風子ばあさんのフーフーエッセイ集

ばあさんは先がないから忙しいのである。

いまどき

2012-09-13 22:30:53 | バス
          バスに乗ったら、空席があるのに高齢の男性がこちらに背を向けて立っていた。
            立ってはいるが、後ろ姿からして、どこか不自由そうな気配が漂っていた。
            
             次の停留所で、彼は降車するのに、あちこちつかまりながら移動した。
                片手はどこかにつかまっていないとよろけるらしい。

             胸のポケットからバスカードを出そうとするが、片手なのでうまくいかない。
               ずいぶんと時間がかかる。
              お手伝いしましょうか、と言おうかどうしようかと迷う。

              多少の障害があっても自立したい人もいるだろう。
            急かされずにゆっくり気長に待ってくれと思うかもしれない。

                   それにしても時間がかかった。
                 運転手さんも待ち長かったのだろう。
              
             ようやく、彼がバスカードをタッチして下りると、すぐにドアを閉めた。
                   
                   閉めたが、またすぐに開いた。
                  風子のところから降車場所は見えない。

                前方に座っていた若い女性が、すっと立ち、慌てた様子で下りていった。
                  続いて運転手さんも下りて様子を見ている気配だった。

                「うるさい! かまうな」
               呶鳴り声がして、運転手さんと若い女性が戻ってきた。

           バスが動きだした。老人が道路に倒れ横たわっているのが見えた。
               先ほどの女性がまた立ちあがった。
               もう一人の女学生も立ち上がった。
               もう一人ものびあがって振り向いた。

             「あなた、一緒に介抱してくれます? わたしも下ります」
          バスは次の停留所まで走ったが、三人の若い女性が声を掛け合いながら下りると、
                小走りになってあと戻っていった。

      いまどきの若いもんは……というが、いまどきもまんざら捨てたものではない、と風子は安堵のため息をついた。