意表明”が秘められていることについても触れておかなければなりません。
本作でジミー先生は道場を追われ、大勢の強敵を相手に腕1本で戦うことを強いられます。防御を捨てて必殺の一撃に全てを賭けるその姿は、香港のメインストリートから台湾へと移り、海千山千のスターを相手にアイデア1つで勝負を挑む彼自身の姿とダブって見えます。
そう、この『片腕ドラゴン』という作品は、裸一貫で再始動することになったジミー先生の「これから俺はこの路線で生きていく!」という確固たる決意を、映画という形で誇示したものだったのです。ラストでボロボロになってまで戦うジミー先生の表情には、もしかしたら演技を超えた感情が秘められていた…のかもしれませんね。

『戦国水滸伝/嵐を呼ぶ必殺剣』

2011-12-19 22:45:22 | 王羽(ジミー・ウォング)
「戦国水滸伝/嵐を呼ぶ必殺剣」
原題:追命槍
英題:The Desperate Chase/Blood of the Dragon
製作:1971年

▼今回は久々となるジミー先生の主演作を紹介します。どれだけ久々かと言いますと、前回(『不死身の四天王』)の紹介から実に1年近くも経過していました(爆)。ここ1~2年は格闘映画ばかりに執着していたので、来年からはちゃんと大スターの主演作も取り上げていきたいと思っています。
さて本作は、ジミー先生がショウブラからゴールデンハーベストへ移籍した頃の作品で、日本では劇場公開もされています。監督は元女優の高寶樹で、ジミー作品の常連である龍飛(ロン・フェイ)も出演。ジミー先生は槍を得物とする凄腕の武芸者を堂々と演じています。

■名うての侠客・ジミー先生は、天下無敵の追命槍の使い手。今日も田野からの挑戦を退け、「命までは取らんさ!」と高らかに笑いながら引き上げていた。同じ頃、ある重要書類を携えた男女が龍飛の一団に襲撃を受けていた。女は殺され、男も重症を追ったまま逃走。彼は乞食の少年・游龍にそれを託して絶命する。
游龍は姉の焦[女交]にそのことを話すが、龍飛が現れて「書類を渡せ」と迫った。そこへ居合わせたジミー先生が介入し、どうにか2人は事なきを得た。だが、書類はしかるべき場所に届けないといけない…そこで焦[女交]は、ジミー先生に「游龍と一緒に書類を届けてくれないかしら」と依頼。かくして、少年と侠客の2人旅が始まるのだった。
 すぐに書類はあるべき場所へ届けられたが、そこには田野の息子・楊洋が待っていた。彼は「父はお前に殺された」と言う(どうやら田野は自害したらしい)。命まで奪っていないジミー先生は困惑するが、その隙を狙った一撃が彼の背中を裂いた。重傷を負ったジミー先生はなんとか逃げ出し、書類が反政府組織?の物であると知るのだった。
龍飛のボスである苗天、その仲間で政府高官?の易原が動き出す中、ジミー先生らは焦[女交]の元へと向かう。しかし、彼女のいる茶店には苗天の魔手が伸びていた。一行は茶店に立てこもるが、このままでは全滅も時間の問題だ。
のちに楊洋と和解したことでジミー先生の傷は癒えたが、敵は圧倒的な物量で攻めてきた。1人残ったジミー先生は、最後の戦いに全てを賭ける!

▲武侠として生き、武侠として殉じていく男を描いた逸品です。とにかく本作の魅力は女性や子供に優しく、どんな時も頼りになるジミー先生のキャラクターそのものにあります。どのカットでも非常に格好よく撮れているので、ショウブラ時代の頃と比べても遜色はありません。
物語は後半から茶屋へ篭城する展開となり、限定的なシチュエーションの中で様々なイベントが発生します。なんとなく西部劇を思わせる流れですが、最後まで一気に見られる勢いに満ちており、今回も高寶樹の演出力には唸らされてしまいました。
 また、アクション面でも本作は高い完成度を保っていて、クライマックスの15分以上にわたる決戦は壮絶の一言に尽きます。大勢の敵に対し、まだまだ体調は万全ではないジミー先生…しかも茶屋の中には焦[女交]たちがいるため、敵の侵入も許せないという逆境だらけの状況で彼は戦います。
しかも敵の総大将・易原は九節鞭に変形する蛇腹剣(ガリアンソードの元ネタ!?)を駆使する強敵です。果たしてジミー先生はどう戦い抜くのか?衝撃的なラストシーンを含め、見る者に強烈な印象を与える作品。文句なしの傑作です!

