日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 そろそろ使おうこのネタ、思いつつ日が経ってしまいました。気付いたらもうすぐ旧正月(旧暦の元旦は2月7日)。とすればその節目に国家指導者の年賀演説などが出てきます。そこが比較検討の場になるかも知れないのでここで出しておきます。

 ……しかも、胡錦涛の指導力は盤石ではありません(ええ、盤石ではないのです)。

 などといった表現を私はこの半月ばかりの間にしばしば使いましたが、別にその決め手となるような重大事件が経済統計や豪雪問題で騒がしい時期にひそかに発生していた、という訳ではありません。仮に発生していたとしても、むろん私には察知できようもありませんし。……ただし、

「胡錦涛はどうも頼りねーな」

 と思わせる根拠めいたものはあります。それがタイトル通り、胡錦涛の「核心」扱いについてです。これについては以前のエントリーで詳報していますね。

 ●広東掌握?胡錦涛に「核心」キタ━━━(゜∀゜)━━━!!!!(2008/01/08)

 面倒なのでその冒頭を引き写して説明に代えさせてさせて頂きます。物臭御免。m(__)m



 これは歴史的な節目のひとつといっていいでしょう。タイトルの通り、胡錦涛・国家主席(総書記)にとうとう
「核心」がつきました。

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 ……経緯などを一応説明しておきますと、先代の最高指導者である江沢民はその最盛期、

 江沢民総書記を
核心とする党中央。

 と、まるで江沢民がいなければ党中央が成り立たないかの如き破格な扱いを受けていました。その後を継いだのが胡錦涛な訳ですが、2004年9月の江沢民完全引退=胡錦涛政権発足から3年以上を経ても、

 胡錦涛同志を総書記とする党中央(以胡錦濤同志為總書記的黨中央)。

 と呼ばれるばかりで、江沢民のように「核心」扱いをしてもらえないままでした。「核心」と呼ぶに足る指導力・統制力がある、と認めてもらえなかったからでしょう。逆にいうと、
いつ胡錦涛に「核心」がつくか、というのが実権掌握の上でのひとつのバロメーターだったのです。

 それがこの1月2日にとうとう現実のものとなりました。舞台は
広東省・深セン市の党幹部会議です。正確には1月2日午前。

 それまで深セン市のトップだった李鴻忠・深セン市党委員会書記が湖北省長代理へと転出したため、深セン市はトップ不在の空位状況が続いていたのですが、この党幹部会議で後任人事が発表されました。

 広東省党委副書記を務めていた
劉玉浦が深セン市のナンバーワンへと抜擢されたのです。そして、

 胡錦涛同志を
核心とする党中央(以胡錦濤同志為核心的黨中央)。

 という記念碑的な言葉もこの劉玉浦の口から出ることになりました。



 この歴史的といっていい劉玉浦演説は公の場でのものです。内容が内容ですから党中央の承認があったものと思われます。実際、中国国内の大手メディアがこぞって報じましたので公認扱い。これに香港紙『明報』『蘋果日報』が喰いついてニュースにし、さらに『明報』の報道をベースにした記事を台湾・中央通信社が配信しています。

 ところが。「広東掌握」については確かに胡錦涛直系の「団派」(共青団人脈)のホープたる汪洋・広東省党委員会書記(広東省のトップ)が、新任であることを全く遠慮せずに奮発せざる同省の幹部面々にガンガン活を入れてぐいぐい引っ張っていく形勢になっているのですが、
「核心」は後が続かなかったのです。これは一体どうしたことでしょう。

 また引き写します。上記エントリーのコメント欄に私が書いたものです。



「核心」の言い出しっぺはトウ小平です。江沢民のためにワンフレーズ創ってやったもので、自分はカリスマだと自任しつつ、「お前の代からは集団指導体制だけど仕切るのはお前」というニュアンスが込められているように思います。「核心」だった江沢民は確かに仕切ることはできましたけど確かにカリスマには程遠く、引退後に院政を敷く甲斐性すらありませんでした。

 留意するとすればこの胡錦涛を「核心」扱いする動きがどこまで広がるか、ということです。江沢民がそうだったように、「核心」はカリスマと違って「鶴の一声で何でも思うがまま」ではありませんから、従来通り「胡錦涛同志を総書記とする……」という言い回しが一方で残る可能性があります。

 ……というのは私の経験値に照らしたものです。1992年のトウ小平の南巡講話も、発表当初は都合の悪い部分を削除したりシリーズ論文を1回すっ飛ばしたりといった保守派を背景とした一部メディアによる「抵抗」がみられたものです。むろん瞬時に制圧されましたけど(笑)。胡錦涛はトウ小平に比べれば明らかに非力ですから、そういう統制不十分な動きが出てくる可能性はあると思います。




 この、

 「核心」扱いする動きがどこまで広がるか。

 という動きがどうしたことか、その後は全く出てきません。逆に、
「一方で残る可能性があります」と私が書いた、

 「胡錦涛同志を総書記とする党中央」

 という従来の表現が、併存するどころかそれ一辺倒のオンパレード状態なのです。特に事実上の最高意思決定機関である党中央政治局常務委員クラス、いわば中国指導部の面々が「核心」を鮮やかにスルーして従来の表現のままで通しています。

 ――――

 まあ時系列で並べてみましょう。いずれの演説(記事・論文)にも、

「胡錦涛同志を総書記とする党中央(以胡錦濤同志為總書記的黨中央)」

 という表現が使われています。まずは意外にもこの人。

 ●温家宝、国家科学技術奨励大会での講話(新華網 2008/01/08/22:26)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/08/content_7387833.htm

