ひまわり博士のウンチク

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姜尚中『母?オモニ?』

2010年07月04日 | 本と雑誌
Omoni
 
母?オモニ?
姜尚中 著
集英社 発行
 
 姜尚中の自伝的小説である。両親は植民地時代の朝鮮から、仕事を求めて日本に来た。しかし、戦時下の日本でまともな仕事があるはずはなく、両親は苦労に苦労を重ねる。
 アジア太平洋戦争が終わり、後の朝鮮戦争で朝鮮半島は38度線で南北に分断された。そして、日本と国交が回復したのは、南の大韓民国であった。植民地時代に日本に渡って来た朝鮮人が母国の土を踏むには韓国籍をとるしかなかった。
 在日朝鮮人たちは、チョーセンと呼ばれる差別から逃れるために、民族名を隠し、日本名を名乗った。
 永野鉄男が姜尚中の日本名である。
 
 戦争で溢れる廃材を転売しようと思いついた廃品回収の仕事が、ようやく軌道に乗ったのは戦後しばらく経ってからであった。
 
 読み書きの出来ないオモニの努力は並大抵でなかったことがわかる。メモをとることさえ出来ないので、商売相手に騙されごまかされることはしばしばだった。
 努力が実を結んで廃品回収の有限会社永野商店になり、永野鉄男は東京に出て大学に行く。
 
 在日朝鮮人はどのようにして日本に定住するようになったのか、そして、どんな暮らしをしてきたのか。この小説は、多くの在日家族一つの物語に過ぎないかもしれないが、日本が朝鮮半島を植民地にしたことが、彼らに、そして日本人にどんな問題を引き起こしたのかがわかる。
 
 この本以前に、姜尚中は『在日』という自伝を書いている。順序からいえばこちらを先に読むべきなのだろうが、読んではいない。こちらはドキュメンタリーなので、一般には本書の方がうけいれやすいだろう。
 
 永野鉄男は学生時代に、決死の思い出日本名を捨て、姜尚中を名乗る。
 
 『今昔物語集』『宇治拾遺集』に登場する陰陽師、安倍晴明の言葉に、「名は呪(しゅ)である」というのがある。
 万物は「名」によって縛られるというのである。実態と名前がどれだけかけ離れていようと、名前の持つ印象は障害ついて回る。
 姜尚中と永野鉄男では印象がまったく違う。やはり、姜尚中は「姜尚中」だ。
 
 戦前の日本は韓国併合で朝鮮人が民族名を名乗ることを禁止した。「半島人も日本人」との号令のもと、創氏改名で強制的に日本名を名乗らせ、天皇に忠誠を尽くさせた。
 姜尚中にとって民族名を名乗るということは、安倍晴明が言う「呪」以上の意味があったのであろう。
 
 オモニは子供たちを育て上げ、波瀾万丈ながら努力が結実して幸せな生涯を終える。しかし、在日としてこのような家族は稀ではないだろうか。
 
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