指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『大日本スリ集団』の制作体制

2022年04月14日 | 映画

映画『大日本スリ集団』で、前に阿佐ヶ谷ラピュタで見たときも不思議に思ったことがあった。

それは、この大阪、京都、そして阪急電車沿線をロケしている作品が、なぜ宝塚映画で作られなかったのかである。

大阪の道頓堀、京都の祇園祭、阪急電車での三木のり平のスリの実行など、普通に考えれば、宝塚映画で制作すればいい作品で、事実制作は宝塚の寺本忠宏で、照明も下村一夫である。

だが、この作品は、脇に劇団民芸などの新劇の俳優が沢山でている。

だから、東京にいる彼らをわざわざ関西まで行かすのは、旅費等が掛るので、すべて東京でやることにしたのではないかと私は思う。

 

                                                                       

実際に、関西に行ったのは、三木のり平と小林桂樹、酒井和歌子、田中邦衛、菅原健二ら程度のように見える。

さすがの東宝も、この時期は随分と予算が苦しくなっていたのだな。

同様に、日活で舛田利雄の秀作に『紅の流れ星』があるが、これも本当に神戸に行ってロケ撮影したのは、渡哲也、浅丘ルリ子、宍戸錠、藤竜也くらいのように見える。その他大勢は、皆横浜港での撮影にされている。

1960年代後半は、どこの会社も大変だったのだなとあらためて思う。

 


『大日本スリ集団』

2022年04月14日 | 演劇

1969年、東宝の映画だが、大阪のスリ(三木のり平)と府警のスリ係刑事(小林桂樹)の話だが、この二人は戦時中は陸軍の戦友の仲である。

松竹にもかっての戦友が敵に別れてという喜劇があったが、これは非常に上質。

                   

原作、脚本は藤本義一で、この小説を読んだ記憶もある。そこでは、スリの組合のことが詳説されていて、給料制で保険等もあるようになっていたと思う。

訓練の様子もあり、お湯と冷水に指を交合に付けて指の感覚を磨くと言うのがあり、ここでも出てくる。

小林桂樹の娘が酒井和歌子で、同僚の刑事が田中邦衛、三木のり平の若妻が高橋紀子、のり平の仲間に、平田昭彦、砂塚秀夫、草野大悟、古今亭しん朝など。

三木の息子が寺田農で、ヤクザものになっている。

道頓堀で、菅原健次の音頭で、戦友会が開かれると、その酌婦で刑務所に入れられた古今亭しん朝の妻・吉行和子が座敷に出てくる。

小林は、嫌がらせだが、三木のところの芸人を座敷に出せと言う。

平田昭彦は手品師で、トランプ手品で、小林の警察手帳をスって見せる。

高橋は元はストリッパーだったので踊るが、もちろん肩を見せる程度、この頃はストリップのそんなものだった。

京都で祇園祭があり、三木も、小林も行くが、三木たちは30万円以上の上がりをあげる。

三木は、小林に頼まれて、酒井和歌子のハンドバックの中にある封筒をスル。もちろん、通勤の阪急電車の車内で。

それは、酒井とある男との婚姻届で、驚いた小林はその男に会う。

妻子持ちの男で、民芸の波多野憲で、日活には翌出ているが東宝は珍しいと思う。

その他、刑事で下条正巳、ヤクザの親分で清水将夫、大滝秀次と新劇の俳優が多い。

最後、草野は清水の組との争いで刺されて入院する。

酒井は、小林も置いて、ブラジルに行くことになる。

また、三木のり平は、清水の組に、飲み込まれるのを拒否すると、寺田の指を詰めろと言い、寺田は、三木が止めるのも聞かずに小指を落としてしまう。

清水の仕業は、小林からの示唆だと知った三木は激怒して府警に乗り込む中で、脳梗塞で倒れて入院するはめに。

寺田農と高橋紀子はできていて、二人で駆け落ちしてしまう。

最後、大阪駅前で、相変わらず主婦の買物籠から財布をする三木のり平と小林桂樹は会う。

二人とも子供に裏切られたのだが、そういう時代だった。

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