日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 いやー物価高で悩める中国がとうとう「なりふり構わぬモード」に入りましたね。価格統制令など行政の干与による押さえ込みがそれです。自称市場経済による調節メカニズムや金融政策をいじくったくらいでは実効らしいものが一向に現れず、一方で物価問題が半端じゃない深刻な状況に至りつつインフレ懸念が高まってきたということで毎度お決まりのパワーブレー突入です。ある意味、激変。

 どういうことかといえば、もし20年前の「改革派 vs 保守派」といったころ、つまり権力闘争が現在のような利権ではなく経済政策面で行われていた時代なら温家宝・首相は失脚していたかも知れません。失脚まではなくても任期満了となる3月の全人代で首相解任。解任されずに首相再任となっても巻き返せない限りマリオネット状態。この2008年1月の時点で経済運営の主導権を保守派に奪われて干されていたことでしょう。

 ……という話に入りたいのですがいま体力がありません。時間も十分にありません。そんな訳で軽きに就くというにしてはこれまたちょい重たい話題なのですが、失業者の話……ではなくて就業者の話に取り組んでみます。色々な数字が出てきましたので。

 季節ネタめいてはいますが拾っておく題材ではあるでしょう。

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 2007年、つまり昨年の就業状況について労働保障部が関連統計を色々と出してきました。それによると、



 ●2007年の全国都市部における新規就業者数は1204万人で、年間目標を34%上回る好成績。

 ●都市部失業者の再就業者数は515万人で年間目標を3%上回った。

 ●「零就業家庭」(就業者のいない世帯)の99.9%で最低1名の就業を実現。「零就業家庭」問題は基本的に解決された。

 ●都市部失業登記率も微減。2007年末で4.0%と前年同期比0.1ポイント減少した。

 ●都市部の新規就業者数が1200万人を突破…昨年(新華網 2008/01/21/21:11)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-01/21/content_7466787.htm




 赫々たる戦果のようです。まずは「良かったですね」と言っておきましょう。……でもこれ、やっぱりツッコミどころ満載の発表なのです。

 まずはエントリーのタイトルにあるように、初めて就職した人(新規就業者)とリストラされたけど再就職できた人(再就業者)の数は明示されていますが、新規失業者、つまり2007年に職を失った、あるいは自宅待機などで事実上働き口のない人の数には全くふれられていません。

 失業登記率があるじゃないか、といいますが、これは失業した人がお役所に行って登録申請出して受理された人限定です。この手続きを行っていない人、申請したけど却下された人、自宅待機で実質的な失業状態なんだけど名目上は職を失っていない人、などはここにカウントされていません。

 他にもニートがいますね。最新統計によると2005年時点で1216万人にも達しています。2007年の新規就業者数を上回る規模です。この人たちの多くは失業登記手続きを行っていないでしょう。



 ●ニートが1200万人を突破、社会不安の要因になるとの指摘も―中国(Record China 2007/12/26/13:33)
 http://www.recordchina.co.jp/group/g13998.html

 2007 年12月、中国青少年研究センター、中国人民大学人口発展研究センターは共同で報告書「中国青年人口発展状況研究報告」を発表した。同報告書によれば、 2005年時点で16歳から35歳の3.62%、1216万人がいわゆるニート(NEET)になっているという。新華社が伝えた。

 同報告書によるとニートは3つの類型に分けることが出来るという。第一に「鉄飯碗(鉄のお茶碗、食いっぱぐれないことを意味する)」の終身雇用時代が終わり、中国では転職が一般的になっているが、就職情報の不足もあって離職した後、一定期間無職となっている者。第二に海外留学や大学院受験の準備をしている者。そして最後に労働意欲がなかったり、好条件を求めて就業を拒否している者となる(日本で3番目のカテゴリーだけをニートと呼ぶことが多い)。
(後略)



 ついでに大学新卒者の就業状況もみておきましょう。これは労働保障部というより教育部の縄張りになるのかも知れませんが、卒業生のうち毎年100万人くらいは新卒で就職していないようです。新卒者の就職率は以下の通り。

