テレビを見ていると、誰もが一方的にドナルド・トランプ大統領の悪口を言い、誰もが自由貿易支持者のように振る舞っている。こうなると、へそ曲がりの私は反論したくなる。
自由貿易の根拠は、国による分業によって生産が効率化される程度のことである。国際経済学の本によれば、これをデイヴィッド・リカードの「比較優位理論」と言うらしい。しかし、「生産の効率化」より、人々がそれで幸せになるかが、私たちにとって重要なのだ。人間は「生産拡大」ための奴隷ではない。
トランプは、安倍晋三と同じく、選挙で自分が支持されるかを非常に気にする。単なる民主主義の破壊者ではない。自分の権威が選挙結果から来ていることを自覚している。だから、彼は米国の東部から中西部にまたがるラストベルト(荒廃した工業地帯)の労働者たちの思いを気に留める。
「自由貿易」はラストベルトの労働者から仕事を奪い、住み慣れた彼らの町を荒れ果てるままにしている。
米国は、貿易収支のみならず経済収支が、この30年、赤字なのである。今年の3月20日の米商務省が発表によれば、2024年の経常収支は1兆1336億2100万ドルの赤字で、赤字幅は前年から25.2%拡大した。これにトランプが責任があるのではない。これまでの民主党政権や共和党政権がラストベルトの労働者たちを見捨ててきたのだ。
米国が貿易で赤字を垂れ流しているのに、ドルが値崩れしていないのは、米国にお金が流れているからだ。アメリカの金融企業が世界最強だからだ。彼らは金融資本主義の担い手だと称している。
アメリカの会社の製品が日本国内にあふれている。しかし、アメリカ国内で生産しているのではない。これがグロバールサプライチェーンなのだ。これが自由貿易の実態なのだ。多国籍企業は、利益を一番税の安い国に留め置き、米国に利益を還元しない。
自由貿易という形で、企業は国境を越えてきた。米国政府は軍事力でこれらの企業を守ってきた。しかし、米国政府は、これらの多国籍企業や金融企業の強欲を抑え込むことはできなかった。抑え込もうともしなかった。
一部の人々だけが潤っているのが米国の実態なのだ。見捨てられた多数の人々がいるのだ。
トランプの関税政策がこれらの問題を解決できるとは私も思わない。しかし、少なくともトランプは米国の金融企業や多国籍企業を慌てさせている。