monologue
夜明けに向けて
 



それはいつともしれぬある午後のこと、白黒映画のような世界にわたしは立っていた。まだ小学校に入ったばかりのような少年が近寄ってきてこみあげる笑いをこらえながら「ねえ、おじさん、おかしな話をしてあげる」という。「あのね、あるところに白い犬が二匹いたの。顔が白くておなかも白くて足も白くてしっぽも白い犬としっぽだけ黒い犬。そのしっぽだけ黒い犬がしっぽも白い犬に「尾貸しな」と言ったの。おかしな話でしょ、おじさんもお話してよ」「おじさんはおかしな話は知らないからおかしくンない話をしてあげる。あのね、あるところに白い犬が二匹いたんだ。顔が白くておなかも白くて足も白くてしっぽも白い犬がお菓子を食べているとしっぽだけ黒い犬がしっぽも白い犬に「お菓子くれない?」と言ったんだ。でもしっぽも白い犬はお菓子をくれなかったんだ。おかしくンない話でしょ」「うん、おかしくンなかった」そういって少年は白黒映画の世界からどこともなくかけぬけていった。今度はどこかのだれかにおかしくンない話をしているのだろうか。
fumio

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