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夏目漱石『こころ』出版100年

2014年12月09日 | 本と雑誌

 夏目漱石『こころ』初版(レプリカ)。

 昨日は松本清張生誕105年について、半端な周年に意味がわからないと書いたが、夏目漱石の『こころ』を岩波書店が出版して100年というのは実に潔い。
 1914年(大正3年)、夏目漱石の代表作の一つ『こころ』が、岩波書店から発行された。
 岩波書店はそれを記念して、初版を忠実に再現した復刻版を発行し、また、内容のみ初版に忠実な縮刷版も先頃出版した。
 書店には、記念のカバーをかけた漱石の文庫本がずらりと並んでいる。
 
 岩波書店の創業は1913年、岩波茂雄が神保町に古書店を開いたのがスタートである。昨年が100周年で、記念の図書カードが送られてきた。


 岩波書店創業100周年の記念図書カード
 
 夏目漱石は、ずっと自著を春陽堂から出してきていた。岩波茂雄は流行作家夏目漱石の作品を自社から発行したいと考え、漱石を日参して口説き落とし、『こころ』の原稿を手に入れた。
 『こころ』の装幀は漱石自身が手がけている。表紙は、中国周代の石鼓文の拓本を朱色にして地紋に使用し、『康煕字典』にある「心」の項をトリミングして貼付けてある。以後、石鼓文の拓本は漱石の象徴のようになり、岩波書店発行の漱石全集や文庫などに用いられている。
 本体の背表紙下部には「漱石著」とあり、著書には夏目の名字を付けず、「漱石」のみで著すことを好んだ。ちなみに奥付は本名の夏目金之助になっている。
 
 冒頭写真の『こころ』初版はもちろんレプリカである。岩波発行ではなく、近代文学館から「名著復刻全集」の一冊として出版されたものだ。これは神保町の古書店の店頭ワゴンの中に見つけ、ずいぶん安い値段で購入した記憶がある。
 
 夏目漱石の代表作といえば『ぼっちゃん』と『吾輩は猫である』、そして『三四郎』『それから』『』の三部作も有名だ。とくに『ぼっちゃん』は教科書にも掲載されているので、日本人ならほとんどの人が読んでいるはずだ。『吾輩は猫である』は、さまざまなシーンで話題になることが多いので、必要に迫られて読んだという人も多いのではないか。しかし、結構長編なので、途中で挫折したり最初からあきらめてしまう人も少なくない。段落が長く、文字がぎっしりと詰まっている印象が災いしているのだろうか。そのあたりは最近の作家との大きな違いだ。トントンと本の角を机の上でたたくと、活字が隅っこに寄さってしまいそうな本がもてはやされるが、自分的にはなんだか損をしたような気がする。かといって、バルガス・リョサの翻訳本のように、何ページにも渡って改行がなかったりすると、途中で栞を入れるのに困る。
 
 話が脱線したが、夏目漱石の小説は、長編が多く、芥川龍之介の小説ように、昼休みに1編だけ読むという向きには適していない。最近の若い読者には取っ付きにくいかもしれないが、読んでみればそんなに難しいことは書かれておらず、底抜けに面白い。
 
 高校生諸君、古典を嫌わずに卒業までにいずれか一つ読んでみてはいかがか。


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