『怒れるドラゴン/不死身の四天王』

2010-02-26 23:50:37 | 王羽(ジミー・ウォング)
「怒れるドラゴン/不死身の四天王」
原題:四大天王
英題:Four Real Friends/Dragon Squad
製作:1974年

▼久々となる王羽(ジミー先生)作品のご登場です。時期としては台湾に渡った頃の作品(当時も一応ゴールデンハーベストの契約下だった)ですが、ジミー先生がフィルム・メーカーとして覚醒するのが正にこの頃で、『片腕ドラゴン』を筆頭に数々の傑作が生まれていきました。
一般的にジミー作品といえば、『片腕カンフー対空とぶギロチン』『英雄本色(ドラゴンVS不死身の老婆)』といったトンデモ映画が有名ですが、同時にシリアスな佳作も多く手掛けています。中でも『ドラゴン覇王拳』と本作はジミー流シリアス路線の決定版といえる作品で、濃厚なジミー先生テイストが味わえるものとなっているのです。
 また、この映画の最大の売りは、なんといっても台湾映画の4大スターが揃い踏みしている点でしょう。ジミー先生を始め、『餓虎狂龍』の陳星(チン・セイ)、『ドラゴンの逆襲』の張翼(チャン・イー)、そして『死對頭』の金剛(カム・コン)までもが集結しています。
中でも、当時一番の出世頭だった陳星はイチバンおいしい所を任されており、あのジミー先生が見せ場を譲っている(!)のにも注目したいところです。

■物語は、[金票]局(昔のガードマン業のこと)の金剛が盗賊団(リーダーは高飛)に襲われている場面から幕を開ける。襲撃を受けてボロボロになった彼は、通りかかった独身貴族・張翼によって命を救われるのだった。
一方、ギャンブラーのジミー先生は酒場で件の盗賊団と遭遇。博打で連中から金を巻き上げるが、そのとき盗賊団が持っていた財布(金剛から奪ったもの)を見たジミー先生は、相手が盗賊団で何かが起きていることに気付いた。
 この盗賊団を影で操っていたのは龍飛(ロン・フェイ)とその一味だった。彼の元には日本から呼び寄せた用心棒・鹿村泰祥、そして山茅(サン・マオ)らが控えている。龍飛は事態を察知しつつあるジミー先生を抹殺しろと高飛に命じるが、裏では報酬の宝箱を独り占めしようと画策していた。
そのころ、傷の癒えた金剛は張翼の元から飛び出し、かつての師であった陳星を尋ねていた。が、人を殺してアル中となっていた陳星にかつての威光は無く、金剛と張翼は深く落胆するのだった。
 ジミー先生も高飛に追われる中で「裏に何かあるな」と勘付き、密かに行動を開始していく。まず張翼に接触して互いを認め合うと、敵を知るために龍飛一味へ挑戦状を送った。そのせいで一時は敵の手に落ちてしまうが、機転を利かせてすぐに脱出。金剛は匿われていた道場を襲撃されるも、張翼の計らいによってジミー先生と合流を果たした。
混乱は敵地でも起きていた。高飛の度重なる失態に業を煮やした龍飛は、宝箱を奪うと強盗団全員を抹殺する。更に龍飛一味は、周囲を嗅ぎまわっていた張翼に制裁を加え、陳星が思いを寄せていた客棧の娘にも手を出そうと企んだ。事ここに至り、腑抜けていた陳星は遂に復活!こうして揃った4人の男たちは、手を取り合って悪党たちに決戦を挑んだ!

▲各所でも触れられていますが、本作は単なる復讐劇ではない男たちの友情を描いた物語であり、当時としても異色の作品だった事が伺えます。この4人の男たちのストーリーもよく出来ていて、オールスター映画によくある各エピソードの軽薄化に陥っていない点も、大いに評価できると言えます(脚本は倪匡)。
また、各人のアクションも個々の個性が反映されていて、陳星なら野性味溢れるアクションを、金剛なら足技を多用した力強い戦いを、ジミー先生なら卑怯な戦法(笑)を…といった具合に、それぞれのキャラに合った動作が積極的に取り入れられていました。
 欲を言えば、ラストバトルはそれぞれの戦いをきっちりと描いてほしかったのですが(龍飛と山茅の最後もかなり適当)、本作のダイナミックな功夫ファイトの前ではあまり気になりません。視聴後の後味も爽快なジミー先生渾身の快作。功夫映画を愛する方は必見の逸品です!
ところで本作のオリジナルの予告映像には、客棧の娘にジミー先生が言い寄って陳星が怒るシーン(一緒に金剛と張翼もいる)があるんですが、このような場面は本編に存在しません。恐らくこれはアウトテイクだと思われますが、実際に使用されたとしたらどんなシーンになったんでしょうか?気になります。