 「胡温体制」……と、胡錦涛と併称される温家宝が、深センでの「核心」扱いから1週間も経たないうちに、掌を返すがごとく、しかも他の面々を差し置き一番槍をつけて「胡錦涛=核心」を認知していないことを示してみせたのです。

 お次は江沢民系とされる賀国強。

 ●賀国強、党中央規律委員会学習会での談話(新華網 2008/01/10/21:18)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/10/content_7401149.htm

 そして三番手が何と、汪洋なのです。

 ●汪洋「思想解放・改革堅持で科学的発展観を実践する尖兵の座を勝ち取れ(広州日報-新華網 2008/01/14/10:45)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2008-01/14/content_7418153.htm

 広東省のトップであり、胡錦涛の子飼いである筈の汪洋が、省内の党幹部を前にした長い演説の最後で「胡錦涛同志を総書記とする党中央」と親分の顔を潰す発言です。胡錦涛の宿敵ともいえる李長春あたりが言うのならともかく、温家宝に加えて「団派」のホープですから。あれれ、おかしいな。……と私が感じ始めたのはこのときからです。

 ――――

 その次は演説ではなくコミュニケです。

 ●第17期党中央紀律検査委員会第二次全体会議公報(新華網 2008/01/16/13:01)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/16/content_7431180.htm

 この会議には党中央政治局常務委員のメンバーが顔を揃え、この席上で胡錦涛が重要講話を発表しています。しかし公報では「胡錦涛同志を総書記とする党中央」と、やはり「核心」扱いはされていません。

 深センの劉玉浦演説での「胡錦涛同志を核心とする党中央」が実のところどういう経緯で決められたのかはわかりませんが、胡錦涛が出席する会議で従来の表現が使われたということは、この
「胡錦涛同志を総書記とする党中央」を胡錦涛自身も受け入れたことになるといっていいでしょう。

 これに続いたのが賈慶林。宗教統括組織の成績優秀者を引見する場での演説です。

 ●「新華網」(2008/01/16/19:27)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/16/content_7432957.htm

 そして、お待ちかねの李長春が「5くらい」とか言いつつ軽やかに6ゲト。

 ●李長春、陶涛同志生誕100周年座談会での講話(新華網 2008/01/16/20:04)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/16/content_7433011.htm

 さらに李長春は連投です。

 ●李長春、全国宣伝思想工作会議での講話(2008/01/23/20:11)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/23/content_7482073.htm

 どうやら「核心」扱いはダメ出しされて一発芸に終わり、従来の「胡錦涛同志を総書記とする党中央」で固まったようだ、と私も思うようになりました。

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 その次がある意味で決定的でした。

 ●胡錦涛、北京駐屯部隊の老幹部を慰問する迎春イベントに出席(新華網 2008/01/28/22:05)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/28/content_7513448.htm

 これは演説や公報また論文ではなくイベント取材記事です。このニュースの中に、

「胡錦涛同志を総書記とする党中央の周囲により緊密に団結し、
(中略)……せよと老同志たちは表明した」

 という一節が出てきます。「老同志」の顔ぶれは不明ですが、主催者が中央軍事委員会ですから引退した将官や軍関係の党幹部ということになるでしょう。もちろん中央軍事委は胡錦涛を筆頭にメンバーはズラリと列席。いままでとは系統が異なり、しかも強面の「制服組のイベント」で軍の「退役組」から改めて念を押された(説教された)という意味で決定的ということです。

 そして賈慶林アゲイン。一昨日のことです。

 ●賈慶林、薄一波生誕100周年座談会での講話(新華網 2008/01/28/20:32)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/28/content_7513265.htm

 最後は格下になりますが昨日(29日)の話。山東省のトップである李建国・省党委書記が省人民代表大会常務委員会で行った演説です。

 ●「大衆日報」(新華網 2008/01/30/07:52)
 http://www.sd.xinhuanet.com/zfsw/2008-01/30/content_12353578.htm

 ――――

 ……てな感じで、今月初めに登場した「核心」がそれを打ち消すかのような従来の表現連発で早くも過去のものにされてしまった観があります。

 ちなみに上には記事とURLを並べているだけですが、実際には御家人が泣きながら3万字余りを読破していた(読んでみたけどどちらの表現も出て来なかった記事を含めると6万5000字くらい)ことにちょっとだけ思いをはせて頂けると私はうれしいです(笑)。

 それはともかく、全国ニュースで華々しくデビューした
「胡錦涛核心」が単発で終わり、すぐに指導部クラスの演説で従来の表現である「胡錦涛同志を総書記とする党中央」が次々と用いられて「核心」が一気に葬り去られた、というこの1カ月の動きは、目立たないながらも実に不穏といえます。

 タイミング的に符合する事件は政治面では特に起きていません。ただ経済面では供給逼迫などから穀物・穀物製品の輸出規制措置が1月早々に打ち出され、中旬には異例の行政干与である(中国では毎度のことですが)「価格統制令」という緊急措置が実施されています。

 その他の内政面や外交で特別なポカがあった形跡はありませんから、明らかになっている事象から原因を探すとすれば、経済運営失敗の責任問題で胡錦涛か温家宝(責任でいえば温家宝でしょうが)、あるいはその両人がイジメられた、ということになります。……あくまでも明らかになっている材料限定での推測ですけど。

 
「核心扱い」は国家指導者として事実上ワンランク上に進んだことを意味する重要なバロメーターですから、軽々しく扱われるものではありません。それがようやくゴーサインが出たと思ったらすぐにまた逆戻り、というのは、党中央の勢力図において胡錦涛にとっては望ましくない何らかの変化が発生していることを示唆するものではないかと思います。

 とりあえず、歳末談話や年頭講話などに注意してみる必要があると思います。




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