新型コロナ感染拡大から、1年足らずで、感染予防、重症化防止のワクチンが開発された。私はこんなに早くワクチンが開発されると思わなかった。分子生物学の勝利である。ノーベル賞ものである。
新型コロナウィルスのRNA塩基配列が昨年の1月には中国の科学者によって解明され、それにともなって、PCR検査法が確定した。また、塩基配列のどの部分がどのタンパクを作り、感染や増殖にどう寄与するかが、試験管内実験で解明された。ファイザー社(pfizer)は、これらの知識にもとづき、mRNA塩基配列の一部を人工被膜で包み、安全なワクチンの開発の成功を昨年11月に発表した。
そして、昨年12月14日に、ファイザー社のワクチンがアメリカで特例承認され、接種が始まった。これは驚嘆に値する。科学による人類の勝利である。
いっぽう、日本国内でも、世界でも、このワクチンをめぐって混乱が見られる。
国内の混乱は、(1)ワクチン接種への同調圧力と反発、(2)ワクチン接種への予約殺到、(3)ワクチン接種体制の確保に見られる。
世界の混乱は、ワクチン接種が裕福な国に限定されていることである。
国民の7割がワクチン接種すれば集団免疫ができると言われている。すなわち、3割の人が接種しなくてもよい。したがって、接種はしたくない人はしなくてよいと、日本政府もいっている。副反応は個人差があるから、各人が自分のリスクと、自分の社会的役割とを、顧みて決断すれば良いことである。政府や医療機関が各自のリスクを判断できる情報を個人に提供すればよいだけである。
ワクチン接種への殺到で、電話やネットがパンクするのは、スーパーからトイレットペーパーが消えうせたと同じくパニック現象である。製薬会社にとって、ワクチンは特許で守られた独占的商品であり、必ず、日本に大量に来るものである。企業は儲けたいから出し渋らない。
ジャーナリスト田崎史郎によると、どうも、問題は、菅義偉が厚生労働省の役人を信用していなく、自分の命令に忠実な総務省の役人を通じてワクチン接種を進めようとするから、現場に混乱が起きているようだ。接種のスケジューリングの基本原則を政府が決め、現場での柔軟な対応を例示すればよい。申し込みでパニックになることは給付金で実証されたことである。
ワクチンは、マイナス80~60度Cで最大6カ月保存できるのだから、毎日100万人の接種だと慌てることでもない。今年中に国民の7割の接種が終われば良いのである。
この菅義偉の焦りは、オリンピック・パラリンピックをこの夏にしないと思うからで、別にやらなくたっていいのだ。
オリンピック・パラリンピックをやろうとすると、医師や看護婦を動員しないといけないことになる。ワクチン接種体制の確立に政府は集中した方がよい。できるだけ、早く、オリンピックとパラリンピックの中止を決定すべきである。
日本人は世界に目を向けるべきである。世界では、感染爆発を起こしている国々が、いっぱいある。選手を送ってこれない国々が続出しても、東京オリンピックを強行するのは、倫理的にもおかしい。
WHOがワクチンの特許権を一時放棄を呼びかけ、今年の5月5日に、アメリカのバイデン大統領がこれを支持した。
特許権を一時放棄したからといって、すぐに、世界各国で生産できるとは断言できないが、原理的には可能だと思う。ワクチンの特許はまだ申請を受け付けた段階で公開されていないはずである。しかし、アメリカ政府はそれを公開できるわけだ。グロバール時代であるから、その情報でワクチンを開発・生産できる技術者が全世界にうじゃうじゃいるのだ。
問題は生産設備投資にあって、実際には投資家はお金を出すことをビビるだろう。バイデンの主張が通っても、ファイザー社開発のワクチンをアストラゼネカ社やジョンソンエンドジョンソン社が生産することになりそうである。
だから、バイデン大統領が特許権の一時放棄を支持したのは、ファイザー社の増産や価格交渉を促すための恫喝の札なのだろう。アメリカだけが7割の人が接種を終えても、貧しい国々の人々が接種しないかぎり、残された国々でインドやアフリカのように変異株が続出することになる。
ドイツのメルケル首相は、企業の創造性と革新のため「特許権の保護が不可欠だ」といって、バイデンに反対したのは、間が抜けている。その前に、バイデンと電話会談をして真意を確認すべきであった。
私は、現代社会において、特許権や著作権などの知的財産権は、企業がお金がお金を生む手段として利用されており、個人の創造性のモティベーションに役立っていない、と考える。
企業の知的財産権に関して、政府は、抑制的になるべきであり、発明者や著作者の利益と公共の福祉を重視すべきである。バイデン大統領の提起は、新型コロナワクチン問題を超えて、企業の知的財産権に対する異議申し立てなって欲しい。
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