 ところで、本作には日本人の鹿村泰祥が出演していますが、ここでちょっとジミー先生が考える「日本人像」について触れてみたいと思います。元来、功夫片における日本人は悪役として描かれる事が多く、その描き方も決まって醜悪なものばかりでした。しかし、ジミー先生だけは日本人の描き方がまったく違うのです。
ジミー作品に登場する日本人は、いつも決まって突飛なキャラにされていました。『片腕ドラゴン』にの怪物空手家、『片腕カンフー対~』のトンファー侍、『英雄本色』の不死身の老婆、『神拳大戰快鎗手』のマシンガン侍、そして本作の鹿村さんと愉快な仲間たち…列挙しているだけでも目眩がしそうです(笑
 さて、このようにジミー先生は日本人を単なる悪意の象徴とせず、そのことごとくをネタキャラへ昇華させていきました。これによって独自の日本人像を作り上げたばかりか、結果として日本人が悪役になっても陰惨さを感じなくなり、安心感すら漂うほどの雰囲気を作り上げてしまったのです。
単なるヒールを過剰な装飾で彩り、陰惨さの回避に成功したジミー先生。果たしてこれがどこまで彼の意図したものかは解りません。しかし、ジミー作品が持つ飄々としたおおらかな空気の正体は、このような細かい演出を重ね続けた末の産物…なのかもしれませんね(←深読みしすぎ)

『威震四方』

2007-11-19 23:23:15 | 王羽(ジミー・ウォング)
威震四方
英題:The Hero/Rage of the Masters/The Destroyer/Rage of the tiger
製作:1972年

▼これはジミー先生が切磋琢磨していた台湾時代の作品です。作品としては『片腕カンフーVS空とぶギロチン』のような正統派なもので、ジミー先生の作品にしてはいつもの奇抜な面はあまり見られません(敵の手駒として出てくるムエタイファイター四天王が笑えるくらいでしょうか)。
内容は『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』のような道場破りに関する話で、恐らく本作はそっちを意識して作られたのではないかと思われます。作品のテイストもなんとなく似通っていますが、いちおう『吼えろ!ドラゴン』よりはドラマ性が(ほんの少しだけ)強くなっているようです。

龍飛や山茅らムエタイ四天王を率いる薛漢(シェ・ハン)は、焦[女交](『片腕必殺拳』でもヒロインを演じる)のいる道場を襲撃した。道場生や師範はことごとく皆殺しにされ、唯一脱出した焦[女交]は身内である李藝民(サイモン・リー)の元に身を寄せる事となる。
薛漢らにリベンジしたい焦[女交]であったが、彼女や李藝民の腕ではとても歯が立たない。そこで焦[女交]のおじさんは「伝説の拳士であるジミー先生に強力を仰いだらどうだろう?」と提案した。しかし当のジミー先生は母親と共に隠遁生活を送っており、他人の争いごとに加担する気はさらさら無かった。
 そこで焦[女交]たちは「承諾してくれるまでここを動かない!」と、ジミー先生の玄関先に居座った。あくまで闘いたくないジミー先生もであったが、焦[女交]が毒蛇に噛まれたため仕方なく家の中へと通した。闘うことは拒むくせに、なんだかんだで焦[女交]と良い感じになっているところは流石ジミー先生だ!(笑
一方、薛漢によって奪われた道場は賭場に成り果てていた。そして回復した焦[女交]を送り届けようとしたジミー先生の元にも追っ手が迫る。なんとかこれを撃退したものの、焦[女交]が隠れ住んでいた家がバレてしまい、襲撃を受けておじさんの息子が殺されてしまう。
 それを聞いて怒りに震えるジミー先生は、遂に不戦の誓いを破って敵の本拠へと飛び込んだ。だが、さすがのジミー先生も物量の差には敵わず返り討ちに…。さらには彼の不在を狙った薛漢一味によって、焦[女交]を始めとした身内全員が皆殺しにされるという悲劇に発展する。
再び怒りに震えるジミー先生は賭場へ正面から突入!ザコを蹴散らして薛漢を倒し、残るはムエタイ四天王と田野のみ!改めて海岸へ彼らを呼び出したジミー先生は、最後の対決に挑む…!

