monologue
夜明けに向けて
 




《KENさんのショート・ストーリイ》
  
 最終電車に乗り遅れた少年、こんな遅くなってしまってきっと母親は心配しているだろうと思って何とか夜道を駆け出す。1時間もかかって家にたどり着いた時には足は鉛の様に重く、心臓は今にも破れそう。でもやっと家にたどり付けた安心感で急におなかがグウッと鳴った。『お母さん、心配しただろうなあ。だってもう夜中過ぎてるもん』

 『ただいまあ』と大声を上げて少年は玄関の扉を開けた。でも誰も出て来ない。『おかしいなあ』と思いながら少年は家にあがった。『お母さん?』と声をかけても返事が無い。居間の方から賑やかな話し声が聞こえてくる。少年は訝りながら居間の扉を開けた。中では5~6人の男女が楽しそうにお酒を飲みながら歓談している。『あら、ぼうや遅かったわね』と一言母親は言って、・再び歓談に戻った。客人に『今晩は』と挨拶をして少年は自分の部屋に引き上げた。少年は今日もこの独り芝居をやり終えて、疲れた身体をべッドに横たえた。この少年は毎日、ワザと電車に乗り遅れる。そして走って家に帰る。毎日『お母さんは心配しているだろうなあ』とつぶやく。

 そして毎日、母親は一言『ぼうや、遅かったわね』と言う。いつまで、この少年はこの独り芝居を続けるのだろうか?
何の為に独り芝居をするのだろうか?

どうだKENさんのショート・ストー・リイは。いいだろう。


1 DEC 1988
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