あるインタビューの謝礼に図書券をいただいたので、以前から気になっていた、こうの史代の作品を買って読んだ。
広島県生まれのこの漫画家は1968年生まれの41歳で、敗戦直後の体験はない。
その彼女が戦時中の暮しを描いたコミックが『この世界の片隅に』(全3巻)である。
軍都、呉を舞台に、銃後と言われた戦時中の一般市民の生活を実によく調べて書き上げている。
着物を解いてもんぺに作りかえるところは、その手順まで描かれている。
女性作家ならではの感覚だ。
玄米で配給される米を、一升瓶の中でついたことは知られているが、そのあとどうやって炊くのかまで紹介したものは少ない。楠公飯などという炊き方があることは初めて知った。
平和な時代なら決して食糧にすることのないものを工夫して料理にする。少ない食材をみんなで分けられる量にする。
それらが、図解入で説明されていて実に興味深い。
これまで銃後を描いた本は多数あったが、マンガにすることで実に分かりやすい。
戦死して家族の元に送り返されてくる骨壺に何も入っていないということは、希なことではなかったと聞く。
この絵のように石ころが入っていたり、紙切れ1枚だったこともあったそうだ。
ネズミがうるさいので天井をはずすという話も出てくる。
焼夷弾が天井でとまるのを防げるとも言っているが、突き抜けて来たらもっと怖いのでは。
そういえば、幼児の頃に親と一緒に訪ねていった親戚の家に、天井がなく、怖がったことを覚えている。
上・中・下3巻あるうち、上と中はもっぱら戦時中の生活に終始していて、これまで知らなかった詳細な描写もあり、興味深かった。
下巻で、主人公は広島に落とされた原爆から終戦を体験する。
自分自身も不発弾で悲惨な怪我を負ったりもしている。
これまでは、やや距離が置かれていた戦火が身近になってくる。
これまでこの時代の風景を描いた作品に触れて来なかった人たちにとっては、下巻は衝撃的かもしれない。
『夕凪の街 桜の国』は手塚治虫文化賞優秀賞・文化庁メディア芸術芸術祭大賞受賞作品である。
舞台は敗戦後10年と現代がカットバックで描かれる。
原爆は助かったと思った人までもじわじわと肉体を蝕んでいく。
また、直接の被害だけでなく、差別という深刻な状況を残した。
主人公は、その両方を体験する。
両作品とも絵が美しい。よくある、これでもかと悲惨さをぶつけてくるような作品ではなく、あくまで日常生活を描き、自然に当時の背景を取り込んでいる。
作家自身が自分で調べ上げた時代背景の中に身を置き、その状況を否定するのでなく(当時の状況に身を置いたら、否定することは出来ない)、あくまで是として描いていく。
したがって、直接反戦的な発言も行動もない。事実だけを追っていくので実にリアルだ。
戦時ものにアレルギーを起す若い読者にも、受け入れられる作品だと思う。
◆追記
この作品には強制連行で工場労働を強制された朝鮮人労働者の記述がない。巻末の参考資料の中にもそれに関するものはなく、意図的に触れなかったのか、それとも考えが及ばなかったのかわからないが、被爆したのは日本人だけでなかったことも加えて欲しかった。
原爆問題はどうしても一方的な被害者意識に偏りがちである。しかし、強制連行による原爆被害は、間接的には日本による加害であることも忘れてはならない。
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