▲本作はなんといっても若々しい李藝民の存在に目を惹かれます。張徹作品に出演し、台湾で主演作を連発する以前にこんなところに顔を出していたとは驚きです。残念なのは彼がジミー先生と本格的に絡むシーンが無かったこと。まぁ、さすがにこの頃は駆け出しだったから仕方ないのですが…。
さて肝心のストーリーについてですが、ご覧のように至極悲惨なものとなっています。ジミー作品らしい痛快さはどこにも無く、そこにあるのは陰惨な戦いだけ。仲間は次々と死ぬし、ストーリーのテンポも悪く、不戦の誓いが足を引っ張っているせいでジミー先生も全然活躍してくれません(涙
 ジミー先生によるアクションシーンも、クライマックスを除くと都合3回しか存在しないという有様。賭場へ乗り込む場面は『吼えろ!ドラゴン』っぽい派手な立ち回りを披露するんですが、反対にラストバトルが異様にあっさり終わるので、まったくと言っていいほど盛り上がれませんでした。
おふざけ無しの正統派な作品ではあるけど、ジミー先生特有のカタルシスは皆無な作品。どうせなら、もうちょっとはっちゃけて欲しかったなぁ…。

『キラー・ドラゴン流星拳』

2007-11-02 23:18:10 | 王羽(ジミー・ウォング)
「キラー・ドラゴン流星拳」
「ファイナル・ドラゴン」
原題:風・雨・雙流星
英題:Killer Meteor/Killer Meteors
製作:1977年

▼李小龍亡き後、ジャッキーがブレイクする前までの香港映画界では武侠片ブームが巻き起こっていました。特にショウ・ブラザーズでは楚原を始めとした優秀な監督たちによって次々と傑作が作られ、ブレイク前のジャッキーも『成龍拳』『神拳』などで武侠片に挑戦しています。…が、いまいち成功できずにいました。
本作はジミー先生が主役を演じた武侠片ですが、この作品でジャッキーは悪役として担ぎ出されてしまいます。ちなみに脚本を担当したのは、かの『楚留香』を生み出した有名な武侠小説家の古龍(クー・ロン)。彼は一連のジャッキー武侠片でもシナリオや原作を担当しています。
 かつての大スターと、武侠小説の大家による脚本。制作スタッフはこの2つを作品の売りにしようとしましたが、作品は失敗に終わりました。かたや都落ちした片腕ドラゴン、こなた奇天烈な超展開が大好きなライターが並び立った時点で、本作の出来は決まっていたのです。
こんな強烈すぎる2人に挟まれていた当時のジャッキーは、どんな気持ちで撮影に臨んでいたのでしょうか…(汗

■誰も見たことがない最強の武器・奪命流星を持つジミー先生のもとに、無花病と名乗る貴族・ジャッキーから殺しの依頼が舞い込んだ。ジャッキー曰く、自分を秘密裏に殺そうとした妻を殺害して欲しいというのだ。
依頼を受けたジミー先生であったが、彼の正体は秘密捜査官。5年前に起きた宝物強奪の容疑者であるジャッキーの尻尾を捕まえるべく、刺客に扮して接近を試みていたのである。彼は事件の真相を探ろうとするが、ジャッキーとその妻は突然の怪死を遂げ、全ては闇の中へと消えてしまった。
 ところが実はジャッキーの妻は生きていた。しかもその正体はジミー先生に指令を出した上官・[イ冬]林の娘で、宝物強奪から始まった一連の事件の黒幕こそが[イ冬]林だったのだ。ジミー先生は仲間の拳士と共に闘い、奪命流星で[イ冬]林の息の根を止めた。
すると、そこにこちらも生きていたジャッキーが現れる(全ては[イ冬]林とグルだった)。奪命流星の秘密を見たジャッキーは余裕の表情を見せるが、この武器には隠されたもう1つの機能が存在していた。かくして、ここに最後の戦いの幕が上がる!

▲武侠片はその複雑なストーリー上、謎解きの要素が入ることがよくあります。この謎解きこそが武侠片の醍醐味であり、本作もその要素を重視している…んですが、正直言ってコレはやりすぎです(苦笑
先の見えない無軌道な展開、ラストのグダグダなどんでん返しなど、本作の謎に関する描写はどれも突拍子無いものばかり。マジでやっているのかギャグなのか判断がつきかねるシーンも多く、ほとんど反則なジミー先生の最強武器にいたっては出てくる映画のジャンルすら間違っています(爆
 登場人物についても個性的なキャラだらけで、特に鳴り物入りで登場した四天王がジミー先生に一瞬で倒されるシーンは爆笑必至の迷場面です。ここまでムチャクチャだと、わざとウケ狙いで作ってるとしか思えません。
そんなわけでバカ映画としては最高、ジミー作品としては至高、ジャッキー映画としては微妙すぎる本作。純粋なジャッキー映画のファンは決して真面目に見ないことをオススメします(笑

『ニンジャファイター 機密ファイル奪回作戦』

2007-10-09 23:14:39 | 王羽(ジミー・ウォング)
「ニンジャファイター 機密ファイル奪回作戦」
THE THUNDERING NINJA
1986(1985?・1987?)