 1996年:93.7%
 1997年:97.1%
 1998年:76.8%
 1999年:79.3%
 2000年:82.0%
 2001年:90.0%
 2002年:80.0%
 2003年:70.0%
 2004年:73.0%
 2005年:72.6%

 ●「新華網」(2008/01/10/11:27)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2008-01/10/content_7398262.htm

 ……もっとも、中国のような超格差社会(国民の約20%が約5割の富を支配している)では「一人当たり平均可処分所得」みたいな平均値が実情を反映しているとはいえません。この新卒者就職率も同様で、大学や地域、あるいは専攻科目によってかなりバラつきがあるようです。

 「大学院に進むから」「留学するから」就職しない、という人も少なからずいることでしょう。とはいえ会社説明会に大学生が大挙押し寄せたといったニュースは珍しくもありませんし、「僻地の農村で幹部になれ」などの働きかけも積極的に行われていることから、就職氷河期であることは確かでしょう。

 ともあれ「新規失業者数」を含めた肝心の失業人口がスルーされているじゃないか、と指摘しておきます。

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 また、「就業した=生活が成り立つ」とは限りません。

 ●都市部失業者の再就業者数は515万人で年間目標を3%上回った。
 ●「零就業家庭」(就業者のいない世帯)の99.9%で最低1名の就業を実現。「零就業家庭」問題は基本的に解決された。

 ……などといわれても、1人で済む仕事を3人でやらせるようにすれば雇用機会はいくらでも増やせます。ただ給料が3分の1になるだけのことです。それで暮らしが成り立つのかどうか。

 その意味で「零就業家庭」は本当の意味ではまるで解決していない可能性があります。もちろん、就業者ゼロ世帯よりはマシなんですけど、「基本的に解決された」と言われてああそうですかと素直に頷けない部分が残ります。再就職できた失業者にしても同じことがいえます。……まあ労働保障部としては、

「そこから先はウチの守備範囲じゃない」

 ということになるのかも知れませんけど。

 さらにツッコミを入れるとすれば、就業形態ですね。正社員なのか期間限定の臨時雇いなのか、もし後者であれば例えば3月に「新規就業者」または「再就業者」にカウントされた人が9月には失業者に戻っていた、なんてケースも多々あることでしょう。

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 あるいはより重要かも知れないのは、統計ごとに「都市部」が連発されていることです。これは戸籍による区分けでしょうから、農村戸籍の「民工」(出稼ぎ農民)たちは新規就業であれ再就職であれ全くカウントされていないと思われます。もちろん失業登記率の範疇には入っていません。

 「民工」人口は相当な規模になると思われますが、これをカバーしていない統計にどれだけ意味があるのか。とりあえず全容を把握できているとは到底いえない数字であることは確かかと思います。

 ●「記事に書かれていないこと」こそ肝心だったり。(2007/12/25)

 今回はまあ、上記エントリーと同じような作業を就業・失業問題でやってみた、ということになるのですが、ついでに労働保障部が掲げた2008年の年間目標も並べておきます。

 ●新規就業     :1000万人
 ●失業者の再就業  : 500万人
 ●就職困難者の再就業: 100万人
 ●都市部失業登記率 : 4.5%以内に抑える

 ●「新華網」(2008/01/21/15:39)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2008-01/21/content_7464729.htm

 2007年実績に照らせば、意外に控えめな数字となっています。特に昨年は4.0%だった失業登記率が今年は「4.5%以内に抑える」ことを目指せ、となっているのが目を引きます。雇用機会の創出について労働保障部は前途を楽観視することができない、と認識しているのでしょうか。

 経済の動向を見据えつつそういう目標値をはじき出すのでしょうから、都市部が「苦しくなる見込み」なのであれば、「民工」もまた同じような状況に見舞われることになるのかも知れません。ニートが「社会不安の要因になるかも」だとすれば、都市部住民の失業者の可燃度はより高いでしょうし、「民工」の立場は都市部においてより不安定なものとなります。

 ……ええ、もちろん「爆発の一歩手前」などと極端なことは考えませんけど、物価問題での「なりふり構わぬモード」突入を思い合わせても、良い兆候といえないことは確かではないかと。




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