監視社会の到来を懸念する声を無視し、「共謀罪」法の採決強行で幕を閉じた通常国会。もう一つの監視法案、精神保健福祉法改正案は継続審議となった。
相模原市の障害者施設殺傷事件の被告に措置入院歴があったことを受け、患者の退院後の支援を強化する法案。監視強化につながるとして障害者団体などが反対していた。
だが、反対の声が成立を押しとどめたとは言い難い。加計学園問題の早期幕引きを図る与党が国会会期を延長せず、審議時間を確保できなくなったことが大きい。延長していたら、成立していた可能性は高かっただろう。
塩崎恭久厚生労働相は16日の会見で「次の国会で速やかに成立するよう努力しないといけない」と述べた。懸念の声を真剣に受け止める努力こそ求められるのに、やはり聞く耳は持っていないようだ。
結果論にせよ、成立先送りで、法案の問題点を考える時間が生まれた。事件の根底にある差別思想に向き合わず、措置入院制度の見直しで再発を防止するという安直な発想でいいのか。なぜ日本の精神保健医療福祉施策は貧しいのか。考えてほしい。
参院で先に審議された法案は、異例の経過をたどった。厚労省は当初、法案の目的を「事件の再発防止」と説明文書に記していたが、「精神科医療に犯罪防止を担わせるのはおかしい」と野党から批判され、この記述を削除した。
そもそも1月、安倍晋三首相は通常国会の施政方針演説で「精神保健福祉法を改正し、措置入院患者に対して退院後も支援を継続する仕組みを設けるなど、再発防止対策をしっかりと講じてまいります」と述べた。審議段階で改正の目的を削除しようと、本音は見え透いている。
治安維持のため精神障害者を隔離する施策は、1900(明治33)年制定の精神病者監護法にさかのぼる。座敷牢(ざしきろう)の悲惨な監禁実態を調査した東京帝大の呉秀三博士は、「精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の外に、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」と嘆いた。
以来、100年余。地域共生をうたいつつも、なお隔離収容の歴史を乗り越えられないこの国は、さらなる不幸を生んだのではないか。相模原事件の被告の「障害者は不幸をつくることしかできない」との発言に象徴される、極端な差別思想だ。
今の法案のまま成立すれば、精神障害者全体を危険視する風潮を強めかねない。さらに、精神障害者の幸せを願い、入院形態の別なく支援に奔走している保健師や精神科医らの努力に水を差す恐れもある。法案がさらなる差別を生むリスクを直視すべきだ。
(2017.6.20) 47NEWS