▼その昔、フィルマークという会社があった。フィルマークはIFDという会社の子飼いで、そのIFDは巨龍などの韓国功夫映画を適当にゴッドフリー・ホー名義で売り出していた粗悪な会社であった。フィルマークを語る上で外せないのはやはり大量のニコイチ作品だろう。当ブログでも『Ninja Empire』などを紹介しており、本作もまたジミー先生の主演作へ強引に忍者を挟み込んだ代物である。
最初に断言しておきますが、本作は下記のストーリーそのままで進んでいきます(そのため、今回のレビューはムダに長いです)。しかもこれはフィルマーク作品ではまだマシな方。そのニコイチっぷりがどれほどのものか、解くとご賞味下さい…。

■冒頭、白昼堂々どこかの狭い公園でタイトルにもある機密ファイルの取引をしている男達がいた。だが、その場に突然ニンジャが現れ、一方の白人らを全員切り伏せ取引相手の中国人はファイルを持って何とか逃げおおせた。
ここは世界征服を狙うニンジャ組織の本部(というわりには"忍"の文字が書かれた掛け軸が飾っているだけで非常に地味)。実は機密ファイルを持って逃げた中国人は組織の手の者だった。が、ファイルはニセモノであり、ボスは配下の龍飛(ロン・フェイ)ら麾下組織に奪回作戦を命じた。

その一方で、龍飛組織は職を探しているジミー先生を仲間に引き入れていた。
ジミー先生は父と仲違いして家出してきた身であり、姉の家に居候していたのだ。早速ジミー先生は龍飛から、組織に金を支払わない大尽に警告してくるように命じ、ニンジャ組織の手の者が見張る中、ジミー先生は大尽の取り巻きのチンピラをのし上げ見事取り立てに成功する。

ところが、ジミー先生を見張っていたニンジャがようやく登場した主人公のスチュアート・スティーンに目撃される。アジト(どっかの庭園みたいなとこ)になんとか逃げ帰ったニンジャだが、やっぱり責任を持って殺される。

ある夜、一人の男が家へと帰宅すると、見知らぬ男達が居間に居座っていた。
彼らはある盗難事件の捜査を打ち切れと警告しに来た組織の者だった。男が断ると彼らはおとなしく立ち去るが、息子が自分たちの組織に入ったと告げた…そう、この組織はニンジャ組織で、男は今現在ジミー先生と断絶中の父親だった。
姉の家に本格的に住むことになったジミー先生は、その夜姉のボーイフレンドのフィリップとともにレストランへ出かけ、親睦を深める。

スチュアートはニンジャを目撃したことを気にしていた。当のニンジャ組織はジミー先生伝いにCIAが関与してこないかと危惧し、凄腕捜査官がすでに介入してきていることを仄めす。

ジミー先生は夜遅くに組織の仕事にまた荷担していた。だが今回のターゲットがか弱い女性だったことを知って思わず助けに入り、仲間をぶちのめした。
「名乗るほどの者ではない」と格好良く立ち去るジミー先生がなかなか素敵だ。

しかしニンジャ組織はこの反目を重く見て、龍飛組織にジミー先生監視の命を出す。
そのころ、スチュアートが突如公園でニンジャに襲われた!ところが突然スチュアートが赤い服のニンジャに変身し、実は彼こそがCIAの捜査官だったことが解った。それを知って顔色を変えるニンジャ組織のボスだが、それもそのハズ、スチュアートとボスはかつての同僚でもあったのだ。

ジミー先生の父親はローズという龍飛の愛人と接触していた。彼が捜査に執着するのには理由があり、かつて妻がニンジャに(どういう理由かは知らないが)殺されたという痛烈な過去があった。
さて、今日も仕事のために駐車場でジミー先生は取引をしようとしていたが、そこに龍飛が彼に一泡吹かせようと向かわせたチンピラどもが現れる。通りがかりのスチュアートと見張りのニンジャが見守る中、ジミー先生は多勢に無勢でボコボコにされ、取引は失敗してしまった。

そのころ、じつはCIAの仲間だったフィリップに連絡を取ったスチュアートは、ジミー先生を泳がせてフィリップには龍飛らの監視を頼む。フィリップは白装束のニンジャとなって龍飛らがいる大浴場で彼らの話を耳にする。

「二度と失敗は許さない」と龍飛に釘を刺されたジミー先生は、さらにニンジャ組織のボス追跡を諦めるように親父に伝えろと言われる。半ばしょんぼりした様子のジミー先生。父はフィリップとニンジャ組織について話し、なにかあったらスチュアートに連絡をと言い、立ち去る。
様々な思いを巡らせながら、父はジミー先生の元へとやって来た。組織の面々が見守る中、ジミー先生は捜査の危険性を示唆するが、断固として父は捜査を続けるつもりでいた。

次の日、取引失敗の方を内通者のローズから聞いたスチュアートは早速敵陣(の公園)に乗り込んで大立ち回りを繰り広げ、ザコニンジャを倒すもボスのみを取り逃がしてしまう。

ジミー先生は龍飛の命令でフィリップを消せと命ぜられる。
結局は抗えずフィリップと姉の襲撃の手引きをしてしまい、あまつさえスチュアートがまたまた見守る中、ジミー先生はフィリップに重傷を負わせてしまう(殺したと思っていたが実はあとで生きていたことが発覚)。姉の親友でもあったローズはジミー先生に警告する一方で、彼に龍飛の非道さを訴えた。しかし何よりも心配なのは、無茶をしてまでニンジャ組織摘発のために捜査を続けるジミー先生の父親だとも付け加えて。
夜のハイウェイで黄昏れるジミー先生だが、そこに以前助けた女の子が現れる(何だかジミー先生に惚れてたような仕草を見せるが、物語展開には反映されなかったようだ)。父の邸宅に入り込んだジミー先生は父の日記を読んだことで、知らなかった父の孤独さを悟った。
足踊り重く謝罪のためにジミー先生は姉の家を訪れたが、当然接触を嫌がられ、フィリップが無事だと聞きだすのみだった。

スチュアートは回復したフィリップと共に公園で待ち合わせる。ニンジャ姿で現れたフィリップは、ファイルを奪い返すための秘策を話し合った。

龍飛組織は父と関係を持ち始めたジミー先生を次第に敵視し始めた。
そして会合の場に現れ、「今度の仕事が最後」ともちかけるジミー先生に龍飛はOKサインを出すが、ローズをも裏切り者だと勘づいた龍飛は刺客を向かわせていた。命からがら逃げ出してきたローズはフィリップを頼ってジミー先生の姉の家へと行き、姉にジミー先生が危ないと伝える。
が、直後ジミー先生の父と連絡をとろうとした彼女は無惨にも敵の手にかかり大怪我を負う。フィリップは姉に、父の所へ向かうよう指示する。
ローズは瀕死の重傷を負いつつも、何とかジミー先生の父の元へ辿り着き、ジミー先生の危機を伝え息を引き取った。姉とフィリップは父の元にやって来て、ジミー先生を助けるべくスチュアートへと連絡を取る。

フィリップと合流したスチュアートは諸々の情報から取引現場を押さえ、見事ニンジャ軍団を討伐するが、またもタッチの差でボスのみを逃がしてしまう。

その夜、仕事のために倉庫へと向かうジミー先生に、フィリップは倉庫には龍飛組織が待ちかまえていることを伝えるが、ジミー先生は「自分のやった事にケジメをつける」と言い残し、フィリップに警察に通報することを頼んで去っていった。
倉庫には案の定龍飛組織の手勢が待ち受けていたが、激闘の末に龍飛を殺して警察行きとなった。
服役後、檻を挟んで対面する父と子。既に二人の関係は修復され、あとは法の捌きに委ねるのみとなった。

父と別れたジミー先生の元に今度はスチュアートが現れ、塀の中のジミー先生に代わってニンジャ組織を壊滅することを彼に誓った。その頃、ニンジャ組織は決戦に備えてどこぞの野原に爆弾を仕掛け待ち伏せする。そこに何故か何の手がかりもナシにやってくるスチュアート。
そして対峙するは全ての不幸の元凶であるニンジャ組織ボス。
因縁のニンジャ同士の決戦が、今始まろうとしていた…。

▲見ておわかりのように、話が全然つながってはおりません(行間入れてわかりやすくしてみました)。ストーリーはジミー先生ルートによる父と子の物語と、スチュアートルートのニンジャ組織捜査が同時進行し、所々でつながりを入れようとも所詮"水と油"。話にもなっていませんでした。
一応、双方の橋渡し役としてフィリップが出てくるが、スチュアートと同じ画面に移る時は白ニンジャ姿で、どう見ても別人が演じていて繋ぎ目がバレバレ。これを堂々と自社の映画と言い切るフィルマークとは一体…。新撮部分のニンジャアクションに関しては以外に悪くはないが、制作年度を考えるともうひとつ迫力不足を感じるところである。
とりあえず、余程のジミー先生ファンでない限りは見る必要のないゴミ作品。基となったジミー先生の作品もあまり面白くなさそうなのが残念だ。…ところで、もしかしてフィルマーク本社が全焼したあの事件って(以下自粛)

『大盜/王羽大盜』

2007-09-01 20:48:35 | 王羽(ジミー・ウォング)
大盜/王羽大盜
英題:The Fast Fists/The Fastest Fists
製作:1972年

●ジミー先生のフィルモグラフィーに『王羽大盗』というヘンテコなタイトルの作品があります。私も常々気になってましたが、このたび幸運にも入手することができました。時期としてはショウブラザーズからゴールデンハーベストに渡った頃の物らしく、ジミー先生はタイトルどおり盗賊団のボスを演じています(笑

 各地で略奪を繰り返すジミー先生とその一団は、あるとき京劇女優の郭小荘と出会った。彼女が気になるジミー先生は、京劇一座に迷惑をかける龍飛&山茅と易原のグループを片付けたりと、なにかと世話を焼いた。しかし、自らの本拠地に郭小荘を招き入れたところから話は歪み始めてしまう。
この歓待を知らない人々は「郭小荘が盗賊団に誘拐された」と警察に通報し、アジトに警官隊・易原のグループ・そして軍部までもが殺到。連中は総出で捜索を開始し、ジミー先生の一団は壊滅的な打撃を受けてしまったのだ。
 いつしかジミー先生のことを慕い始めていた郭小荘は彼についていく決意を決めた。だが彼の腹心だった薛漢は、「これ以上うちの盗賊団を振り回されたくない」とジミー先生たちを盗賊団から追放する。警察の追手もある中で、ジミー先生と郭小荘とその付き人の3人による逃避行が始まった。
一方、その影で警察と軍部による陰謀が渦を巻いていた(この陰謀がどういうものかいまいち不明)。かつてジミー先生と拳を交えた警官隊の頭目・余松照は、彼らのある重要な秘密を知ってしまい、無実の罪で投獄されているという。
 ジミー先生は警察内部に何かが起こっていることに気付き、『ドラゴン怒りの鉄拳』の李小龍と同じような方法で警察署に侵入。ひそかに相手の銃をバラして使用不能にさせたうえで、余松照を助け出すことに成功する。
孤軍奮闘を続けるジミー先生たちだが、さすがに警察と軍部と易原のグループをいっぺんに相手取るのは不可能だ。すると、そこに一度は袂を分かったはずの薛漢たちが救援に駆けつけた!そして始まる最後の決戦…勝つのはジミー先生か!?それとも易原か!?

 この当時、ジミー先生は『片腕ドラゴン』などを製作していましたが、本作もそれなりの佳作に仕上がっています。劇中におけるジミー先生は、身分違いの恋をしたために立場を追われるというシリアスな役柄を好演しており、なかなかカッコよく撮れていました。
ただ、このラブストーリーが主軸となっているのは中盤までで、後半からは暗躍する権力者たちとの戦いに方向転換してしまいます。様々な功夫映画で師匠役を演じてきた余松照が大活躍したり、繰り広げられる功夫アクションも悪くは無いのですが……個人的にはラブストーリーで一貫して欲しかったですね。

『神拳大戰快鎗手』

2007-08-04 22:02:22 | 王羽(ジミー・ウォング)
神拳大戰快鎗手
英題:Return of the Chinese Boxer
製作:1977年

▼数々の奇天烈なアイデアで功夫映画ファンを楽しませてくれるジミー先生。そんな彼の作品の中でも、最も奇抜な作品として有名なのがこの『神拳大戰快鎗手』です。
かつて私はジミー先生の『片腕カンフー対空とぶギロチン』で大きなショックを受けました。お世辞にも功夫の腕前は上手くないように見えるものの、次から次に登場する強烈なキャラクター、そして極悪非道な主人公の姿は未曽有のインパクトを私に与えてくれたのです。
そして今回紹介するこの作品は、その時感じた衝撃を再び体感させてくれる程の衝撃作でした……。

(※…本作はかなり奇抜な話なのでオチまで書いていますが、そのオチはかなり強引に解釈しているので参考程度にご覧ください)
 物語はとある日本の武家屋敷から始まる。そこでは中国の皇帝を暗殺する計画が練られており、薛漢(シェ・ハン)の率いる暗殺団が派遣される事となった。機関車に乗って中国大陸を進む(!)暗殺団は、途中で盗賊団の襲撃を受けるものの、なんとか都へと到着する。
こうして連中は皇帝への謁見に臨んだ…のだが、既に皇帝も暗殺団の存在には気づいており、あの盗賊団も実は皇帝が差し向けた刺客であった。結局、暗殺団は謁見中に行動を起こすことが出来ず、計画を変更して外出中の皇帝を襲うことにした。だが、暗殺団の放った刺客は神拳の使い手・ジミー先生によって倒されてしまう。
 暗殺団はターゲットを皇帝の娘に変えるが、またしてもジミー先生の妨害により失敗。二度も顔に泥を塗られた暗殺団は彼の命を狙い、くノ一と全身にナイフを装備した用心棒を派遣する。しかし、『片腕カンフー対空とぶギロチン』でも見せた重力無視の歩行術と必殺パンチを習得しているジミー先生の敵ではなかった。
もはや皇帝のことなどすっかり忘れ、ジミー先生を倒すのに躍起になっている暗殺団御一行。彼らは格闘トーナメントを開催し、ジミー先生に勝てる実力者を探し出そうとしていた。金剛(カム・コン)や高飛(コー・フェイ)といった武芸者たちの戦いは支離滅裂を極め、最終的には金剛の優勝で幕を閉じたようだ。

 一方、くノ一は中国在住のサムライガンマン・龍飛(ロン・フェイ)に協力を依頼していた。2人は暗殺団とは別に行動しようとしているようだが…?あくる日、暗殺団の金剛は皇帝の娘を襲撃しようとしたが、ジミー先生に圧倒的な実力差を見せつけられて完敗する。
金剛は敗北を恥じて切腹し、暗殺団は次に2番手の柔道家を呼び出そうとした。ところが、彼は先のトーナメント後に現れた謎のムエタイコンビから挑戦を受け、巧みなコンビネーションの前に負けて腹を切ってしまっていた。薛漢は彼らを言いくるめてジミー先生と戦わせるが、こんなイロモノでは当然勝てるはずもなかった。
 ここまで来ると後が無い暗殺団は、なんと先のトーナメントで死亡した龍世家・高強・高飛をゾンビとして蘇生!皇帝の娘を誘拐し、ジミー先生に彼らをぶつけたのである。これにはさすがのジミー先生もお手上げ…かと思いきや、そこに以前襲いかかってきたナイフの用心棒が再び登場する。
ジミー先生は彼を利用し、どうにかゾンビを撃退することができた。残るは薛漢とくノ一、そして龍飛だ!早々に薛漢を始末してくノ一を捕らえると、そこに龍飛が完全武装でやって来た。二丁拳銃だけでも厄介なのに、銃身の多い異様な銃まで持ち出してきた龍飛には、今度こそジミー先生も絶体絶命なのか?!
 だがしかし、ジミー先生はこんなこともあろうかと自分のダミー人形をしこたま並べた物置を用意していた(笑)!卑怯千万な戦いの果てに、勝利したのは当然のようにジミー先生であった。そのころ、誘拐された皇帝の娘は日本に拉致され、皇帝暗殺の黒幕の元に引き渡されていた。
そこで彼女は、驚くべきことに黒幕を殺して自らも自殺してしまう。全ては遥か彼方の悪を倒すための皇帝の策であり、彼女の尊い犠牲をもってして行われた決死行だったのだ(推測)。遠方の地で果てた皇帝の娘のことを想いつつ、ジミー先生は荒野へと消えていくのだった…。

▼徹頭徹尾濃縮ジミー映画!もう凄すぎてロクな言葉が出てきません!噂には聞いていましたが、まさかこれほど凄まじい映画だったとは…。
とにかく本作は最初から最後まで徹底してジミー作品らしいアバンギャルドさに満ち溢れています。いつにもまして卑怯で強いジミー先生、何の脈略もなく始まる格闘トーナメント、これはゾンビですか?と問いたくなるような死者トリオ、そしてダミー人形の館……次から次へと飛び出すアイディアの数々には、誰であろうと抱腹絶倒間違いなしです。
 これまでジミー先生は数々のバカ映画を手掛けてきましたが、本作は他の諸作と比べてネタの濃さが半端ではなく、まさに「ジミー作品らしさ」を結晶にして抽出したらこうなるんだろうな…という感じの作品に仕上がっています。
まさにジミー作品の総決算というべき本作。脚本はあの支離滅裂な展開で有名な古龍(クー・ロン)が担当していますが、今回はその支離滅裂さが良い方向に働いた貴重な成功例と見ていいかもしれませんね。…しかしジミー先生、こんな映画まだまだあるんですよね?(爆